春祭り
短いです。
村の広場に一際目立つドレス姿の少女達の姿があった。
場違いなほど目立つ彼女達の周りには、同じ年頃の少女達が知り合いであるなしにかかわらず、そのドレスはどうしたのかと集まっていた。
今度町で結婚式があるのでぜひ借りたい、私も、と口々に話している輪を少し離れて見ていた。
話題が少し落ち着いて、人だかりに隙間が見え始めた頃、アンが小走りに寄ってきた。
「エレンさん、どうしてあのドレス着てないの!」
少し怒ったように口を尖らせて言う。
「大人っぽくて素敵だったじゃない。どうして着てこないのよ」
「いろいろねぇ。次の機会があったら着るわ」
「ふーん」
アンは納得してないようだった。
私は薄い水色のワンピースに、白い華のコサージュをつけてきた。髪はゼヴァローダ様のお邸のメイドさん達に教えてもらったように、ハーフアップして頭頂部少し下でねじってピンで留め、毛先を散らしてお気に入りのビーズがたくさんついた髪飾りをつけた。メイドさん達にしてもらった時より随分控えめになったけど、まぁ村祭りには丁度いい。
ロレンヌ夫人が用意していたお土産には化粧品も一式包まれていたので、薄いものを使って、あのドレスを着なくても十分だと満足していた。
「アン!エレン」
メリーが手を振ってやってきた。
黄色いドレスがよく似合っていて、その横には茶髪の短い髪に、がっしりとした体型、日焼けした顔は彫りが深いが、目元は優しげなアンの長兄のダンが寄り添っていた。
「こんにちは、エレン。アンが世話になったね」
「いいえ」
「あら、エレン。ペンダントが」
言いかけてメリーが、私の大して開いていない襟元から鎖を引っ張る。
「きれいじゃない。出してなきゃ」
「そうね」
あいまいに笑って、やっぱり外しておけばよかったかもと思った。
マナもやってきて、あまり話さないダンが笑顔のまま聞き役に徹してしばらく過ぎた頃、笛や太鼓の音が鳴り出した。ダンスが始まるのだ。
独身の男女別の円を作り、一定のところで左右別に動いて相手を変えて踊る。
決まったパートナーがいる場合や既婚者はその円の外側で踊る。
最初はこうして始まるが、時間がたてば独身既婚関係ないどころか、男女も関係なく踊ってはしゃぐのが一番盛り上がる。
母は食堂が出した屋台で働いており、毎年何人かの人に声をかけられているが踊ったことはない。私も短い時間は踊りに参加するが、夕方には家に帰っていた。
お辞儀をして一言挨拶を交わし手を取り合えば、男性リードでくるくるとゆっくり踊りだす。
男性は年上が多いが、農家の仕事で鍛えられた体と肉厚な少し荒れた手は皆同じ。
少しぼんやりしながら、繋がれた手を見ていた。
一週間近くずっと見ていた手は、日に焼けた色をしていなかったし、荒れてもいなかった。少し節くれだった長い指の手だった。
「…ごめんなさい」
一通り回ってはいなかったと思う。
その時のパートナーに謝って、私は返事も聞かずに輪から逃げるように駆け出した。
一目散に家に帰って、部屋に飛び込んだ。
ハンガーにつるしていたドレスを抱きしめると、そのままベットに倒れ込む。
頬に温かいものが流れるのに気づいて、ようやく自分が泣いているんだと気づいた。
「…好き、なんだ…」
問いかけるようにつぶやく。
それを皮切りにどんどん涙が出てきた。
あの短い間で好きになるのだろうか?
疑問はあるが、踊っている間中思い出してしまってどうしようもなかった。
私は雲の上の存在に恋をした
本日も読んでいただきありがとうございました。