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説教と約束

 

 本編の再開です。

 (胃痛の話で昨日9,000以上のユニーク数頂きました(笑)本編14話より多かったです!!)

 「ベル、あなた何したかわかってるんでしょうね?」

 ぎゅっと私を抱く腕に力が入る。

 「他国に無断で転移して、しかも人妻(さら)ってきて」

 「人妻!?」

 驚いて大きな声を出したのは私。

 「え?私間違いなの?人妻って誰のこと!?」

 「エレンのことだ。間違いじゃない」

 「私人妻なんかじゃないわ!」

 強く言い切れば、リーンもおや?という顔になり、シリウスも同じように私を見下ろす。

 「本当に?じゃあ一緒にいたのは?」

 「お見合い相手よ!何勘違いしてるの!?」

 「見合い!?どういうことだ!」

 腕をほどいて、今度は肩を掴んで引き寄せられる。

 怖い目で睨んでいるけど、今の私は彼よりもっと怒っていた。

 「何なのよ!ずっと待ってたのに連絡もなくて、あのドレスだって戸惑ったんだから!放置するなら徹底してよ!で、次はいきなり現れたと思ったらあんな怖い声出して、火も出して、ものすごく怖かったのよ!そして人妻扱いなんてバカじゃないの!?」

 一気にまくし立てる。

 噛み付くような勢いの私に、少し驚いたような顔をしたシリウスだったが、目線を下げてぽつりと言った。

 「すまない…。つい、頭に血が上って」

 「人妻っていうのは何?」

 「あたし」

 リーンの小さな声に目を向けると、数歩近づいてきて頭を下げた。

 「妹達にあなたを見てくるように言ったんだけど、いくつも繋ぎを使って見てきたようで、あたしが聞いた時にはエレンは結婚してるって話になってたの」

 「妹?」

 「あたし、木の精霊なの。妹達はまだ弱いけど、その分自由がきくから。

 ごめんなさい、エレン」

 もう一度頭を下げたリーンに、あわてて言葉をかける。

 「大丈夫、誤解ってわかってもらえたら。それに誤解を真に受けたのはシリウスだわ」

 「まぁ、その…」

 口ごもるシリウスをじっとみつめると、彼はようやく観念したように認めた。

 「すまない、本当に悪かった。ただ会いたくて、誰かといるのを見たらどうにも抑え切れなくて」

 「話を聞かないのはいけないことよ。次から気をつけてね」

 少し微笑んだら、彼の顔がぱっと明るくなった。

 「分かった!約束する」

 「きゃっ」

 そう言ってがばっとまた腕の中に抱きしめられ、頬が当たるほど顔も近い。

 「ベル、早くエレンを隠さないと」

 「あ、そうだった」

 抱いたまま部屋を見渡す。

 「あの、私お邪魔なんでしょ?このまま帰して…」

 「それがすぐにはできないんだ、と。よしここにしよう」

 部屋の壁一面の本棚はローラー式になっており、シリウスは手前の本棚をずらして壁と一体になった引き戸を開けた。長方形の形のそれは、丁度人が入れるかどうかの大きさだった。

 「ちょっと狭いけど、我慢して」

 「私が入るの!?」

 「急いで、エレン」

 部屋の両開きの扉と私を交互に見ながらせかす、リーン。

 全部閉めると真っ暗になるので、少しだけ隙間を開け、本棚も引き戸にかぶるくらいに移動させる。

 「絶対声を出さないで、エレン。いいね?」

 「うん」

 小さく答えると、シリウスは部屋のにある大きな机に向かって歩き出した。

 と、そこへドンドンッと大きなノックが聞こえ、シリウスが目線を上げると同時に数人の人が足早に入ってきた。

 「シリウス!」

 先頭を歩き、怒鳴ったのはゼヴァローダ様の邸で一度見た、コーランという白いひげの人だった。

 その後ろには、青のローブを着た4人の男性が並ぶ。

 「さっきのあの魔力は何だ!何をした」

 「別に。少しイライラしたから気を晴らしただけだ」

 「嘘をつけ!お前の存在が消えたのを確認してるんだぞ」

 やや顔を紅潮させて怒鳴るコーランに、シリウスはいたって無表情に答えた。

 「散歩」

 「やっぱり出て行きおったのかぁ!」

 「休憩くらい自由にとっていいだろ、たった数分外出したくらいで」

 「手順を守ってくれたら怒らんわ、馬鹿者!」

 「あー、わかった」

 うるさいとばかりに、耳をふさいでイスに座る。

 座るといっても横を向いて足を組み、左手で頬杖をつく。

 その様子を見て、コーランはため息をついて後ろに並ぶ人達に言った。

 「外で待て」

 4人は黙って頭を下げて出て行った。

 リーンは私の側に立って見ているだけだった。

 「シャーリーン、甘やかすなと言っているだろう」

 ゆっくりコーランがこちらを向いて、片眼鏡を直した。

 「甘やかしてなんかいないわ」

 「そうかのぅ」

 いまだ顔をあわせないシリウスに向き直り、はぁっとため息をつく。

 「今の散歩とやらはどこまで行ったのだ。あれは転移魔法だろう。お前は転移魔法があまり得意ではないから、無駄な魔力が溢れすぎてすぐ分かる。

 それにこの建物には五重の結界が張られている。それを破って、一体何がしたかったんだ?」

 シリウスは窓の外に視線を落として、何も話さなかった。

 「魔力の痕跡を使い魔に追跡させることもできるんだぞ」

 それでも話さない。

 「エラダーナから帰国してお前がおかしいのはわかってる。もっとも、そう思っているのは片手程だろうがな」

 やはり無言のシリウスを尻目に話を続ける。

 「お前の後見人を10数年してきたわしの感じゃ、お前誰かに惚れたか?」

 「……」

 「図星か」

 見た目変わらないようだが、コーランは満足げに笑う。

 「よし!今度こそ邪魔されんように最新の注意を払って頑張れ!」

 「は?」

 ようやく出たシリウスの声は、随分間の抜けたものだった。

 「お前の親父さんやらが手をまわして随分してやられたが、お前が誰かを好きになるということは、正直もうないと思ってたんだが。そうか、できたか」

 「…何を言ってるんだ、コーラン」

 「気にするな、わしはお前が自分を粗末にしないなら、きっかけは何だっていい。例えそれが一番面倒な恋愛でもな。しかし恋愛なら今回のように、あからさまに相手の居場所を特定できるようなことはするな。すぐ議会が嗅ぎつけるぞ」

 「うるさい!もう出て行ってくれ!」

 「はっはっは!照れるな、小僧」

 そう言ってひらひらと手を振って出て行った。

 残されたシリウスは、机に突っ伏して頭を抱えている。

 「厄介なのに目を付けられた」

 「コーランはここでのあなたの親だもの。話す?」

 「いや、話さない」

 顔を上げ、こっちを見る。

 「エレン、聞いたとおり今すぐ送り帰せないんだ」

 「えぇ!?困るわ!」

 引き戸の中であせる。

 「君のことを知られたくないから手紙も出せなかった。使い魔は出したけど見つかって、それから監視が強化されてたんだ」

 「どうして監視なんて」

 「魔法使いが私利私欲で暴走しないようにだよ。力が強ければ強いほど束縛や監視が厳しくてね、俺は3つでこの教会に入ってからずっとだ。ただ一度の自由もない。全ての行動に監視が付くから、時々仕返ししてる」

 「仕返しするから監視がひどいんじゃないの?」

 「あたしもそう思うわ」

 シリウスの返事はなかった。

 「で、もう出ていい?」

 「あ、ごめん。手を貸すよ」

 両腕を引っ張られるようにして外に出る。

 あいかわらずシリウスが近くに寄り添っていて、それに気づいた私は急に恥ずかしくなった。

 「もう少し離れてて」

 「なんで?」

 あなたが好きって自覚したからなんて言えない。

 「とにかく、ここはどこって聞いていいかしら」

 だいたいさっきの会話で分かったけど、一応尋ねておこう。

 「ここはファラムの魔法教会の本部だ。ちなみにここは4階にある、俺の執務室という名の監禁部屋」

 「さっきの人はゼヴァローダ様のお邸で会った人よね?コーランさん、だっけ」

 「彼は俺の師匠で、この魔法教会での後見人だったコーラン副議長だ。今は成人したから後見人じゃない。昔から口やかましい人だよ」

 「あなたを心配してるのよ」

 「はぁ!?どこが!」

 思いっきり顔をしかめる。

 「あれもダメ、これもダメとずっと言われてきたんだ。いい加減自由が欲しいね」

 「手順をって言ってたじゃない」

 「面倒だ」

 「ダメよ、規則は守らないと」

 シリウスは私の顔をじっと見て、ぷいっと横を向いた。

 「…エレンまで説教するんだな」

 「嫌いになったかしら?」

 「いいや、エレンならまぁ、いい」

 ふふっと笑って私は改めて、この広い部屋を見渡した。

 後ろの壁はローラー式の大きな本棚で、反対側には柔らかそうなクッションのついたイスが3脚。外に向いた南側は金細工の縁をした透明度の高い窓ガラスで、その前に大きな執務机が置かれている。調度品はいくつかあるが、どれも()ったさまざまな()りがされており、中央の大きなテーブルは猫足で、天板にもガラスが使用されていた。

 「あのテーブル見てもいい?」

 「え?あぁ、そのテーブルの天板、色ガラスが使われてて綺麗だよ」

 近寄ってみれば、執務机の2倍はあろうかというそのテーブルの天板には、絵画を模した色ガラスがはめ込まれていた。

 丘の上の大きな木に続く道にローブ姿の人が歩いてる。彼らの手には火、水、雷、風、癒し、大地の力を洗わすものが描かれており、その後ろに手に供物を持った人が続いている。

 「さて、どこにエレンを(かくま)うか、だな」

 「ベル、コーランに事情を話して送りましょう」

 「そして俺はまた更に監視が付いて、エレンも監視されるってわけだ。コーランも議会の人間だ、特に研究者どもがエレンの体質のことを知ったらマズい」

 「ベルディアーナの二の舞ね」

 「ベルディアーナ?」

 知らない女性の名に首を傾げると、リーンがシリウスを見て言った。

 「ベルの母親よ。あたしのお父様に祝福された珍しい人で、そのせいか3人の魔法使いを生んだの。彼女はただの人だけど、そのせいで魔法教会の監視下に置かれて、更に魔法研究者達の興味を引いてしまって大変だったの。今も彼女は監視下のまま、夫ですら自由に会えないような状態よ」

 「可愛そう、旦那様にも会えないなんて…」

 昨日まで会えない気持ちが嫌というほどつきまとっていた私は、本当にシリウスのお母さんに同情したのだけど、彼はくくっと小さく笑ってこう言った。

 「いや、彼女は望んで邸に引きこもっているから心配ないよ。子どもには会えるし、何より元々仮面夫婦だからね。

 教会はこれ以上、彼女が魔法使いを生まないように見ているだけだから、夫が不用意に近づけないのは当然さ。それどころか、それを理由に会うことを拒んでる。のんびりしてるよ」

 つまり清々してますってことだろうか。

 貴族に多い政略結婚とやらだったのだろう。それにしても、魔法使いを3人も生む女性なんてすごい。

 「あの、リーンのお父様って?」

 「魔法教会裏手に広がる森の中にある、”祝福の大樹”と言われてる木よ」

 「ここからは見えるの?」

 「部屋を出て反対側の棟に行けば、少しだけ見えるわ」

 それは残念ね、と話を元に戻すことにした。

 「それで、私はどうしたらいいの?お見合いの途中でいなくなるなんて、また母が心配するわ」

 むしろ倒れるかもしれない、とため息が出る。

 「そうだ、見合い!」

 シリウスが変なところに引っかかった。

 肩を掴んで前かがみに目線を合わせてくる。

 「見合いなんてどうして受けたんだ!?」

 「受けたくなかったけど、その、村長さんが…」

 少し目が細くなる。

 「何もしちゃダメよ」

 「なんで分かった」

 「分かるわよ。まぁ、私もさすがに頭にきたけど、相手の方がいい人だったから…」

 「受けるの!?」

 肩を持つ手に力が入る。

 「い、いえ、ちゃんと断ってくれるって言ってくれたから大丈夫。村長さんも会うだけって言ってたし、断られたならもう言ってこないだろうから」

 「ならいいけど」

 まだ納得していない顔で、一応うなずく。

 「それで、私、どうすればいいの?」

 「あたしはコーランに話していいと思うわ」

 「リーン、黙ってろ」

 「どうして?コーランは助けると言ってたじゃない。悪意は感じられなかったわ」

 シリウスは私とも目をそらすと、ややうつむき加減で難しい顔で考え出した。

 「あたしは精霊だから人の負の感情に敏感よ。それに、ベルから親しい人を遠ざけようとしてるのは、バチェスト公爵じゃない。コーランは彼が嫌いよ」

 「バチェ?」

 「ベルの父親。自尊心が強くて、自分が一番な人。ベルが教会預かりになった時点で、公には親子の縁は切れているけど、いまだに父親面して干渉してくる迷惑な人よ。議会もかなり困ってるけど、一応王家の血筋の者として無碍(むげ)にできないで困っているの」

 「公爵家!?」

 おもわず口元に手を当てて、まっすぐにシリウスを見る。

 その視線に気がついて、彼が顔を上げた。

 「あぁ、大丈夫だよ。さっきリーンが言ったように、俺はもう籍が抜かれてる。魔法使いでなかったら、一般人だ。ただ、名前はだけはまだ改名してないけど」

 「でも…」 

 体は1歩退いたが、想いも重く固まりそうになる。

 「お願いだから」

 真剣な顔をして私の手を口から外すと、そのまま両手で包み込んで片膝をついた。

 「お願いだから、そのことで俺を嫌いにならないでほしい」

 私は一度大きく息を吸い込んだ。

 こうやって誰かに膝をつかれたことなんてなかったから、触れている手に変な汗がでてないか、なんて違う事を考えてしまう。

 「エレン?」

 呼ばれて、やや(うつむ)いていたのに気がついた。

 「あの、だ、大丈夫。私…」

 「ついでにその短気と落ち着きのなさをなおしてくれたらもっと素敵よ、とでも言ってちょうだい」

 「リーン!」

 水を差されたシリウスが怒鳴る。

 「ほら、ね」

 少しだけ目を細めて笑う。

 まだ何か言うのかと睨みつけるシリウスの顔を見て、私も少し緊張が解けた。

 「そうね、少し落ち着いたほうが素敵だわ」

 「エレンまでっ!…あぁ、もうっ」

 がっくりとうな垂れる。

 「ふふ、ごめんなさい。でも怒ったあなたは怖いんだもの」

 「…努力するよ」

 「約束よ。私もさっきあなたが言ったように、身分で嫌ったりしないわ」

 「良かった」

 ほっとしたような笑みを浮かべるシリウスに、私もうなづき返す。

 このやり取りを横で見ていたリーンが、ますます目を細めて笑った。

 「いいわね。エレンがいると素直になる。帰すのが惜しいわ」

 「えぇ!?困るわ!」

 「いえ、本当に惜しいわ」

 さっきまで帰してくれると言っていたのに。

 そんなリーンの態度に、私は本気であわてたのだった。


 読んでいただきありがとうございます。 


 また、ものすごい衝撃的な感想ありがとうございました。

 残念美形が炸裂しているようです。残念すぎるみたいで(笑)。

 では、また明日午後に。

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