すべてを忘却するまで眠るがいいさ
「コールドスリープから目覚めたら、どのような未来が待っているだろう?」
壮大な宇宙戦記か、あるいは滅亡した世界の生存劇か。誰しも一度はそんなロマンを抱くものです。
本作の主人公もまた、ドラマチックな展開を夢見てコールドスリープへと入りました。しかし、彼を待ち受けていたのは、作者の都合と予算不足が織りなす「あまりにも予想外な未来」でした。
メタ要素満載でお送りする、少しおバカで軽快なショートショートをお楽しみください
コールドスリープ装置に入ってから何年が経っただろう?いや、案外3日しか経ってないというパターンのストーリーもある。
とにかく僕が人工冬眠装置で眠りたいだけ眠って、その後辿り着いた未来で何らかの発見をするか、とラブルに巻き込まれるか、未来では世界大戦が起きていて僕を冬眠状態から解くどころではなく、たまま忘れ去られるとか、あるいは傭兵部隊の隊員として敵と闘う為に起こされるとか、そういったセンセーショナルな出来事が起きてくれない限り、物語的に僕の生存の意味はないのである。そこで、この小説の作者に僕自ら懇願したのである。
目覚ましのアラーム音ではなく、頭の中に直接響く「カチャカチャ」というキーボードの打鍵音で目が覚めた。
「おい作者、聞こえてるか? 派手なSF戦記か、少なくともゾンビパンデミックくらいは用意してくれたんだろうな?」
カプセルの強化ガラス越しに外を覗き込む。期待に胸を膨らませていた僕の視界に飛び込んできたのは、荒廃した未来都市でも、黒ずくめの傭兵部隊でもなかった。
エプロン姿のたぬきだった。
『お客様、当コールドスリープカフェをご利用いただき誠にありがとうございます。お会計は3時間で二千四百円になります』
「ちょっと待て」
僕は慌ててカプセルの内側から蓋を叩いた。
「3年じゃなくて3時間!? しかもここカフェなの!?」
『はい。当店の“爆睡カプセルコース”をご利用いただきました。延長なさいますか?』
「延長の問題じゃない! 僕のドラマチックな未来はどうなったんだよ! 世界大戦は!? 忘れ去られた冬眠者は!?」
『あいにく当店、徒歩2分圏内に交番もございますので平和そのものでございます』
頭の中で「チッ」と舌打ちする音が聞こえた。作者だ。間違いない、今あいつ「尺が足りないから日常系でいくわ」って諦めたな!?
「ふざけるな作者! せめて! せめて僕を狙う刺客の一人くらい出せ!」
僕が叫んだ瞬間、カフェのドアが盛大に蹴破られた。
『動撃の傭兵団だ! 全員動くな!』
ついに来た! これだよ、これ! 僕はニヤリと笑い、カプセルから飛び出した。
「待っていたぞ傭兵! さあ、僕をどんな戦場へ連れて行くつもりだ!?」
銃を構えたコワモテの男が、じろりと僕を見た。
『……あ? 何言込んでんだお前。俺たちはこの店の“猫の手も借りたい超繁忙期”に雇われた単発バイトの出前部隊だ。おい新入り、お前も起きならピザ配ってこい』
「傭兵の仕事、Uber Eatsかよ!!」
作者の「これで満足か?」というドヤ顔が目に浮かぶ。僕の未来は、戦場よりもはるかに過酷な時給千二百円の配達員から始まることになった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
本当は宇宙規模の壮大なSFを書くつもりだったのですが、予算とページ数の都合(そして作者の力量)により、平和なバイト生活が始まってしまいました。
主人公には時給千二百円で頑張って働いてもらおうと思います。
少しでもクスッとしていただけたら、評価やブクマで主人公にボーナスを支給してあげてください




