表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

第7話 魔物襲来、そして……

王都の東端、第三警戒区。

俺はそこで、魔力異常の調査任務に就いていた。


一見すると何の変哲もない森――だが、空気が重すぎる。

まるで、空そのものが魔力を含んでいるかのように。


《魔力圧=通常の3.2倍、熱反応・生体波形あり。……魔物、確定》


それは、考えるよりも先に“理解”として脳に流れ込んでいた。


「来るな……」


次の瞬間、森を割るような音と共に、巨大な影が現れる。


全長7メートルを超す黒い獣。

岩のような鱗と血のように赤い眼――《グレイ・フェング》。

中隊規模で討伐するはずのBランク魔物だった。


……だが、周囲に味方はいない。


王都からの援軍は間に合わず、民間人は避難途中。


俺が、ここで止めなきゃいけない。


「……いいだろう。やってみようじゃないか」


剣を抜く。けれど、戦うというより“詰め将棋”のつもりだった。


俺は魔獣の行動パターンを読み、わざと足音を残して誘導した。

森の湿地地帯――足場の悪い、かつ雷撃が拡散しやすい地形へ。


《読み取り完了。構造破壊可能》


「──《ショック・アーク》」


放ったのは一点集中の雷撃。

湿地の水分が魔力を伝導し、魔獣の脚部から内部へ――そして崩壊。


「……終わり、か」


俺は剣を納め、ゆっくりと倒れた魔物を見下ろした。


戦っていたというより、“読み切った”感覚。

周囲に誰もいないことが、かえって静寂を際立たせていた。



その夜、王城に呼び戻された。


「……魔獣を、たった一人で?」


報告を聞いたエリシア王女の目が、わずかに揺れる。


静かな応接室。照明は控えめで、外の月が差し込んでいた。


「お疲れ様。……無事で、よかったわ」


彼女の声は、王族としての威厳よりも、“一人の人間”としての安堵が込められていた。


「……俺は、ただ“できること”をやっただけです」


「あなたの“できること”が、他の誰よりも大きすぎるのよ」


エリシアは、ため息をついたあと、少しだけこちらへ身を乗り出す。


「……怖くないの? 自分が“普通じゃない”って」


「……正直、怖いですよ。でもそれ以上に、“知らないこと”が怖いんです」


「……ふふ。あなたらしい返しね」


そのとき、彼女の髪が、肩から滑り落ちる。

ふとした瞬間に見せる素の表情に、俺は目を奪われそうになった。


「……王女様」


「……エリシア、でいいわよ。今は、公務じゃないから」


そう言って微笑むその顔は、王族のそれではなかった。

ほんのわずかだけ、少女のように見えた。


──だけど。

それ以上、踏み込むのは違う。


俺は、そっと視線を逸らした。


「……ありがとうございます。けど、やっぱり俺は“王女様”と呼びます」


「……そう。なら、せめて“笑顔”だけは、忘れないでね」


エリシアは立ち上がると、背を向けて出口へ向かっていった。


その背中は、どこか――さびしそうで、でも誇り高くて。


彼女は王女だ。

俺は賢者の継承者。

そして、きっと――いつかすれ違う時が来る。



廊下の陰で、微笑む影があった。


「……へぇ。王女様に“手”を触れずに返すなんて、ちょっと興味湧いちゃうじゃない……レオン=クロード」


影の主は、銀髪の少女。だがその瞳は、夜のように深く、静かに燃えていた。


「今度こそ、逃がさないよ。あのときみたいに――」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ