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狙う悪意と守る者

 すみません。長いです。4700文字…半分にできなかった…。


 ……暑い。

 あぁ、なんだったかなぁ、あの暑い時に部屋を冷ましてくれる箱。

 この世界の夏は暑いけど、窓を開けたりして風通しを良くすればいい。部屋の中で倒れて死ぬなんて、よほどのことがない限り聞かない。

 あの便利な箱、なんだったかなぁ。

 思い出せないけど、別のこと思い出した。

 私ものすっごく汗っかきで、冬以外は太ももの内側が真っ赤になってた。股ずれってやつで、想像するにとってもふくよかだった気がする。

 甘いの好きだったからかな。

 あぁ、でもそんなことより、どうしてこんなに暑いのかしら。

 そうそう、特に左手。


 「暑いっ」

 とうとう口が動いた。

 と、同時に振り払うように左手を動かし、体を反転させ、ゆっくり目を開ける。

 そこは 下半分にシーツが見え、上は窓と壁。

 「あははは!」

 そこへいきなり笑い声が響いた。

 驚いて跳ね起きると、そこにはガウン姿のままで、なぜか大量の汗を顔に(にじ)ませながらも誰かを指差して笑うキラス様がいた。ただ目だけは心底笑ってないように見える。

 彼女の指差すほうを見れば、ベット脇のそこには、呆然とした表情で私を見て立ち尽くしているシリウスがいた。

 「シリウス?あれ、ここは?」

 どうしているの、とは思ったが、まだ我に返っていないようなので、現在の私の位置を確認する。

 見慣れた寝室のベットの上で、上半身を起こしている私。

 足元のほうでまだ笑っているのはキラス様。

 左側で呆然としているのがシリウス。

 「ごっめんね。ここあたしの部屋だから安心して」

 「え!?」

 「うん、本当にごっめんね。”祝福の大樹”から守れって言われたんだけど、試してみたくなっちゃってさ、あははは!」

 豪快に笑うと、キラス様はばさばさと暑そうにガウンの裾を引っ張る。

 「ねぇ、ちょっとシリウス殿。握ってた手を振り払われたっていっても、そろそろ正気に戻ってくれないかなぁ。ずっとあなたの怒りを甘んじて受けていたせいで、この通り汗だくで気持ち悪いんだ」

 袖口で額の汗も拭き取り、キラス様は反応がないシリウスを諦め、私を見た。

 「着替えていい?」

 「え!?」

 「いや、ベッタベタするし。いいよね」

 そう言って、しゅるりとガウンの帯を解く。

 だらりと帯が腰からぶら下がると、わずかにはだけた胸の下に緑色の魔玉が1つちらりと見えた。

 キラス様は特に気にすることもなく、クローゼットに向かって歩き出した。

 「ま、待ってくださいっ」

 私はあわててベットから降りると、そのままシリウスを引っ張って寝室の外へ急いで出た。

 パタンとドアを閉め、誰もいない控えの部屋でほっと一息つくと、ようやくシリウスが我に返った。

 「あ、エレン大丈夫?」

 「……シリウスこそ。一体何があったの?」

 私が思い出せるのは、キラス様が抱きついてきて、そのまま床に倒れてしまったところまでだ。

 シリウスは私をじっと見てから、そっと肩を抱いてくれた。

 「会議が中断した時、キラスがエレンが倒れたと言いに来た。あいつは”祝福の大樹”からエレンのことを聞いて、守れといわれたのに手を出したと言って、それで、その……」

 言いにくそうに口篭(くちごも)ったので、私はふふっと笑って先を予想した。

 「だから暑かったのね。キラス様も汗だくだったし、私も暑かったわ」

 「エレンには向けてなかったんだが…」

 罰が悪そうに言うが、心配してくれ握っていてくれた手を介して熱が伝わっていたらしい。

 肩に置かれた右手はそのままに、左手か前から回されて、私はシリウスの胸に抱かれた。

 「話はキラスから聞いた。予定通りにいかなくて、すまない」

 「シリウス……」

 それはあなたのせいじゃないわ、と続ける前にガチャリと寝室のドアが開いた。

 くっついてる私たちを見たキラス様は、ぎょっとした私と不機嫌そうに睨むシリウスを交互に見て、にぃっと片方の口角だけ器用に上げた。

 「アツアツだね」

 「うるさい。今度こそ命の限界まであぶるぞ!」

 「嫌だよ。せっかくエリカちゃんから魔力補給したのに寝込むなんて」

 「エレンだ」

 シリウスがイライラしたように訂正すると、キラス様は初めて目に驚きの感情を表した。

 「本当にエリカちゃんじゃないの?」

 よほどのことだったのか、声も動揺している。

 私は抱きしめられた格好のままだったが、こくりとうなずいて自己紹介をした。

 「エレン、と申します。ここではカレンという名前でメイドをしてます」

 キラス様はますます目を見開いて、うわぁっと小さくつぶやいた。

 「どーりでエリカちゃんなんてメイドいないわけだ」

 「……普段から興味のないこと以外は人の話を聞かない奴だと思っていたが、自分の属性の最高の存在である”祝福の大樹”の言葉も聞けんとはな」

 「エとカはあってるし」

 「合ってない!」

 ぴしゃりと叱られて、キラス様は子どものようにぶすっと頬を膨らませて視線をそらしてすねた。

 「あの、どういうことなの?」

 いまいち話が見えない私。

 シリウスは抱きしめる腕を解いて、ちらっと今だすねるキラス様を見てため息をついた。

 「”祝福の大樹”というのはリーンの生みの親で、ファラムの魔法協会の御神木で、特別な木だってことはしってるよね?」

 「うん、前に聞いたわ」

 「その”祝福の大樹”から生まれたリーンは目や耳の役割を持ってるんだ。つまり、リーンが見たもの、聞いたものは隠すことはできずに”祝福の大樹”へと伝わる。だからエレンのことも”祝福の大樹”は知ってる。”祝福の大樹”は世界の安定を求める存在で、例えば人間が竜族や精霊達以上の存在となりうる危険がある時は、彼らに警告を促し、人間には制裁を行うといわれている」

 「竜族って本当にいるの!?」

 さらりと出てきた言葉に私は食いついた。

 シリウスは別に驚きもせず、さも当然とうなずいた。

 「いるよ。ただどこにいるかはわからない。彼らはすんでいる所に特別な結界を張っているから、人間ごときが感知できることはないよ。彼らは気が向いたら人の前に現れるが、だいたい姿を変えているそうだから、出会っても気がつかないそうだよ」

 「そうなんだ」

 「で、話は戻るけど、エレンの存在は”祝福の大樹”にとって保護の対象とみなされたらしい。つまり利用しようと考える悪意から守れ、となぜかそこのキラスが選ばれたわけだ」

 「なぜって”緑帝”だからだよ。結構強いよ、あたし」

 いつの間にか私の真後ろで自分を指差し、ふふんと胸を張ったキラス様に、シリウスはじっと目を細めて睨んだ。

 「”祝福の大樹”に逆らう気はないが、今度エレンに何かしたら本気で攻撃するからな」

 「はいはーい、わかってるって」 

 ひらひらと片手を振ると、キラス様はひょいっと私にしがみついた。

 「あたしはすでに”祝福の大樹”へ”従属の誓い”をたてた身だからね。今更命令に背いて死ぬなんてごめんだし、こうしてあたしが生きてるのも、エレンちゃんに悪意がないって証拠でしょお?」

 「お前は悪意がない分厄介だがな」

 「ひっどいなぁ。あたしだって早急に魔力が必要だったの。今回は特別だってば」

 「ふんっ、どうだかな。とりあえず、離れろ!」

 私と頬擦りしそうなくらい近かったキラス様の顔をはがすべく、シリウスは遠慮なく彼女の右頬の間に手を割り込ませ、私を支えてキラス様の顔をぐいっと押しやった。

 「あたたっ。ひどいなぁ。あたしも女性なんだし、もっと丁寧に扱って欲しいよ」

 押された右頬に手を沿え、非難するように見る。

 「ふんっ。お前に女性の自覚があったとは初耳だな」

 「そりゃあ、あるよ。結構胸もあるでしょ?」

 それは確かに大きい、と私は心の中で同意する。

 ところがシリウスははっと短く吐き捨てて、こう言った。

 「体じゃない、心持ちの問題だ。気に入ったからと男女関係なくベタベタくっついたあげく、興味がなくなったらあっさり捨てる。それにその格好もどうだ。侍女やメイドに注意されないと、面倒くさがって服も着ないし、人の目も気にしないときたもんだ」

 「あなたに言われたくないし」

 ぼそっとつぶやいたキラス様の声は以外に大きく、次の瞬間、シリウスのこめかみに青筋がたった。

 「外へ出ろ。お前の言った悪意を消し飛ばしてやる」

 低い重低音の声に、おもわずビクッとしたが、キラス様は嫌そうに眉をひそめた。

 「ダメだよ。”祝福の大樹”の決定は対話による解決。制裁という名の呪いがかかるよ」

 呪い、と聞いて私は驚いて目を見張った。

 「何なんですか、その呪いって」

 「あ、大丈夫だよ。多分死なないけど、不幸になるかな」

 キラス様はフォローしたつもりらしかったけど、私はますます不安になった。

 「ねぇ、ちゃんと説明して」

 ぐいっとシリウスの腕を引っ張れば、彼はチラッとキラス様を見てから私をじっと見た。

 「エレンを取り込みたいと考えてる奴がいる」

 反射的にビクッと肩が上下した。

 「大丈夫だよ、人間じゃないから自由に動けないし」

 フォローしたつもりのキラス様だったが、疑問を落としていった。

 「人間じゃない?」

 首をひねった私に、シリウスはこくっと小さくうなずいた。

 「人間の欲望に長い間晒されたのか、それ自体が持った感情なのかわからないが、今”祝福の大樹”が懸念している悪意というのは、ここにあるエラダーナの御神木なんだ」

 (あの木が?)

 瞬時に思い出したのは、あの幻想的な淡い光りの中に(たたず)む美しい姿。

 「あたしは”祝福の大樹”の使者としてここの御神木と交渉しなきゃいけないんだけど、昨日の儀式で結構魔力使っちゃったから。さっきはいきなりで本当にごっめんねぇ。でもおかげで満タンだよ。今夜から頑張って交渉してくるからね」

 ほとんど無表情のままピースサインをして胸をはるキラス様。

 それを呆れたように目を細めてシリウスは見ると、すまなそうに私に言った。

 「今のところこいつに任せるしかない」

 「あの、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げた。

 「まかせてぇ。頑張るから。だからエレンちゃんは絶対近づいたりしないでね。あと窓から見たりも禁止ぃ」

 「はいっ」

 まるでイタズラがばれた子どものように、やや上ずった返事をした。

 「でも、御神木はいつエレンのことを知ったんだ?」

 「んー、多分15年くらい前って話だったよ。どうやってかは知らないけど」

 「”祝福の大樹”より先にその情報を知るなんて、おかしなことがあるもんだ」

 どうやら”祝福の大樹”はものすごい情報網を持っているようだ。

 うーんと考えるように腕組していたシリウスに、キラス様は時計を見て言った。

 「さぁて、用件は済んだかな。シリウス殿、もう会議に戻っていいよ」

 「お前も来い」

 「嫌だよ。あたしは魔力回復の為に休んでるって設定なの」

 そっと私の後ろに隠れると、ふふっと笑い出す。

 「ゼヴァローダ殿を説得しに行く時は同行しますから」

 「来るな。よけい困難になる」

 心底嫌そうに断る。

 「ふふっ、そぉ?じゃああたしは自分の仕事だけ頑張るね」

 「死ぬ気でな」

 「怖いわぁ」

 キラス様はひょいっと肩をすくめて見せた。

 「とにかくエレンを頼んだぞ、キラス」

 「はいはーい、まかせてよ」

 ひらひらと片手を振るキラス様に、シリウスはなにやら目を細めて考えていたが、やがてはぁっと諦めたようにため息をついた。

 「エレン、とにかく気をつけて」

 「えぇ、わかったわ」

 大丈夫よ、と微笑めば、すぐ近くから冷やかしの声が聞こえた。

 「いやー、アツアツだねぇ」

 にやにや笑っているキラス様を、シリウスはキッと眼光鋭く睨んで黙らせると、そのまま部屋を出て行った。

 「……おもしろい」

 睨まれて反省したかと思ったら、キラス様はシリウスが出て行ったドアを見ながらにやりと笑みを深めた。

 その顔はまるで新しいおもちゃを見つけた子どものような、どうやって遊ぼうかと楽しげに思案する顔だった。

 

 今週もよろしくお願い致します。

 次は…金曜日は確実に更新しますが、できたらもう1回更新したいです。

 

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