暴力の名前
2045年10月4日。
東京湾岸エリア。
午前0時18分。
鬼駆の周囲を、量産型違法KAMENたちが完全に取り囲んでいた。
高架下。
炎上する車両の陰。
横転したコンテナの上。
三十近い違法KAMENたちが、銃口とブレードを一斉に向ける。
バァンッ!!
ガガガガガガッ!!
弾丸が鬼駆の装甲を叩く。
火花。
排熱。
砕けたアスファルト。
SERAPHを纏った結菜たちも、距離を取りながらその光景を見ていた。
誰も動けない。
黒い車体は、完全に包囲されている。
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ARMOR DAMAGE : 14%
SURROUND WARNING
ENEMY COUNT : 31
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『鬼城』
GOUの声が低く響く。
『降りろ』
「……は?」
『ここからは、俺だ』
次の瞬間。
ゴォンッ!!
鬼駆の側面装甲が展開する。
GOUが、鬼駆からゆっくり降りる。
重い足音。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
その一歩ごとに、砕けた地面が沈む。
違法KAMENたちが一瞬だけ怯む。
『来い』
低い声。
その瞬間。
最前列の違法KAMENが叫びながら飛び込む。
腕部ブレードを振り下ろす。
GOUは避けない。
ガシィッ!!
振り下ろされた腕を、片手で掴む。
「なっ……!?」
そのまま。
ブンッ!!
違法KAMENの身体を持ち上げ、横から突っ込んできた二体目へ叩きつける。
ドゴォォォォンッ!!
二体まとめて吹き飛ぶ。
さらに。
GOUが踏み込む。
地面が割れる。
バギィッ!!
拳。
ただ、それだけ。
なのに、違法KAMENの胸部装甲が陥没する。
衝撃で背中側の装甲が弾け飛び、そのまま後方へ吹っ飛ぶ。
「が……ッ!?」
GOUは止まらない。
回し蹴り。
ゴバァァァァッ!!
敵の首元を蹴り抜き、火花と共に吹き飛ばす。
肘打ち。
ドガァッ!!
膝蹴り。
バギィィィッ!!
違法KAMENたちは、次々と吹き飛ばされていく。
拳。
蹴り。
肘。
膝。
GOUの動きには型がない。
洗練された武術でもない。
ただ、目の前の敵を潰すためだけに最短で動く。
一体目の違法KAMENが、ブレードを振り下ろしながら突っ込む。
GOUは避けない。
ガシィッ!!
振り下ろされた腕を掴む。
そのまま力任せに捻る。
メギギギギッ!!
腕部装甲が悲鳴を上げ、違法KAMENの肘関節が逆方向へ折れる。
「ぎゃあああああッ!!」
叫び声。
そのまま。
ブンッ!!
掴んだまま振り回し、別の違法KAMENへ叩きつける。
ドゴォォォォンッ!!
二体まとめて吹き飛ぶ。
さらに背後から別の一体。
散弾砲。
バァンッ!!
至近距離。
だがGOUは片腕で敵の顔面を掴み、そのまま盾代わりに持ち上げる。
ガガガガガッ!!
散弾が味方ごと装甲を貫く。
火花。
破片。
悲鳴。
『遅い』
低い声。
次の瞬間。
ゴバァァァァッ!!
GOUの頭突き。
違法KAMENの顔面装甲が陥没し、赤い火花を撒き散らしながら吹き飛ぶ。
その勢いのまま、腹へ膝蹴り。
ドゴォッ!!
敵の身体がくの字に折れる。
さらに肩を掴み、無理やり地面へ押し倒す。
バギィィィィンッ!!
アスファルトが砕ける。
敵はそのまま動かなくなる。
「なんなんだよコイツ……!」
「化け物かよ……!」
違法KAMENたちの動きが鈍る。
数で押せば勝てると思っていた。
だが目の前の黒い鬼は、数そのものを暴力でねじ伏せていた。
その時。
瓦礫の向こうから、重い足音が響く。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
量産型とは違う。
全身に違法改造を施された大型KAMEN。
灰色の重装甲。
肩には無理やり追加された外部ユニット。
頭部バイザーには赤い亀裂のような発光ライン。
敵のリーダー格。
JUNK。
「……調子に乗るなよ」
低い声。
JUNKが片腕を振るう。
巨大な鉄塊みたいな腕。
ブォンッ!!
空気が唸る。
GOUは半歩だけ動く。
拳が頬を掠める。
背後の車両が潰れる。
ドゴォォォォンッ!!
結菜が息を呑む。
「あれを避けた……!?」
JUNKが二撃目を振るう。
横薙ぎ。
GOUはその腕を掴む。
ガシィッ!!
装甲同士がぶつかり、火花が散る。
JUNKの馬力は凄まじい。
普通なら押し潰される。
だが。
GOUは離さない。
『ようやくマシなのが来たな』
次の瞬間。
ゴッ!!
GOUの額がJUNKの顔面へ叩き込まれる。
頭突き。
JUNKの頭部装甲がひしゃげる。
「ぐっ……!?」
さらに腹へ拳。
ドゴォッ!!
続けて肘。
膝。
蹴り。
ドガッ!!
バギィッ!!
ゴォンッ!!
JUNKの巨体が揺れる。
だが倒れない。
「このッ……!」
JUNKが無理やり腕を振り回し、GOUを押し返す。
そのまま突進。
ゴゴゴゴゴゴッ!!
重装甲の塊が、真正面から突っ込んでくる。
GOUは迎え撃つ。
真正面。
ガシィッ!!
両者の腕がぶつかる。
地面が沈む。
舗装が砕ける。
大和の鼓動が跳ね上がる。
視界が赤く脈打つ。
そして。
『終わりだ』
GOUがJUNKの頭部を掴む。
片手で。
そのまま無理やり持ち上げる。
「なっ……離せ……!」
JUNKの足が浮く。
暴れる。
腕を振るう。
だが止まらない。
GOUはそのまま身体を捻る。
そして。
ドゴォォォォォォォォンッッッ!!!
JUNKの頭部が、地面へ叩きつけられる。
アスファルトが陥没し、放射状に巨大な亀裂が走る。
砕けた舗装が宙を舞い、火花と粉塵が夜空へ散った。
JUNKの巨体が痙攣する。
腕が震える。
脚が跳ねる。
だが。
GOUは離さない。
片手で頭を掴んだまま、さらに持ち上げる。
「が……あ……ッ……」
JUNKの割れたバイザーの奥から、かすれた声が漏れる。
GOUの赤橙色の双眼が、ゆっくりと脈打つ。
『終わっていない』
低い声。
その瞬間。
GOUの顔面装甲――鬼の口元に刻まれた赤橙色のラインが、ゆっくりと開く。
ゴキ……ギギギギ……
装甲の隙間から、赤黒い光が漏れる。
結菜が目を見開く。
「……何……?」
次の瞬間。
ブワァァァァァァァッ!!
GOUの口元から、炎にも電流にも見える赤橙色の奔流が噴き出した。
煙が吹き飛ぶ。
周囲の車両が揺れる。
地面の砂利が浮く。
その光は、生き物みたいに蠢きながらGOUの右腕へ集まっていく。
バチバチバチバチッ!!
右拳の周囲に赤黒い火花が走る。
拳の装甲が軋む。
赤橙色のラインが血管みたいに腕全体へ広がっていく。
HUDが警告を吐き出す。
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UNKNOWN OUTPUT DETECTED
CORE LIMITER : OFF
RIGHT ARM LOAD : 312%
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「な、なんだよ……これ……!」
大和の声が震える。
右腕が熱い。
違う。
熱いなんてものじゃない。
焼ける。
砕ける。
腕の中に、何か巨大な生き物が無理やり押し込まれてくるみたいだった。
『潰せ』
GOUの声。
『跡形もなく』
JUNKが、初めて恐怖の声を漏らす。
「や、やめろ……!」
GOUが拳を握る。
ゴギィッ……
周囲の空気が歪む。
赤橙色の火花が地面を走り、砕けたアスファルトが浮き上がる。
結菜の息が止まる。
「やめ……」
GOUの腕が上がる。
JUNKの身体が宙に浮く。
次の一撃が落ちれば、本当に終わる。
「もういい!! もうやめて!!!」
結菜の叫びが、戦場に響いた。
その瞬間。
GOUの動きが止まる。
静寂。
火の燃える音だけが聞こえる。
赤色灯が濡れた路面を照らす。
遠くで誰かの呻き声がする。
GOUは、ゆっくりと首を動かす。
赤橙色の双眼が、結菜を見る。
結菜は息を呑む。
SERAPHの白い装甲越しでも分かるほど、全身が強張る。
白閃を握る手に汗が滲む。
怖い。
目の前にいるのは、人間じゃない。
黒い鬼。
戦場の中心に立つ、暴力そのもの。
GOUは何も言わない。
ただ、数秒。
沈黙したまま、結菜を見つめる。
やがて。
JUNKの頭を離す。
ドサッ……。
巨体が砕けた地面へ落ちる。
GOUはそのまま背を向ける。
ゴン。
ゴン。
ゴン。
重い足音。
煙の向こう。
赤橙色のライト。
静かに待機する鬼駆。
GOUは鬼駆へ戻っていく。
誰も止められない。
誰も声を出せない。
結菜は、その背中を見つめたまま立ち尽くす。
怖かった。
なのに。
なぜか目を離せなかった。
鬼駆の駆動音が低く唸る。
ゴゴゴゴゴゴ……。
黒い車体がゆっくりと動き出す。
赤橙色の光が煙の中へ消えていく。
その中で。
大和は荒い息を繰り返していた。
心臓が痛いほど鳴っている。
拳が震える。
頭の奥では、まだGOUの声が響いている。
『楽しかっただろう?』
「……違う……」
『違わない』
大和は俯く。
自分でも分かってしまっていた。
怖かった。
吐きそうだった。
なのに。
敵を殴り飛ばした瞬間。
全部を壊せると思った瞬間。
自分は確かに、高揚していた。
「……俺、何なんだよ……」
鬼駆は夜の東京湾岸を走り去る。
その様子を。
遠く離れた高層ビルの屋上から、一人の人影が見下ろしていた。
黒いコート。
風に揺れる髪。
片目だけ光る青いHUD。
人影は、小さく笑う。
「測定不能……か」
夜景の向こう。
消えていく赤橙色の光を見つめながら。
「面白い」
第3話「暴力の名前」でした。
結菜が見た“黒い鬼”と、大和自身が感じ始めた危うさ。
ここから少しずつ、GOUの正体にも触れていきます。




