第2話 はじまりは奇妙な違和感
「はじめまして。シャルロッテ・バイセルハーズです」
分身は、完璧な笑顔で自己紹介を済ませると、まっすぐに教室の自分の席へと向かった。その姿に、クラスメイトたちは言葉を失っていた。失踪したはずの少女が、まるで別人のような完璧な姿で戻ってきたのだ。
(ふふん、皆、私の美貌に見惚れているわね。当たり前じゃない。だって、この子、最高の私だもの!)
自宅のベッドに寝転がったまま、シャルロッテは分身の五感を通してクラスメイトたちの反応を観察していた。小指に結ばれた赤い魔法の糸が、彼女の興奮を伝えるようにわずかに熱を持つ。
授業が始まり、教師の質問に分身が淀みなく答える。天才的な知識は、本物のシャルロッテと全く同じ。しかし、その声には感情がこもっておらず、完璧すぎてどこか不自然だった。
そんな分身の様子を、鋭い視線で観察している生徒が二人いた。
一人は、王族の子息ロイド・シュタイナー。彼は魔眼を使い、シャルロッテの魔法の気配を読み取っていた。
(あの魔力……どこかおかしい。人間が発しているものじゃない。まるで、精巧な人形のようだ……)
ロイドの魔眼には、分身の体が放つ、わずかに淀んだ魔力の流れが映っていた。そして、彼女の小指に、か細くも確かに輝く赤い魔法の糸の存在を捉えていた。その糸の先は、遠く離れた場所へと続いている。ロイドは、興味深そうに目を細めた。
もう一人は、シャルロッテをライバル視するフレッド・フリメールだった。
(魔法は完璧。知識も申し分ない。だが、あの無駄のない動き、感情のない表情……。初日に見た、あのデブとはまるで別人だ)
フレッドは、シャルロッテに勝つことだけを考えていた。しかし、目の前の分身は、あまりにも完璧すぎて、彼を苛立たせた。
一方、彼らとは全く違う視線で分身を見ている生徒もいた。
熱血体育会系のバロン・フレッガーだ。
「あの美人は、俺のタイプのストライクゾーンど真ん中だ!」と、目を輝かせている。
そして、魔法薬学の研究家テスラ・モンドは、分身の肌が放つ微細な魔力成分を解析しようと、フラスコを取り出しては、一人ブツブツと呟いていた。
「この魔力成分、まるで生命を持たない人工物のようだ……」
周囲の生徒たちが、分身の完璧な美貌に惹かれ、少しずつ声をかけ始める。シャルロッテは、まるでゲームの攻略のように、分身を操って友達を作っていく。
(うん、いい感じ!この調子でいけば、すぐに学校生活も謳歌できるわ!)
シャルロッテは、自宅の部屋でガッツポーズをしていた。だが、彼女はまだ気づいていなかった。その中に一人、彼女の秘密の糸を見抜いた人間がいるということ