第23話 封印都市アーク・ミレニア
王都・禁書区域。
選ばれし継承者のみが入室を許された、古代記録閲覧室。
「ここが……」
静かな緊張感のなか、レオンは結晶端末を操作し、記録された地図を呼び出す。
表示されたその座標には、こう記されていた。
《アーク・ミレニア》
かつて、異種族と契約した人間たちが築いた都市。
“理解なき力”が交錯し、境界を越え、封印された。
「識翼種の転移残滓、座標的に一致。間違いない。
次はこの都市が――“来る”場所だ」
王宮顧問の言葉に、レオンは頷いた。
*
──その夜。
王都の仮設宿舎。
リュミエルは、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべながら、レオンの隣に座っていた。
「明日、また命を懸けるのね」
「……ああ。たぶん、これまでよりもずっと危険だ」
「ふふっ、そう。じゃあ――今のうちに、言っておこうかな」
レオンが顔を上げると、リュミエルはふと微笑を消していた。
「私はね、レオンくん。あなたが“死んだら”……世界がどうなってもいいって思ってる」
「……は?」
「あなたを救ったときから、もうとっくに“壊れてる”のよ。
ただあなたが笑ってくれてれば、それでよかったのに。最近は、他の子とよく話すよね。リュカとか。フェリスとか。王女様とか」
淡々とした声で、淡々と狂気を語る。
「だから。……あの都市でもし私が“おかしく”なっても、驚かないでね?」
そう言って、彼女はまた微笑んだ。
それは、氷のような“独占”の笑みだった。
レオンは何も言えず、その場で静かに息を飲んだ。
*
翌朝。
封印都市の境界地帯に、3人の姿があった。
「この結界……構造が通常と違う。“迎え入れる”ようにできてる」
リュカが解析結果を見ながら眉をひそめた。
「罠かもな。でも、入らなきゃ始まらない」
レオンが一歩を踏み出そうとしたとき。
「ねえ、リュカちゃん」
「……なに?」
リュミエルが振り返り、にっこりと笑った。
「今回の任務、命を懸ける覚悟があるのよね?」
「もちろん。そのつもりで来てる」
「そっか。それなら安心。……あなたが“レオンくんの重荷”にならなければ、いいけど」
「……言葉の棘が増えたね、最近。何か不満でも?」
「ううん。ただ、私はレオンくんの“最初”だから。……誰にも渡さないって、それだけ」
ヒュッ、と微かに空気が震えた。
リュミエルの周囲に、無意識の魔力干渉が広がっている。
リュカもそれに気付き、対抗するように防壁を張った。
「……ふたりとも、やめてくれ。今は敵じゃない」
レオンの一声で、空気は一応収まった。だが、その火種は確かに残っていた。
*
都市内。
かつての魔導都市は、もはや廃墟に近かった。
だが、そこに残る魔力は“生きている”。
「この場所……誰かの“思念”が残ってる」
リュカがそう言った直後、突如、空間が反転した。
《異空間転移反応》
《種別不明存在 出現》
「くる……!」
空間の奥から、“声”が響く。
『継承者よ。試されし者たちよ』
『契約都市の記録へようこそ』
紫の霧が晴れた先に立つのは、異種族でも、人でもない――“契約の残響”だった。




