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滞在4日目

 長くなりそうでしたので、半分にしました。

 

 結果を言えば魔力の流れの制御は出来なかった。

 それでもシリウスは毎日同じように、時間がある限り特訓するんだと言った。

 私もそうよね、すぐ出来るくらいならとっくに制御できてるわ、と前向きに頑張ることにした。

 

 夕方、日が傾き始めた頃シーアさんとアトスさんがようやく帰宅した。

 にこにこしたジーアさんが両手に持つ紙袋を差し出した。

 「こっちが日用品が入った袋で、こっちが服だよ。まぁまぁ、こんなに服を選ぶのが楽しいなんて思いもしなかったわ~」

 早速食堂の大きなテーブルの上に、買ってきたばかりの服を所狭しと広げて見せる。

 「恥ずかしかったけど、若い子の多い店に行ったんですよ。どう?エレンさん」

 「こんなに、ありがとうございます」

 「髪結いのリボンもちゃんとあるからね。それから料理する時のエプロンも用意したし、多分買い忘れはないと思うんだけど」

 「ありがとう、ジーアさん。どれもすてきね」

 「いるものがあったら遠慮なく言ってちょうだい。その気になればお部屋の壁紙だって変更しますよ、旦那が」

 「おいおいっ」

 急に話をふられたアトスさんが困ったように笑った。

 「おやおや、あんたが先に言ったんじゃないか。もっと明るい色の壁紙がないかって聞いてたろ?」

 「このおしゃべりめ。ただ聞いただけだ。

 荷台を点検してくる」

 少し照れたように、さっさと出て行く。

 「ずいぶんエレンに構うじゃないか」

 出て行ったアトスさんの後姿にシリウスは笑みをこぼしつつ、ジーアさんに目線を移す。

 「えぇえぇ、そりゃあ構いますよ。なんせシリウス様はさっさと甘えるのを放棄されましたし、頑固だし。そこいくとエレンさんは守ってあげたいって感じのお嬢さんだし、素直だし。

 あたしも旦那もシリウス様が将来連れてくる女性は、多分、派手好きで香水の匂いがして、すましたお嬢様だとばかり覚悟してましたからね。まぁそんなお嬢様はこんな森の中の家なんか、すぐに飛び出して行きそうですがね」

 「そんなふうに思ってたのか」

 シリウスは嫌そうに顔をしかめる。

 ほほほっとジーアさんは笑いながら、

 「噂くらい知ってますよ。もちろんシリウス様が、無理やり押し付けられてるってことは重々承知ですがね。だから最悪な未来を想定して覚悟してたんですよ」

 「最悪って何だ?」

 「つまり、あたし達が出て行かされるってことですよ。お貴族のお嬢様には、下町食堂のあたしの料理は耐えられないでしょうからね。

 それが、まぁ一転!マウリス様も反対なさらなかったし、これで夢が叶います!」

 「出て行かせるわけないだろう。っていうか夢?」

 「はい、そうですよ!」

 ぱんっと両手を胸の前で打ち鳴らした。

 「赤ちゃんですよ!子どものいないあたしらにとって、シリウス様の子どもは孫のようなもんです!今度こそしっかり甘えさせて、子どもらしい子どものお世話をしたいもんです」

 「……その前にエレンが逃げたらどうする」

 「えぇ!?」

 はっと気づいたように、ジーアさんがシリウスの側で小さくなってうつむいてる私に気がついた。

 「お前、応援してるのか?壊そうとしてるのか?」

 「あぁ、そうでした!つい舞い上がってしまって…。エレンさんはこの手の話が苦手でしたねぇ」

 すまなそうに、しゅんとうな垂れて、テーブルの反対側からゆっくり近づいてくる。

 「ごめんなさいね、押し付けた言い方してしまって」

 私ははっと気づいて顔を上げ、ふるふると首を振る。

 「だ、大丈夫です。私も照れずにいられるよう頑張りますし、それにいろいろ問題はあるんですけど、シリウスの側にいられるように努力しますから」

 「まぁっ!」

 感嘆の声を上げ、ジーアさんは両手を広げて私を抱きしめた。

 「身分なんて関係ないですとも!ごちゃごちゃ言われるくらいなら、言わせとけばいいですよ。誓いの申請書さえ出して受理されればこっちのもんなんだから」

 「ジーア、もうその話はいいから。エレン、荷物を部屋へ運ぼう」

 シリウスはジーアさんのおしゃべりは止まらないと判断し、さっさと出された服を腕にかけ、別の袋も持つ。

 「あ、うん。じゃあ、ジーアさんありがとうございました」

 「いいえ、また言ってちょうだい」

 私も日用品の袋を持って、シリウスの後に続いて食堂を出た。

 「全く、ジーアには困る」

 階段を登りながら、ぶつぶつと小言をつぶやく。

 「私ジーアさんの料理好きよ。ゼヴァローダ様のお邸で食べたお料理よりずっと好きだわ」

 「そりゃいい。ジーアは喜ぶよ」

 ははっと笑って話を続ける。

 「元々ジーアは町で食堂をしていたんだ。流行り病で1人息子を失って、アトスは怪我を負って退役して、2人して失意の底にいた時にコーランから声がかかったんだそうだ。俺の世話役としてね。

 コーランは平民出身で、俺の家について疑問を持っていたんだ。3つの幼い子らしくない俺をどうにかしたくて、懇意にしてたアトスのことを思い出した。それであの2人は、それからずっと側にいてくれている。不出来な息子で申し訳ないけどね」

 「そうね。もうちょっと親孝行したほうがいいわ」

 そう返すと、ちょっと驚いたように振り向いて立ち止まる。

 「死のうって思っちゃだめよ。あなたを見てくれてる人は必ずいるんだから」

 ふっと優しく目が細められた。

 「大丈夫。もう死のうなんて思わないさ。どうせならしぶとく生きて、議会の奴らの頭痛の種でいてやるよ」

 「コーランさんも、もっと信用したら?」

 「……彼は副議長だから、いざという時は議会や教会を裏切ることはしないだろう。そういう立場だったから俺が預けられたんだ」

 さぁ、おしまいっとばかりに階段を上り始める。

 主寝室につけば、すでに右の寝室のドアが開いていて、ベットの上に服や袋が置かれていた。

 「じゃあ、俺まだ書斎の片付け残ってるから」

 「あ、うん。ありがとう」

 パタンと閉められた寝室のドアを背に、あらためて部屋を見渡す。

 今は仮の私の寝室だけど、いつか本当に私の部屋になってくれたらいいのに、と心から願った。



 シリウスはその夜遅くまで書斎の片づけをしていた。

 1度やり出すと止まらない性格だとリーンが教えてくれた。

 翌朝朝食後、リーンとシリウスは転移魔法を使って仕事に出て行った。

 午前中はジーアさんに代わって各階の植物の水やりをし、洗濯物を手伝った。昼食はファラムの料理を教えてもらいながら、2人で準備して食べた。その後は夕食の準備を手伝いつつ、時間をみつけてテラスで特訓をしていた。

 テラスにはリーンがいなくとも、昨日と同じくらいの数の精霊がいた。集中して目をつぶっている間も、ぽんぽん飛び込んできては飛び出していく遊びを繰り返すので、気が散るなと「またね」と手を振ってテラスをでたが、よほど遊びたいのか、その日はシリウスが返ってくるまでひたすら付きまとわれていた。

 次の日も同じように過ごした。

 夜はシリウスが手を握って、私の中の魔力の流れを視てくれるが特に変化はないらしい。

 変化といえば、主寝室に移ってから「おやすみ」と抱きしめてくれるようになった。それは人の目もないので、私も少し照れながらもそれに応えていた。

 滞在4日目も変わりない午前中を過ごし、昼食後の片付けの後、あいかわらずつきまとう精霊にも慣れてテラスで特訓していた時だった。

 それまで自由自在にぽんぽん跳ね回っていた精霊達が、ぴたりと動きを止めた。

 「どうしたの?」

 すすっといくつかの精霊は私に近寄り、いくつかの精霊はぴゅーっとガラスをすり抜けて外へ出て行った。

 急に動きがなくなった精霊達に不安を覚えていると、なにやら遠くからジーアさんの声がした。

 「どうしたのかしら?」

 見に行こうかと歩き始めると、10個程の精霊が前を遮るようにささっと回り込んだ。

 「……出て行くなってこと?」

 ぴこぴこ動き出す精霊達を見て、更に不安が募る。

 私はそっとペンダントを握り締めた。

 隠れよう、ととっさに思った。

 精霊達が出るなと言っているなら、この森のようなテラスの中に身を隠すしかない。

 きょろきょろと辺りを見渡すが、身を隠すにはどうにも適していない。

 それでも奥へと歩き始めた時だった。

 びゅんっと何かが横から回り込んで、私の前に現れた。

 私の周りにいた精霊達がぶわっといっせいに離れて、そこに残ったのは赤い(たてがみ)と体をした猫のような動物だった。赤い目でじっと私を見ている。

 どうみても普通の動物じゃないと、一歩後退したときだった。


 「あぁ、本当におったわい」


 少ししゃがれた男性の声に、思わずビクッと大きく肩が震えた。

 バクバクとうるさいくらいに心臓の音が聞こえる。

 猫から目線を外し、不自然なくらいゆっくりとその声のしたほうへ振り向いた。

 痩せ型のご老人。

 白い顎鬚(あごひげ)に長めの白髪、片眼鏡。青紫色のローブを着て気難しげな顔で入り口に立っていたのは、間違いなくコーラン副議長だった。


 


 また明日更新します。

 読んでいただきありがとうございました。


 

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