壊したいもの
東京、夜。湾岸第七高架道路の崩落は、ただの事故ではなかった。黒煙と炎の向こうに立つ、異形の黒い鬼。その噂はSNSを駆け巡り、地下格闘場では紫の瞳をした少年の伝説が静かに燃え広がる。街は二つの鬼の影に震えていた。
2045年10月7日 午後7時14分
東京。
夜の街は、数日前の湾岸事件をまだ忘れていなかった。
巨大ビジョン。
駅構内モニター。
ニュースアプリ。
動画配信サイト。
SNS。
どこを見ても、話題は同じだった。
湾岸第七高架道路。
違法KAMEN組織。
炎上した輸送車。
崩落した高架。
そして、“黒い鬼”。
都内ターミナル駅の大型モニターでは、女性キャスターが緊張した声で原稿を読み上げている。
「湾岸第七高架道路付近で発生した大規模違法KAMEN事件について、警視庁は現在も逃走中の違法装着者数名の行方を追っています」
「なお、現場で確認された未確認装着者については、現在も詳細不明であり――」
映像が切り替わる。
黒煙を上げる輸送車。
倒壊した高架の一部。
規制線の向こうで点滅する赤色灯。
そして、手ブレの激しい動画。
燃え上がる炎の向こう。
ほんの数秒だけ映る、黒い人影。
止まったように見えるほど低い姿勢。
異様に太い腕。
頭部から伸びる角のようなシルエット。
次の瞬間、映像は大きく揺れ、誰かの悲鳴が入る。
『うわ、待て、待て待て待て!!』
『あれ何だよ!?』
『逃げろ!!』
動画はそこで終わる。
だが、問題は終わった後だった。
「また消された」
「三回目の再投稿なんだけど」
「アカウントごと消えてる」
「政府、隠してるだろこれ」
「軍の新型KAMENじゃね?」
「いや、人間じゃない」
「黒い鬼ってマジでいるんだ……」
SNSでは、“黒い鬼”の目撃情報が無数に飛び交っていた。
“湾岸の炎の中に立ってた”
“違法KAMENを素手で潰してた”
“赤い目だった”
“あれ絶対人間じゃない”
“口から蒸気出てた”
“トラック殴り飛ばしてた”
真偽不明の情報。
加工された画像。
ぼやけた動画。
匿名掲示板の書き込み。
けれど、誰も完全には笑えなかった。
実際に何かがいた。
それだけは、あの場にいた全員が知っている。
違法KAMEN装着者達の間でも、“黒い鬼”の名前は急速に広がっていた。
湾岸エリアの裏市場。
違法改造パーツを扱う倉庫。
地下の武器売買所。
薄暗いバーのカウンター。
そこかしこで、低い声が飛び交う。
「聞いたか。湾岸で新型が出たらしい」
「軍用か?」
「違う。軍の動きじゃねえ」
「じゃあ何だよ」
「知らねえよ。ただ、あの場にいた連中、何人か消えた」
「……消えた?」
「ああ。死体すら残ってねえ」
酒を持つ手が止まる。
誰かが乾いた笑いを漏らした。
「ハッ、どうせ尾ひれだろ」
「違法KAMEN相手に素手で勝てる奴なんかいるかよ」
「……いたんだよ」
空気が止まる。
その場にいた一人が、震える指で煙草を押し潰した。
「俺の知り合い、湾岸にいた」
「そいつ、腕を片方潰されて帰ってきた」
「そいつが言ってた」
『最後に立ってたのは、人間じゃなかった』
『黒い鬼だった』
◇
だが。
東京の闇の中では、もう一つ別の噂も広がり始めていた。
それは、“黒い鬼”とは別の話。
もっと静かで。
もっと不気味で。
そして、もっと血の匂いがする噂。
地下格闘場。
違法KAMEN賭博。
裏社会の依頼人達。
夜の街に生きる人間達の間で、最近ある名前が囁かれていた。
「最近、夜の地下格闘場で、紫の目をした男が暴れてるらしい」
「違法KAMEN装着者を何人も半殺しにしたとか」
「相手の骨、全部折ってるってよ」
「しかも武器もほとんど使わねえ」
「やったの、銀髪のガキらしい」
「……ガキ?」
「ああ。細くて、背の高い男」
「無茶苦茶強いくせに、顔色一つ変えねえ」
「目だけが、異様に冷たいらしい」
薄暗い路地裏。
違法義肢の売人が、小さく唾を飲み込む。
「俺、見たぞ。一回だけ」
「夜だった」
「相手は違法KAMEN装着者三人」
「でも、そいつ、一人で全員潰した」
「しかも……」
「しかも?」
売人は少し黙り込む。
そして、思い出したくないものを吐き出すように、低い声で言った。
「最後、一人の顔を踏みつけながら笑ってた」
「でも、その笑い方が……人間の顔じゃなかった」
夜風が吹く。
誰も口を開かない。
遠くでパトロールドローンの音だけが響く。
東京では今、“鬼”の噂が二つ生まれていた。
炎の中で暴れた、黒い鬼。
そして。
夜の街を静かに壊して回る、紫の鬼。
まだ誰も知らない。
その二つの鬼が、やがて同じ夜の中でぶつかることを。
午前9時08分
鬼城家。
二階の一番奥。
薄暗い部屋の中で、大和は天井を見上げたまま動けずにいた。
カーテンは閉め切られ、部屋の中には朝なのか夜なのかもわからない灰色の光だけが滲んでいる。
制服は床に落ちたまま。
机の上には、昨日学校から届いた電子連絡端末が点滅していた。
『本日の出席状況』
『鬼城大和:欠席』
それを見ても、大和は何も感じなかった。
体中が痛い。
肩。
胸。
腹。
脚。
少し動くだけで、昨夜殴られた場所が鈍く軋む。
特に右腕だけは、明らかにおかしかった。
大和はゆっくりと包帯をほどく。
その下から現れた右腕には、赤黒い線が浮かんでいた。
血管みたいに。
ひび割れみたいに。
肘から手首にかけて、何本もの赤黒い筋が皮膚の下を這っている。
まるで、自分の腕の中に別の何かが根を張っているみたいだった。
「……何だよ、これ」
声は掠れていた。
指先で触れる。
熱い。
火傷みたいに熱を持っている。
ズキ、と痛みが走る。
その瞬間。
頭の奥で、低い声が響いた。
『痛いか?』
大和の肩が震える。
『でも、昨日はそんなの気にしてなかった』
『殴った』
『壊した』
『潰した』
『お前、笑ってたぞ』
「……違う」
『違わない』
『気持ちよかっただろう?』
『誰にも勝てなかったお前が、初めて全部を叩き潰せた』
『初めて、自分の方が強かった』
「黙れ……」
大和は右腕を押さえる。
だが、声は消えない。
頭の奥に、昨夜の光景が蘇る。
炎。
黒煙。
自分に向かってくる違法KAMEN。
拳を振るった瞬間。
硬い装甲が砕ける感触。
骨みたいな嫌な音。
吹き飛んだ相手の悲鳴。
そして。
逃げようとした相手を、自分が追いかけた瞬間。
あの時、自分は確かに思った。
もっと。
逃げるな。
まだ終わってない。
もっと殴らせろ。
「……っ!!」
大和は頭を押さえ、息を荒くする。
違う。
自分はそんな人間じゃない。
そう思いたい。
でも、完全には否定できない。
あの時、自分の中には確かに高揚があった。
誰にも勝てなかった自分が。
ずっと見下されてきた自分が。
初めて、相手を圧倒した。
その感覚が、脳の奥に焼きついて離れない。
『また戦いたいんだろう?』
『もっと壊したいんだろう?』
『お前は、ああいう場所でしか生きられない』
「黙れッ!!」
大和が叫ぶ。
次の瞬間、部屋の隅に置かれた黒い鬼面がわずかに赤く光った。
低い駆動音。
脈動するような赤橙のライン。
まるで、生き物みたいに。
大和は息を切らしながら、それを睨む。
昨日まで、自分は弱かった。
誰にも勝てなかった。
父にも。
兄にも。
クラスメイトにも。
世界にも。
でも、GOUを手に入れた瞬間、自分は強くなった。
強くなってしまった。
その代わりに、自分の中の何かが壊れ始めている。
そんな気がした。
◇
午後0時41分
教室。
湾岸事件の話題は、まだ学校中に残っていた。
教室の大型モニターには、昼のニュースが流れている。
『湾岸事件に関連し、警視庁は現在も違法KAMEN組織の摘発を進めています』
『なお、現場で確認された未確認装着者については――』
教室のあちこちから、興奮混じりの声が飛ぶ。
「黒い鬼ってマジなんかな」
「動画見たけど、あれCGじゃね?」
「でもさ、消されまくってるらしいぞ」
「軍の新型KAMEN説あるって」
「いや、口から蒸気出してたらしい」
「人間じゃねえだろ、それ」
笑い声。
冗談半分の声。
けれど、その奥には確かな恐怖が混ざっている。
窓際の席。
結菜は何も言わず、外を見ていた。
白閃は回収され、今日は予備用の簡易KAMENケースだけが机に置かれている。
頬の浅い擦り傷は、まだ消えていない。
友人が何か話しかけても、上の空だった。
あの夜の炎。
崩れた高架。
黒い鬼。
赤く光る眼。
結菜の頭の中には、そればかりが残っていた。
その時。
教室の扉が開く。
一瞬だけ、空気が止まる。
大和だった。
休むと思われていたのか、数人が意外そうな顔をする。
「うわ、鬼城来た」
「顔色やばくね?」
「またボコられたんじゃね?」
小さな笑い声。
大和は何も言わない。
ただ、自分の席へ向かう。
右腕には長袖の下から包帯が覗いていた。
歩き方も少しぎこちない。
結菜は、無意識にそちらを見る。
そして気づく。
右腕。
包帯。
少しだけ見える赤黒い痕。
大和もまた、結菜の頬の擦り傷を見る。
目が合う。
ほんの数秒。
教室のざわめきが、遠くなる。
炎。
悲鳴。
黒煙。
赤い眼。
お互い、何かを知っている気がした。
でも、言えない。
言葉にした瞬間、全部が壊れてしまいそうだった。
大和が先に視線を逸らす。
「……お前、大丈夫なのか」
小さな声。
結菜は少しだけ目を見開く。
そして、短く返した。
「そっちこそ」
それだけ。
本当に、それだけだった。
でも。
結菜は思ってしまう。
大和の声が、なぜかあの夜の“何か”と重なって聞こえた。
大和もまた、結菜の視線に妙な息苦しさを覚える。
まるで。
自分の正体を見透かされかけているみたいに。
◇
夜の地下。湿った鉄の匂い。
金網で囲まれたリングの上に、紫色の目をした少年が立っていた。
銀髪が汗で少し湿り、額の髪を押さえるように風になびく。
観客たちは歓声と怒声を混ぜ、興奮に震えている。
その熱狂の中で、彼――御影冥牙――は静かに呼吸していた。
相手は違法KAMENを装着した複数の男たち。
筋肉隆々、薬物で強化された格闘士。
普通なら一撃で押し潰されるような連中だ。
しかし、冥牙の動きはまるで空気を切り裂くかのように正確で冷たい。
一歩踏み出すたび、相手の骨格を瞬時に計算し、最も効くポイントに拳を落とす。
ただ殴り飛ばすのではない。
折れるべき箇所を正確に折る。
潰れる瞬間、男たちは痛みに顔を歪めるが、冥牙はそれをただ見つめるだけだ。
「くっ……!」
「い、痛ぇ……!」
歓声。悲鳴。金属が弾ける音。
だが、彼の目は何も揺れない。
冷たい紫の瞳だけが、リングの中心で光る。
一人の男が倒れる。骨が砕け、声が出ない。
もう一人が攻撃に出る。
冥牙は一瞬だけ呼吸を止め、紙一重で避ける。
反撃の拳が、肩の関節を捻り、骨を軋ませる。
叫びももがきも、リングの床に叩きつけられる音だけが残る。
観客の熱気は最高潮に達していた。
だが冥牙自身は、何も感じていない。
勝利の高揚も、満足も、ただ静寂の中で自分の怒りだけが燃えている。
母と妹を奪ったあの夜の記憶。
それが彼の拳を動かしていた。
そのとき、リングの外から不穏な気配が迫る。
鉄扉を破り、複数の違法KAMEN装着者が乱入してきた。
彼らは過去、冥牙の母と妹を巻き込んだ暴動の残党だ。
顔を見るなり、笑いが漏れる。
「まだ生きてたのか」
「泣いてたガキが、随分でかくなったな」
「お前の母親、最後まで妹を庇ってたよなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、冥牙の心の奥が崩れる。
拳が震える。
目の前の敵は何人もいる。
だが、彼の中の怒りと憎悪は制御できない。
「……っ!!」
身体中の血が沸騰する。
掌に力が漲り、まるで手から炎が漏れるような感覚。
一撃ごとに、相手の関節が折れ、骨が軋む。
悲鳴はリングを満たし、観客の叫びは歓喜に変わる。
だが、冥牙の視線は一点に固定されていた。
ただ一人、残党の中の顔――母と妹を踏みにじったあの男の顔。
拳を振るう度に、記憶と怒りが同化する。
“母の命を奪った憎しみを、今、俺が裁く――”
冷静さは既に消え、残ったのは純粋な殺意だけだった。
午後9時22分
東京湾岸区域外れ。
地下格闘場を出た冥牙の足は、濡れたアスファルトの上を無意識に進んでいた。
街灯の明かりは黄ばんで揺れ、雨の残滓が冷たい金属に反射する。
鼓動はまだ高く、手のひらには微かな震え。
だが、体の芯は不気味な静寂に包まれていた。
「……なんだ、あの感覚は」
地下格闘場の熱気、硝煙、壊れた骨の匂い、粉砕音の余韻。
それらはすべて、冥牙の内部で濁流のように蠢き、何かが彼を導こうとしていた。
視界の端に、いつもと違う影がちらつく。
それは人間の形ではなく、まるで夜そのものが呼んでいるようだった。
路地裏を曲がる。
錆びた鉄扉。
割れた看板。
猫も鼠も避ける廃墟の通り。
そこに立つだけで空気が重く、時間がねじれるような錯覚に陥る。
「こ、ここは……」
足元に散らばる瓦礫。
壁に残る血痕。
過去の戦闘の残像が、雨の反射に混じって一瞬だけ形を結ぶ。
冥牙の胸中に、低く、重い鼓動が響いた。
それは戦いでは感じたことのない、鋭利な予兆だった。
迷路のような廃墟を抜け、薄暗い階段を下る。
金属の腐食した匂い。
湿った空気。
誰も足を踏み入れたがらない場所。
そして、視界の先に、かすかな光。
――奉納殿。
古びた石段。
苔むした鳥居。
軋む木の扉の奥から、微かな赤橙の光が漏れていた。
冥牙の呼吸が一瞬止まる。
導かれるように、彼は扉を押した。
内部は冷たく、静かすぎて耳鳴りがするほどだった。
空気には香木の煙と鉄の匂い。
埃にまみれた祠の奥に、黒光りするマスクが祀られている。
その形状は、奇怪。
左右非対称の角。
一方は短い二本、もう一方は鋭く天を刺す一本。
複雑なラインが顔面を覆い、複眼のような赤い光が微かに脈打っていた。
――RASETSU。
目が合う。
静止した時間。
鼓動の震え。
冷たい視線が、冥牙の内奥に触れる。
「……誰だ」
声は出せない。
喉が詰まる。
けれど、RASETSUの存在は圧倒的で、体の隅々まで電流のように走る。
理性ではない。
恐怖でもない。
ただ、引き込まれる。
強烈に。
必然的に。
そして、触れた瞬間。
頭の奥で何かが弾けた。
冥牙の内側の怒り、憎悪、屈辱、孤独。
地下格闘場で感じた高揚、壊れた相手の骨の感触、勝利の衝動。
それらがRASETSUの赤い複眼と交わる。
脳を焼くような電撃。
筋肉の奥の疼き。
血液の温度が跳ね上がる。
「……ッ!!」
同調。
肉体と精神が共鳴する。
RASETSUの力が冥牙の全神経に浸透する。
視界が赤橙に染まり、音が振動に変わる。
存在そのものが圧迫され、膨張し、覚醒する感覚。
――HUD起動。
深紅の線が冥牙の視界を覆う。頬、額、後頭部を這うように細い亀裂状の光が脈打つ。文字が静かに浮かぶ。
──────────────
SYSTEM INITIALIZING...
USER : 御影冥牙
KAMEN APTITUDE : EXTREME ANGER
WEAPON LINK : NONE
SOLDIER VALUE : ILLEGAL
SOCIAL VALUE : ZERO
──────────────
胸の奥が熱くなる。 過去の記憶、奪われた母と妹、瓦礫に押し潰された恐怖……すべてが目の前で甦る。
中央の祭壇に祀られたRASETSUが微かに振動する。
視界に網目状のHUDが展開され、呼吸、怒り、憎悪、破壊衝動の数値がノイズ交じりで表示される。
──────────────
EMOTION LEVEL : CRITICAL
HATRED : 99%
FEAR : 91%
DESTRUCTION URGE : 100%
──────────────
冥牙は硬直する。 この数字、この感情……RASETSUはすべて見抜いている。
──────────────
SYNCHRONIZE RATE : 37%
ERROR... EMOTION UNSTABLE
──────────────
深紅のラインが揺れ、複眼が縦線状に収縮する。
RASETSUが囁く。
『壊せ……奪い返せ……お前からすべてを奪った世界を』
──────────────
SYNCHRONIZE RATE : 65%
SYNCHRONIZE RATE : 81%
SYNCHRONIZE RATE : 100%
──────────────
光が深紫に変わるHUDライン。 額と首筋の亀裂状ラインが脈打ち、口元の牙スリットから白い蒸気が漏れる。
──────────────
旧主ノ意志ニ従イ、此ヲ纏ウ者__。
憎悪ト破壊ヲ以テ、全テヲ屠ル__。
覚醒セヨ___冥棘ノ戦鬼。
──────────────
USER : 御影冥牙
TITLE : 冥棘ノ戦鬼
KIMEN : RASETSU
そして、冥牙の体は自然に立ち上がる。
力が全身を駆け巡り、拳を握るたびに衝撃が空気を震わせる。
目に映る景色は、もう単なる夜の奉納殿ではなかった。
瓦礫の一粒一粒、埃の微振動、空気中の水分の揺れまで、解析可能な情報の洪水となって押し寄せる。
――冥棘ノ戦鬼。
それが、冥牙とRASETSUの初めての同調によって生まれた名だった。
声にならない怒号が胸を貫く。
握りしめた拳の中で、暴力と渇望が共鳴する。
これまで何度も押し潰され、嘲笑され、蹂躙されてきた自分のすべてが、今、完全に解放された。
「――来い……」
低く、荒い声。
怒りに燃える赤眼。
全身の筋肉が震え、体中の血管が弾けるように疼く。
地下格闘場で覚えた痛み、屈辱、孤独――それらがすべて力に変わった。
奉納殿の闇に、静かな轟音が広がる。
誰もいないはずの空間に、冥牙とRASETSUの存在が反響する。
それは静寂の中の嵐。
暴力と憤怒の美学。
破壊の予兆。
冥牙は拳を下ろす。
だが、心臓の奥ではまだ何かが囁く。
「もっと……もっと壊せる……」
闇の中、微かにRASETSUの複眼が光る。
その光が、冥牙をさらに深淵へと誘う。
夜は長く、そして、これからが始まりに過ぎないことを、二人の戦鬼はまだ知らなかった。
第5話「壊したいもの」 終
いつも『KIMEN:GOU-豪黎ノ戦鬼-』を読んでくれて、本当にありがとうございます。
ここしばらく執筆を続けてきましたが、自分の中で少し疲れが溜まってきてしまい、このまま無理に書き続けるより、一度しっかり整えた方がいいと考えました。
そのため、『KIMEN:GOU』はしばらく休載します。
ただ、完全に活動停止するわけではありません。
休載期間中は、以前から考えていた別作品を短めに数話ずつ投稿しようと思っています。
候補は、
・『紅蓮』
・『境に生きる』
・『ドラグーン』
・概念能力バトル(∞・☯・⚛️などの記号を能力化した異能力バトル)
・無課金無双(初期装備で廃課金勢をぶっ飛ばす話)
あたりです。
それぞれ短編で投稿した後、感想やアンケートなどを見ながら、「どの作品の続きを一番読みたいか」を参考にしたいと思っています。
『KIMEN:GOU』を楽しみにしてくれている人には申し訳ないです。ですが、中途半端な状態で続けるより、ちゃんと熱量を取り戻してから戻ってきたいと思っています。
アンケートはこちらから →https://docs.google.com/forms/d/1PE1dWbDG4SIn3JpwDJm9kp_PoKVxOxnle550Ojb0VQs/edit?usp=drivesdk&ouid=107849145383909452049&chromeless=1
その間、「この作品好きかも」「続き見たい」と思えるものがあれば、ぜひ反応をもらえると嬉しいです。
少しだけ遠回りになりますが、その分、戻ってきた時には今よりもっと面白いストーリーを書けるように頑張ります。




