第20話 識翼、来たる
「……南境の第七塔が沈んだ?」
王都に響いた速報に、レオンの背筋が冷えた。
「正確には、“塔が空間ごと消えた”んだって。王都防衛術士団も混乱してるみたい」
リュカの言葉に、レオンとリュミエルはすぐに装備を整える。
「これは……ただの災害じゃない。人間の魔力じゃ、空間ごと塔を消せない。
魔力波形の記録は?」
「さっき解析が終わったわ。これ――」
リュミエルが水晶端末を差し出す。
そこに表示された波形は、幾何学的で複層構造を持っていた。
「……こんな構造、今まで見たことがない」
《識別不能魔力波:人類体系外》
《分類:識翼種と仮定/自律演算機構型魔導存在》
「来たな……“人間ではないもの”が」
レオンは静かに言った。
*
南境の防衛線跡地。
そこには、まるで世界が歪んだような“霧の空間”が広がっていた。
霧の中心――それは、そこに“立って”いた。
身長180センチ前後。だがその肉体は金属のように光沢を放ち、背からは浮遊する羽のような構造体が伸びていた。
「……それが、“識翼種”?」
レオンの書庫が自動反応する。
《識別開始──言語構文読取:失敗》
《波形翻訳へ移行──魔力精神干渉レベルCで受信中》
そして、その存在は口を開かずに“語った”。
――名前、カヲリ。
脳に直接響く、“音ではない”名乗りだった。
「直接……思考に触れてきた……!」
「やばい。これ、“翻訳”じゃなくて、“理解”しようとしてる」
リュミエルが距離を詰めてくる。
「……完全に未知数。反応ひとつで、何が起きてもおかしくない」
そのとき、“カヲリ”の瞳が、赤く染まった。
《警戒度上昇:自衛演算モードへ移行》
《対象:情報接触過多による排除対象認定》
「くる!」
空間が軋んだ。
次の瞬間、カヲリの背から展開された光の刃が、大地を裂いた。
「っぐ!」
リュミエルが結界を張り、リュカが魔力干渉防壁を補助。
それでも、その一撃は地形を変えるほどの威力だった。
「……まさか、第一撃からここまでとは……!」
《推奨:構成魔術では対処不能。認識干渉式、展開許可》
「ならば、出し惜しみはなしだ」
レオンは《双極陣》を展開する。




