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雲の一生

作者: hiroki26


 小テスト開始のチャイムが鳴り響いた。


私はクラスの一番後ろの端っこの席で外を眺めることに決めた。

遠くの空に入道雲が育っている。生まれたばかりだろう。あの雲の中には一体何があるのだろうか?


鉛筆を握り絞め解答用紙に名前を書いた。


クラスの同級生は皆問題用紙とシャープペンで会話をしている。私は外を見て育っている入道雲と会話をする事にする。


しかし入道雲は遠い、私の声は届きそうにない。


級友は皆会話に苦戦しているようだ。私は入道雲と話したかったが空はさせてくれないそうだ。

鉛筆を手に取り問題用紙の語りに耳を傾けることにしよう。


問一 モダニズムの正しい意味を選べ。


 ①自然界のすべてのものに霊魂が宿ると考える原始信仰。

 ②近代主義。現代主義。


私は雲と会話がしたくて迷わず①に丸を付けた。私の前の級友も解答用紙との会話が弾んでいるようだ。彼もおそらく①を選択しただろう。


問二 インフォームド・コンセントの正しい意味を選べ。


 ①自分の最期を受け入れて、最後まで自分らしく生きること。

 ②説明と同意。十分な説明に基づく同意。


私はもう一度入道雲へと目をやった。空は入道雲との会話を了承してくれたようだ。入道雲は赤子のような勢いで育っている。彼女はまだ生まれたばかりらしく今は眠っているらしい。


隣の級友は天井を見つめている。彼は①に丸を付けたに違いない。私も級友と一緒の①に丸を付け入道雲と会話をする事を決意した。


赤子は少女になっていた。夏に生まれた彼女の成長は早いのだ。

問二の語りに頷いた私は成長した入道雲の少女と会話を楽しむことにした。


「こんにちは雲さん」

「こんにちは何してるの?」

「テストだよ。雲さんは何してるの?」

「あなた達を眺めてるの」

「そうなんだ、うらやましいな」

「いいでしょう。私子供を産むのが夢なんだ」

「雲は子供を産めないよ」

「それじゃあ、どうやって私は生まれたの?」

「それはわからない…」

「そっか、ならいつかかわいくてきれいな子供を見してあげる」

「うん、楽しみにしてる」


雲との会話を終えた私は先生の生き写しとまた会話をすることにした。


問三 空虚の正しい意味を選べ。


①内容がなくむなしいこと。

②悪事・秘密などを暴いて明るみに出すこと。


私は①に丸をつけた。隣の級友は天を仰いでいる。①に丸を付けたのだろうか。

空には暗雲が広がり雨が降っていた。


問四 驚愕の正しい意味を選べ。


①ひどく驚くさま。

②ほころびること。だめになること。


小テストを終えたであろう級友は皆机で眠っている。私は①に丸を付け空を見上げた。

女性になった彼女は頷くと雷を落とした。生き写しの問いもずっと眺めていたらしい。

眠っている級友は皆起き上がり①に丸を付けはじめるだろう。


問五 クローンの正しい意味を選べ。


①生物の個体や細胞から無性生殖で増殖した遺伝的に同一の個体群・細胞群。

②体外受精により任意の遺伝子の組み合わせで誕生する個体群・細胞。


私は①に丸を付け先生のクローンの問いかけを終えた。鉛筆を下ろすと雨もやみ雲一つない夏の空が広がっていた。


小テスト終了のチャイムが鳴り響いた。

私は先生のクローンに別れを告げ青い空を見つめ直した。



遠くには大きくきれいな虹が産声を上げている。


                                 おわり


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― 新着の感想 ―
[一言] テスト内容と雲とが連動している仕掛けが面白かったです。
2012/10/05 17:20 退会済み
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