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第8話 貴族たちの陰謀

王城内に、緊急警報が響き渡ったのは夜明け前だった。


「王女殿下の居室で爆発!? 急げ、護衛を回せ!」


飛び交う叫び声。

騎士たちが廊下を駆け抜ける中、俺は別室で目を覚ました。


《魔力残留:爆裂系火属性魔術。時限発動型。結界突破を前提とした術式設計……これは“内部犯”だ》


遺跡以来、俺の頭は勝手に“読み解く”ようになっている。


王女の身に何かがあった――その確信だけで、俺は駆け出した。



幸い、エリシア王女に大きな怪我はなかった。


「寝る前に違和感を感じて、移動していたの。……私が部屋に戻っていたら、どうなっていたか」


淡々と話す彼女だが、その手は小さく震えていた。


「……やはり、貴族派の仕業だと?」


「おそらく。最近、私の動きを快く思っていない者が増えている。レオン、あなたの力も、彼らには“都合が悪い”のよ」


俺は黙ってうなずく。


王女を狙うことで、同時に“俺の排除”も狙った。

それは、まさしく“権力闘争”の匂いだった。


「……実は、あなたに見てほしいものがあるの」


彼女は机の引き出しから、1枚の“王城内備品管理リスト”を差し出した。


「これ、本来なら改ざんできないはずの書類なの。でも……魔道具の数が、明らかに合わない」


俺がそれを手に取った瞬間、視界に文字の“構造”が浮かび上がる。


《……構文矛盾。文字列の法則が不自然。魔導印刷ではなく、“手書きで模倣”されたニセ文書》


「偽物ですね。印字の“リズム”が違う」


「やっぱり……!」


エリシアは歯を食いしばった。


「これが証拠になれば、関与した貴族たちを――」


「証拠としては微妙です。精査を受ければ“ただの記録ミス”として処理される」


「……っ」


「でも、逆に利用できます」


「利用……?」


「彼らが“記録を操作した”ということは、操作の意図が必ずある。操作された“本命”の魔道具がどこに動いたかを探れば、黒幕を炙り出せます」


静かに語りながら、俺の中で冷たい思考が動いていく。


感情ではなく、“構造”として相手の意図を読み解く――

それが、俺の唯一の武器だ。


「……頼もしいわね、レオン」


エリシアが、ぽつりと呟いた。


「あなたがいてくれて、本当によかった」


その声に、わずかに熱が宿っていた。

だが、俺はそれに気づかぬふりをして、静かに立ち上がる。


「……調査を始めます。時間をください」


「ええ、お願い。あなたにしかできないことだもの」



その夜。

俺はひとり、魔術学院の裏手にある保管庫へと向かっていた。


手がかりとなる“本来あったはずの魔導具”の行方を探るためだ。


だが――そこで、奇妙な気配に出会った。


「……こんな時間に、一人でうろついて……もしかして、危ない人なんじゃない?」


声の主は、学院の制服を着た少女。

肩までの銀髪に、少し眠たげな瞳。


だが、瞳の奥にひどく冷たい光があった。


「……誰?」


「名前なんて、まだ教える必要ないかな? だって、“あなた”のこと、調べてからにしたいから」


彼女は無邪気な口調で笑った。


「だって、“あのとき逃がした”んだもん。今度はちゃんと、捕まえないとね――レオン=クロード」


血の気が引いた。


その口ぶりは、俺の過去……記憶にすらない“何か”を知っているようだった。


「また、会えてうれしいな。今度は、ちゃんと壊させて」


そう言って微笑む彼女の瞳は、まるで“ひとりだけの世界”を見ていた。


彼女が、これから俺の“日常”を壊していくことになるとは――

まだ、知らなかった。

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