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帰る方法と家族

 ちょっと長いですが、どうぞ。

 

 

 「大丈夫、実は帰す当てがあるんだ」

 私とリーンのやり取りをしばらく見ていた彼は、ゆっくり立ち上がると、机の引き出しから1通の手紙を取り出した。

 「来週エラダーナで式典があるんだ。あの火山のこともあって、ゼヴァローダが上手く話を進めてくれてて、フェイルの町まで視察に行くことになっている。

 本当はそこで行方をくらませようかと思ってたけど、そこまで行けば騒ぎを起こさずエレンを帰せるはずだ」

 「ゼヴァローダに頼んでエレンを転移してもらったら?」

 「それが、この式典の中に”雷帝”認定の儀式が入ってて、あいつは多分忙しい」

 「ゼヴァローダ様が”雷帝”になるの?」

 それはすごいと喜んでると、シリウスが首を振った。

 「儀式を受けるのは3つの魔玉を持った16才の少年だ。あっちの魔法教会へ”神玉(しんぎょく)”を届け、持ち帰るのが俺の仕事」

 「”神玉”?」

 「そう、ちょうど両手のひらに乗るくらいの玉で、”祝福の大樹”が役目を終えたときに現れるとされている不思議な玉さ。ちなみに世界に数個しかない貴重な宝だ。この玉自体が意思を持ってるかどうかしらないが、その玉が光りを発せれば、最高の存在として”炎帝”、”雷帝”なんかを名乗る事ができる。

 ちなみに儀式参加には条件があって、年は14才以上、魔玉を3つ以上保有していること。例え魔玉を3つ持っていても光らない場合もある」

 「もし、光らなかったらどうにかなるの?」

 「魔力が足りないと判断され、修行してまた挑戦になるだろうね。魔力も安定するのは個人差があるけど、まぁ20才を境に儀式は行われなくなる」

 「修行したら魔力が増えるのよね?魔玉は何か変化するの?」

 「少し大きくなったり、輝きが増すくらいかな。魔玉は生まれ持った魔力が体外に現れたものだから、増えたり、突然現れたりはしない」

 「ゼヴァローダ様の”金の矢”っていうのは?」

 シリウスはちょっと首を傾げた。

 「多分、エラダーナの魔法教会での別名だと思う。聞いた話じゃ、ゼヴァローダも儀式を数回受け、1度はぼんやりと”神玉”も反応したらしい。でも立会いした両議会で議論になって、結局立場的に上なファラム側が却下したらしい」

 「少しでも光ったら認めてくれればいいのに」

 「そうだな。当時ファラムは魔法大国と言われながら、認められた魔法使いが”水帝”しかいなかったし、儀式予定者も10人を下回っていたんだ。そんな時に隣国に”雷帝”が現れるのは立場がない。そんな意図もあったと思う」

 「そういえば、ゼヴァローダ様がこの国は数人の大魔法使いがいるって言ってたわ」

 「あぁ、認められたのは俺と”水帝”が2人、大地の力を持つ”緑帝”にがいる。他にも魔玉を3つ持つ魔法使いがいるから、多分そのことだろう」

 「すごい”緑帝”がいるなら、この国は毎年豊作ね!」

 疎い私でも大地の魔法使いについては知っている。

 大地の魔法は派手ではないが、農業を営む者にとってはまさに神様。

 荒れた大地でも、砂の大地でもたちまち蘇らせ、豊かな実りを約束してくれる。その魔法使いの最高位ともなると、国に1人いるだけで豊作が約束されると言われている。

 「さて、同行申請書の変更だけでも先に出すか」

 早速机に向かって何かを書き出す。

 「あたしがお父様の用事で行けないことにしたらいいわ。それなら人を連れて行くのに問題はないでしょ?」

 「問題はエレンの身元、か」

 じっと私を見たあと、あっと何かを思い出したかのように、机の片隅に積まれた書類をパラパラめくり1枚取り出す。

 「あった、これを使おう」

 「あの…」

 不安げに問いかけると、シリウスは優しく笑った。

 「大丈夫、これでも頼れる知り合いもいるんだ。少ないけど」

 「あら、マウリスに会うの?」

 書類を覗き込んだリーンが顔を上げる。

 「マウリスはベルの兄よ。しっかり者で、似てるのは父親嫌いってことくらいだけど」

 「お兄さん?じゃあ、魔法使いなの?」

 「いいえ、マウリスはただの人よ。ベルディアーナが生んだのは4人。ベルの下には妹が2人いたけど。1人はすぐ死んでしまって、末の子は今も母親と暮らしてるわ」

 「あ、ごめんなさい…」

 妹さんのこと思い出させたかと謝れば、シリウスは意外なほどけろっとしていた。

 「妹のこと?上の妹は会う前に死んだんで、あんまり実感ないんだ。下の妹は10才だったと思う」

 「そう、なの?本当に複雑なお家なのね」

 「当主が面倒な人でね。まぁ、絶対会う必要ないから、エレンはきにしなくていいよ。ただ、兄には会うことになるだろうけど。まぁ、普通の人だから」

 ははっと笑っているが、それって次期当主って人だよねと頭に入れておいた。

 会う前から覚悟しておかないと、緊張してどうなるかわからないから。

 「それで、エレンを今後どうするの?」

 「あぁ、とりあえず俺の家に連れて帰る」

 「え?」

 「あ、大丈夫。家まではこの部屋から転移魔法で帰るから。6時に使用許可は取ってるから、それまでこの部屋にいて。

 そうだ、隣の部屋にそろそろ食事が用意される頃だから、あとから食べようか」

 「あたしが見てくるわ」

 そう言ってリーンは扉の前まで歩くと、わずかに開いて出て行った。

 「リーンって本当に精霊なの?人と変わらないみたい」

 「リーンは力の強い精霊だから、姿も実体も自分で作ってるんだ。特にこの教会内や城、あといくつかの施設の中では、実体化することが契約で義務付けられている」

 それからシリウスは机に向かって、時々私に話しかけながらも自分の仕事をし続けていた。

 疑問はいっぱいあったけど、仕事の邪魔になると思ってできるだけ話さずにいたら、どうして話さないのかと仕事の手を止めて聞いてきたので、村に戻ってからのことを話した。

 「まぁ、ゼヴァローダに頼めないこともないんだけど」

 急に思い出したかのように、シリウスが話し出した。

 「転移魔法って物量と距離に魔力の消費量が比例して大きくなるんだ。ゼヴァローダは天才でね、すごい精密な魔力を扱う事に長けてる。だから今回エレンを頼むとどうしても2人送ったって見つかりやすいんだ」

 「2人?」

 「俺」

 ちょっと恥ずかしそうに目線をそらし、左手で首筋をなぞる。

 「エレンのお母さんにお礼も言いたいけど、何より目の前で謝りたいんだよ。2度目は俺の勘違いからだし、許してくれないかもしれないけど」

 「…そうねぇ。そうかもしれないわね」

 はぁっとため息をつくと、すっきりした顔でこっちを見た。

 「頑張って謝る」

 「そうね。私も一緒に謝るわ」

 「いい。俺1人で謝るから」

 「…そう、じゃあ頑張って。母は怒ると怖いから」

 と、少し脅しておく。

 そこへリーンが戻ってきて、控えの間に用意ができたことを言った。

 隣の控えの間は応接室も兼ねているようで、壁には絵画と、たくさんの本が並んだ棚や、花の生けてある花瓶がおいてあり、中央に大きめのソファが大きなテーブルを挟んで並んでいた。

 「水回りはこのドアの向こうよ」

 「ありがとう」

 テーブルにはおいしそうな食事が並べられているが、やはり1人分とは思えない量だ。

 「ずいぶんな量ね」

 「そう?魔法使いはこのくらい食べるわ」

 「えぇ!?これ2人前くらいありそうだけど」

 「魔法使いって大気中の魔力も吸いとってるけど、体力と同じで食べて体内で変換もしてるの」

 なるほど、それで食料が足りないとリーンが言ったわけだ。

 1度目に転移魔法にかけられた原因を思い出す。

 やや遠慮しながら昼食を食べていると、シリウスがどんどん(すす)めてきた。いわく、すでに私に触ってた時に魔力の補充は済んでるので、そんなに食べなくていいとのことだった。

 やがて机上での執務をこなす彼の邪魔にならないよう、壁のイスに座って本を読んでいた。部屋にあった棚には難しい本もやたらとあったが、挿絵が多いものや図鑑などを見て過ごした。

 そして夕方、2度人が来たのであの狭い引き戸の奥へ隠れたりしたが、どうにか帰宅する時間となった。

 「さて、帰るか」

 立ち上がって大きく背伸びをする。

 「あ、でも転移魔法って人数で使う魔力が変わるって言ってたよね?大丈夫なの?」

 その理屈からすれば、いつも使っている魔力より大きくなり、またコーラン副議長がやってくるのではと思った。

 「大丈夫、コーランも言ってただろ?俺が転移魔法苦手で無駄に魔力を消耗してるって。いつもの量で3人くらい余裕だと思う」

 「あたしは自分で行くわ。ベルの転移魔法は引っ張られるから嫌いなの」

 なるほど、転移魔法にはいろいろ個性があるらしい。

 私は初めに味わったあの気持ち悪い感じや、ゼヴァローダ様の温かい風の転移魔法を思い出した。

 「じゃ、行こう」

 「あたしは、マウリスの申請書が受理されたか確かめてから戻るわ」

 手を振るリーンに見送られて、シリウスの左手で肩を抱かれれば、足元から炎の柱が上がり急に引っ張られた。

 目をつぶって一瞬だった。

 「ついたよ」

 目を開けば、私は石畳の上に立っていた。

 青い芝生の上をゆるやかにカーブしたその先には、ゼヴァローダ様の邸よりずっと小さな木造の3階建ての家があった。ほとんどの壁には蔦がおいしげっていて、家の周りには花がいくつも植えられている。

 家の周りには不釣合いなほど広い芝生の庭が広がり、その先は木々に囲まれている。

 「20でコーランの元から1人立ちしたんだけど、その時兄から貰ってね。ちなみに王都の郊外の外れの森の中だよ」

 「1人で住んでるの?」

 「まさか!コーランの所にいる頃から世話をしてくれた夫婦が、そのまま着いてきてくれたんだ。彼らに紹介するよ」

 普通は部屋にいきなり帰るから、こうして玄関を見るのは久々だと笑い、金の取って丸いシンプルなドアノッカーを叩いた。

 少しして、玄関ではなく、裏手のほうから1人の痩せた男性が姿を見せた。

 白髪がまじった茶色の髪を後ろに撫で付けて、どこかの執事のように落ち着いた顔をしているが、着ているのは野良作業服。刺又(さすまた)を持って現れたが、私達を見ると、大きく目を見開いた。

 「シリウス様!?何されてるんですか!」

 「帰ってきたに決まってるだろ。いつも玄関から入れとうるさいのはアトスじゃないか」

 「そうですが…そちらは?」

 刺又を地面に置くと、左足を引きずるようにして近寄ってくる。

 「エラダーナで俺が世話になった人だ。エレン、アトスだ」

 「初めまして、エレン・カーチェスと申します」

 ぺこりと頭を下げると、アトスさんもあわてて軽く返してくれた。

 「ジーアは?」

 「台所で武装してるかと」

 「武装?」

 どういうことかとシリウスを見上げれば、彼も眉間に皺を寄せていた。

 「なんせ、急な来客は不審人物ばかりですからね」

 はっはっはっと笑う。

 「すぐきま…」

 アトスさんが言い終わらないうちに、玄関の扉がバターンと乱暴に開かれた。

 そこに現れたのは、全身を銀の鍋で完全武装し、両手に大きな肉切り包丁を持った恰幅のいい茶髪の女性だった。鍋の蓋まで膝に巻きつけている。

 それを目の当たりにした私とシリウスは、呆気にとられて立ち尽くした。

 「あら!シリウス様!」

 さっと包丁を手放して、がちゃがちゃ言わせながら近寄ってきた。

 「玄関からお戻りなんて珍しいですねぇ。驚きましたよ」

 「あぁ、俺も驚いた」

 そうですか?と笑うジーアさんがふと私に気づいた。

 「んまぁあ!珍しい!女性をっ…て、あたしにも見えるから人ですよね?」 

 「はい、エレン・カーチェスと申します」

 やや引きつっていたかもしれない笑顔で答えれば、ジーアさんはふっくらした頬を両手で挟んで言った。

 「まぁああ!すぐに準備しますわ!」

 「ジーア!」とアトスさんが呼び止めようとするが、ジーアさんはがちゃがちゃと奥へ走って行った。

 「すみませんねぇ。さぁどうぞ」

 深く頭を下げて手で促される。

 「お、お邪魔します」

 中に入ると、吹き抜けの広い玄関ホールがあり、2,3階部分はガラスがはめこまれていた。

 廊下に敷物はなく、綺麗な木目をした廊下が伸びていた。わずかに木の香りがして、玄関ホールには大きな観葉植物がいくつも置かれていた。

 「左は屋内テラスです。ガラス張りで、精霊様がいらっしゃるので植物園のようになっております。まずは客間へご案内します」

 「あぁ、その必要はない。部屋にいるから、夕食の時に呼んでくれ」

 そう言って目の前の螺旋階段へ歩き出した。

 その後を追って行くが、こつこつと靴が木を叩く音がするだけで、軋む音は全くしないことに気がついた。さすが貴族の邸というべきか、それとも緑の精霊リーンのおかげということか。

 3階まで上がり、シリウスは3つ先のドアを開いて中に入った。

 部屋は寝室と控えの続き部屋で、中には絨毯が引いてあったが、そこかしこに植物が溢れており、屋内にも関わらず天井や窓枠に蔦が伸びていた。

 部屋にはテーブルと一対のソファ、棚が2つだけが置いてあった。

 「この家10いくつか部屋があるけど、だいたいみんなこんな感じだから。こういうの嫌い?」

 「いいえ、なんだかかわいらしくて。リーンがいるからみんな元気なのかしら?」

 「まぁね。おかげで屋内の植物を裏に植え替えるなんてしょっちゅうだよ」

 ローブを脱ぐと、そのままソファに脱ぎ捨てどっかりと座った。

 そんなシリウスを見てて、知らぬ間に顔が緩んでいた。

 「何?」

 「あ、いえ…」

 「あの2人はいつもああだから。見てて本当に退屈しないよ」

 「いい人達ね」

 「俺も1人でいるには限界があったから、まぁ、それなりに信用できる人もいるさ」

 そうよね、とうなずいていたら、バタバタと足音がして、ノックも無しドアが開いた。

 「まぁまぁ、いきなりお部屋へ連れ込むなんて!そんな教育してませんよ!」

 そのままぐいっとジーアさんに腕をつかまれ、引き寄せられる。

 「お部屋は2階にご用意します。シリウス様、夕食後は2階へ出入り禁止ですよ!」

 「はぁ!?」

 「どうしてもの場合は1階客間か食堂でお会い下さいまし」

 それだけ言うとさっさと部屋から連れ出された。

 ちょっとロレンヌ夫人を思い出して、笑いが出そうになった。

 「全く、油断も隙もない」

 ジーアさんはぶつぶつ言うと、ふと私を見た。

 「エレンさんだってね。あたしはジーア。シリウス様が3つの時から世話してる者だよ」

 「よろしくお願いします」

 片手を掴まれているのでうまくお辞儀はできない。

 「エラダーナでお世話になったそうで、ありがとうね。しかし急だったね、まぁ、またシリウス様がどうにかしたんだろうけど」

 深く勘ぐられる事もなく、そのまま食事の準備が途中の食堂へ連れて行かれた。

 すぐシリウスが降りてきたが、ジーアさんにお願いして準備を手伝わせてもらい、ファラムの家庭的な料理が並ぶ夕食を堪能した。

 途中でリーンが戻り、テラスで休むとすぐ出て行ったが、いつものことだとシリウスは言った。

 私の体質の話はせず、エラダーナで重症を負った時に見つけてくれたのが私という話で説明し、どうしてここに来たかは本当のことを言えば、2人は顔色を変えて必死に私に謝った。

 とにかく来週まで数日お世話になると分かってもらえ、私はようやく与えられた部屋で一息ついた。

 行儀悪くソファに横たわり、ややウトウトした頃にノックの音がした。

 「エレン?いる?」

 ややひかえめなシリウスの声に、おもわず飛び起きた。

 ドアを開けると「まいった」といいながら入ってくる。

 「遅くにごめん。ジーアがうるさくて遅くなった」

 「どうしたの?」

 「あ、いや、少し話がしたくて来たんだ。いいかな?」

 ちょっと返事をためらっていると、シリウスがいたずらっぽく笑った。

 「大丈夫、寝室に連れ込んだりしないから」

 「!?」

 おもわず赤面してしまった私を見て、おやっと笑いながら首を傾げる。

 「期待してた?」

 「してません!」

 怒鳴るように言い返して、ふんっと顔を背けてやった。

 読んでいただいてありがとうございます。

 

 明日は未定です…、頑張ります。

 あ、健全な夜です(笑)。

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