【閑話:庵(あん)の孤高なる順番待ち】
いつも『アニマル特区シリーズ』をお読みいただきありがとうございます!
今回は、前回のクリスマス水着サンタステージの裏側で同時に起きていた、海洋班メンバーによる公式スピンオフ(閑話)をお届けします。
主役は中二病ミニマリストのヤドカリ、庵くんです。
語尾に「〜ネ」を連発するいい加減な彼の視点から、ガチの純愛(恐怖)でホタテを追い回す巨大イカのケンさん先生や、美を追求しすぎて勝手に自滅するサンゴのコウちゃんなど、海側新キャラたちが大自然の中で大暴れしております。
ガチで美しい深海のファンタジー絶景と、そこで繰り広げられる戦闘度0%のシュールなズッコケの落差に、ぜひポリポリと「お茶と漬物」を摘むような感覚で、のんびりにやにやと癒やされていってくださいネ!
ヤドカリの庵は、元々「南の海に眠る伝説の巻貝」の伝承をいい加減に知っていたネ。
QOL(生活の質)を極限まで高める究極の新居を求め、事前に特区の長老の家を訪ねてその詳細を聞き出していたのだが、今回は三人娘たちのオーストラリア修学旅行の付き添い。
勝手な単独行動などできるはずがなかったネ。
――が、チャンスは突如として訪れるネ。 ビーチでハレンチな暴挙(水着サンタステージ)を働いたペンタに向け、大海蛇のリヴァ先生が怒りの「尾ビレ一閃(モーセの奇跡)」を炸裂させたのだ!
空間ごと叩き割られた青い海がみしみしと左右に割れ、地肌剥き出しの海底ルートが爆誕。
庵は「フッ、世界が僕のQOL(引っ越し)を祝福しているネ」と、運よくどさくさに紛れて海底へと離脱したネ。
そこは、人間の歴史から完全に切り離された、息を呑むほどに美しく、神秘に満ちたロマンあふれる深海の世界だったネ。
遥か古代に水没したとされる、エメラルドグリーンの苔とサンゴに彩られた壮大な【海底神殿】。
幾千の時を超えてなお金銀財宝を抱いたまま眠る、いにしえの【巨大な沈没船】。
壁一面が七色のプリズム光を放つ魔力結晶で埋め尽くされた【光るクリスタル洞窟】。
さらには、淡いエレクトリックブルーに自転発光する巨大なダイオウイカの群れや、星屑のような光を纏って優雅に舞う見たこともない深海メンダコなど、ファンタジー好きなら誰もが驚喜乱舞するほどの神秘が、360度のパノラマで広がっていたネ。
しかし、全裸の庵は無駄に前髪(触角)をかき上げ、どこか遠くを見つめながら、それらのロマンあふれる大絶景には一切目もくれずに、中二病全開のミニマリズムを響かせたネ。
「……フッ、この俗世の青は僕のラッキーカラーではないネ。
これほど情報量が多い海底は、僕のQOLを著しく損なうね。長老の言葉が真実なら、僕はただ、世界の果てに眠る伝説の巻貝『ゲヘナ・トパーズ』の、ミニマルで孤高な輝きを求めるのみネ……」
「庵! 格好つけてないで後ろ後ろ! クラーケンのケンさん先生がすぐ後ろまで来てるわよ!」
庵のすぐ近くでは、彼が勝手に「パーティ(PT)」に見立てた海側メンバーたちが、それぞれの限界突破した欲望のままに大暴走を繰り広げていたネ。
「待ちなさぁ〜い高倉くぅん。クリスマスの夜ですもの、先生の温かい触手で、じっくりと殻の奥までトロトロにして愛でてあげるわよォ❤️」 大人の色気をねっとりとムンムンに醸し出し、無数の触手をうねらせて襲いかかる巨大イカ女教師のケンさん。彼女はハラスメントではなく、本気でホタテを愛でようとガチの純愛(物理)で迫っていたネ。
「自分、不器用ですから……(絶対に開けません!)」 貞操と命の危機を感じたガチムチなホタテの高倉くんは、殻の密閉度をマッハ3に固定してガチガチと激しい金属音を立てながら、本気も本気、文字通り死に物狂いのジェット噴射で海底神殿の柱の間を爆速で逃げ回っているネ。
「キリキランッ!(愛の重さに軋む殻の悲鳴)」
その本気のチェイスの傍らでは、サンゴのコウちゃんがピコピコと優しく繊毛を動かして海底を泳いでいたネ。
美意識がやたらと高いおマセなめすこどもの彼女は、沈没船の隙間から剥き出しになった真珠や、光る洞窟のクリスタルにすっかり目を奪われていたネ。
「わぁ、あっちの真珠も美しぃ❤ こっちの珊瑚も美しぃわぁ〜❤」
完全に観光気分であちこちへと優雅に移動を繰り返していたコウちゃんだったが、神秘的な深海生物たちが優雅に泳ぐ中で美を追求しすぎた結果――。
「ウッ、あたいのサンゴ礁が攣る……ッ! 足(?)が攣って動けないわァァウッ!」
クリスタル洞窟のド真ん中で無残に悶絶し、一瞬で前線離脱していったネ。
阿鼻叫喚の地獄絵図の中、庵は前髪をかき上げながら思ったネ。
(……なるほど、これは僕の旅を彩る、世界のシステムが用意したパーティ(PT)かネ。
本気で貞操を守るガチムチな【盾のホタテ】
、美意識が高すぎて勝手に足の攣る【魔法使いのサンゴ】、
配置的に後ろから迫る圧倒的な【暴力の化身(魔王)のイカ】。
……正式メンバーに誘った覚えはないけれど、孤高の【勇者(俺)】を飾るには、まあ、悪くないお膳立てネ……)
RPGの勇者PTのような重厚な布陣。
しかし、ここにはガチの戦闘など存在しなかったネ。
高倉くんたちはただのガチ純愛チェイスと足の攣りという、本編の『かき氷食べ放題』と噛み合わない海底暗黒サスペンスの波にそのまま流されていたネ。
一人残された勇者(庵)は、神秘の深海の最果てで、ついに孤高の輝きを放つ新居「伝説の巻貝」を発見するネ。
「ついに見つけたネ……僕のQOLの頂点がここに――」
庵が殻(全裸)を滑り込ませようとしたその瞬間、巻貝の中から
「……あ、すいません。今ここ、僕が入んでます」と、先客のヤドカリが顔を出したネ。
「な、何っ……!? 先客だと……ッ!?」
激しく動揺する庵ネ。
(……奪うか!? フッ、強奪だなんて僕のミニマルな趣味じゃないけれど、やるしかないのかネ……? この世は弱肉強食。強い者だけが最高のQOLを手に入れる……くっ、僕の中の暗黒の勇者の血が騒ぐネ……!)
一丁前にシリアスな葛藤を繰り広げ、宿命のバトルが勃発するかと思われたその時、先客のヤドカリがのんきにアクビをしながら、深海の驚くべき情報を教えてくれたネ。
「あ、そんなに睨まなくても大丈夫ですよ。はっきり言って、この巻貝自体は5年に1回生まれるシステムなんで、深海ではむしろ普通なんです。ただ、数百年前に開催された【20年に1回の『美しい物グランプリ』】で、この巻貝の初代が初めて優勝に輝いたから、地上では伝説扱いされてるだけなんですよね。
今ここに住んでる僕はその直系の分身みたいなものなんですけど……まぁ、あとちょうど1年すれば、次の新しい巻貝がここに生まれますよ。それがまたグランプリに輝けば新たな『巻貝伝説』になりますけど、そこは誰にもわからない世界ですね」
先客のヤドカリが語ったその情報に、庵はハッと己の狭い固定観念を恥じたネ。
「……っ! 伝説の巻貝が、この世に1つだけだと誰が決めたネ……ッ!?」
あと1年で新しい新築物件が生まれ、それが新たな伝説の器になる幕開けかもしれないのなら、わざわざ野蛮な強奪などというQOLの低い真似をする必要はどこにもないネ。
「フッ……いいだろう。真のミニマリストとは、時間すらも優雅に消費するものネ。あと1年なら、ただの行列待ちのようなものネ。僕は次の新築がグランプリに輝く瞬間を、ここで静かに『順番待ち』することにするネ……」
庵は全裸のまま海底の砂浜に体育座りを決め、行列の先頭に並ぶかのように孤高に目を閉じたネ。
――が、その刹那、庵の脳細胞が重大なタイムラグ(計算)を弾き出したネ。
(待つネ。新築が生まれるのはあと1年。だけど……次の『美しい物グランプリ』が開催されるのは、あと【18年後】……。
え、僕、次の伝説をこの目で証明するために、全裸体育座りのままここで18年も行列に並ぶの……? さすがにそれは、僕の人生の残り時間として情報量が多すぎるネ……?)
カッコよく目を閉じたはずの庵だったが、その顔はみるみるうちに冷や汗が流れ、全裸体育座りの姿勢のまま、なんとも言えない
「めちゃくちゃ微妙な絶望の顔」に強制変換されて固まってしまったネ。
戦闘を一切しないまま、これ以上ないほどシュールで平和(?)に庵の新居探し(冒険)は終了したのであるネ。
――ズズズズズ……。 まさにその時、地上のクリスマスステージの終了とシンクロするように、真っ二つに割れていた海がゆっくりと元の姿に戻り始め、潮が満ちてきたネ。
「あら、そろそろ修学旅行の門限(時間)だから、地上へ戻るわよぉ〜」
巨大イカ女教師のケンさんが、無数の触手をうねらせながら夜の深海に声を響かせたネ。
その触手の中心には、マッハ3の逃走も虚しく、クリスマスプレゼントとして殻の奥までがっちりとホールドされ、
「結局捕まった高倉くん」が虚無の絶望顔で挟まれていたネ。
「わぁ〜ん、あっちの光るサンゴも真珠も、もっと見たかったのに名残惜しぃわぁ〜❤」
めすこどものコウちゃんは、まだ足(サンゴ礁)を引きずりながら、おマセな顔でプンプンと怒っていたネ。
キリキラン、18年全裸待ちの絶望計算に脳のヒューズを完全に焼き切られた庵は、全裸体育座りの姿勢のまま、
「めちゃくちゃ微妙な絶望の顔(白目)」の状態でケンさんの触手に荷物のように引きずられ、ずりずりと地上へと強制送還されていったネ。 ザバァァァッ! と、水色のプリズムを散らしながら、ハレンチな水着サンタステージの余韻が残る浜辺へと上陸した海底組。 そこへ、かき氷を食べ終わったアオイちゃんたちが笑顔でタタッと駆け寄ってきた。
「あ〜! みんな、どこ行ってたの〜? もうすぐお片付けの時間だよ!」
コトネ総長と宗教ユズちゃんの覇王色によって、軍隊さながらに「ガチョンッ!」と一糸乱れぬ直立敬礼のまま整列させられている何万人ものモブ民たち。
その異様な整列の列の端っこで、庵だけは一人、砂浜の上で前髪(触角)をガタガタ震わせながら、夕日の沈むオーストラリアの海に向かって、心の中で熱く大言壮語するのだった。
(……フッ、今回の引っ越し(冒険)は、僕のミニマリズムのほんの前哨戦に過ぎないネ
。この世界のどこかに、僕のQOLを1000%満たす、真の『次なる宿完全版』が眠っているはずネ……。僕は諦めない、孤高の勇者として、真のラグジュアリーな新居を探す決意を、今ここに――)
「お前はまず服を着るネ。関わるとこっちのIQまで3に下がるネ」
いつの間にかリヴァ先生の頭の上、一番安全な場所に陣取っていたボル(インコ)が、全裸で大言壮語する庵の頭を処刑ハリセンでスパン!とシバき倒し、アニマル特区の聖夜は最高のハッピーエンド(カオス)と共に、静かに更けていくのだった。
(おわり)
最後までお読みいただきありがとうございました!
今回はクリスマス本編の裏側、名付けて「お茶と漬物」のような、シュールな脱力系の閑話をお届けしました(笑)。
ファンタジー好きの脳汁が出るような海底神殿や沈没船の絶景を描写しておきながら、登場人物たちがやっていることは戦闘度0%の「ガチ純愛チェイス」と「足の攣り」、指示通り、まさかの「新築物件の18年全裸行列待ち」。
人間界の狭い常識や悪巧みが、圧倒的な自然界のルールとアニマルたちのピュアな本能の前に通用しないという、そんな世界の真理(?)を今回も庵くんの絶望の白目顔に込めてみました。
ボルのド正論と庵のいい加減な「〜ネ」のシンクロなど、書いていてにやにやが止まりません。
そして……明日はいよいよ本編の最新作、オオカミ少年こと『大源宗吾(小6)の少年政治家編』を投下いたします!
箸休めで胃袋をリフレッシュした読者のみなさんの腹筋を、これまたとんでもない不条理な国策オチでブチ抜きにいきますので、ぜひ楽しみに待っていてくださいネ!感想、評価、ブクマなどいただけますと、作者のエネルギーが限界突破しますので、ぜひよろしくお願いいたします!




