表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/24

第15話 継承の境界線

「王都より緊急招集状です。レオン=クロード殿、お読みください」


朝焼けの村に、灰色の制服を纏った使者が現れた。


手渡された封書には、王家の紋章――そして王女エリシアの私印が封蝋として押されていた。


《至急王都へ来られたし。補継者関連の動きあり。》

《新たな“継承記録”が発掘された》

――エリシア


「……補継者“関連”?」


封書を閉じ、俺は黙って立ち上がる。


後ろでは、井戸の前でリュミエルが静かにこっちを見ていた。


「行くんだ?」


「ああ。……王都に、“もう一人”何かが現れたみたいだ」


「ふぅん。行ってもいいけど、私も一緒ね」


「当然だろ」


ふっと笑ったリュミエルの瞳に、薄く緊張が走っているのを見逃さなかった。


彼女も何かを察している。



数日後。王都・中央図書院 地下書庫。


「来てくれてありがとう、レオン」


そう言って俺を迎えたのは、王女エリシアだった。


礼服ではなく、研究者風の簡素な装い。

表情には強い意志と、少しの不安が混ざっていた。


「見つかったの。正式な“継承者候補”……あなたとは別の、第一世代の記録が」


「第一世代……?」


「うん。万象の書庫の断絶以前に、“自分の意思で継承を拒否した者”の記録が残されていたの」


エリシアは封印された金属筐体を開き、そこから淡く光る結晶体を取り出した。


「これは、残された思念記録――彼が拒んだ理由を、直接見ることができるはずよ」


結晶体に手を触れた瞬間、視界が白く弾けた。


そして、記憶の映像が流れ始めた。


『名を継ぐのは、誇りではない。呪いだ。』

『世界を“読み解く力”は、世界を“否定する力”にもなる。』

『俺は、それを知っている。だから拒む。もう、誰も“理解”できない場所へ――』


映像が途切れる。


まるで、怒りと哀しみと、絶望が折り重なったような言葉だった。


「……これは、何だ?」


「“継承者の欠片”よ。彼の名前は記録されていない。でも、王家の古文書に一度だけ、“黒の継承者”という記載があったわ」


「……黒?」


「記録を抹消された継承者。力はあった。でも王家に従わなかった。……その者の記憶だけが、“次の継承候補”の選定に利用されたの」


思い出す。


地下室で読んだ記録――俺は“第二候補”として拾われた。


ならば“第一候補”は――


「……まだ、どこかにいるのか?」


「可能性はある。結晶体が“共鳴”してるの。……あなたの中にある“賢者の力”と」


《魔力同調:不規則な波形感応。遠方にて共鳴中……対象位置、現在解析不能》


俺の頭の中にも、低いざわめきが響いていた。


共鳴している。


俺の中の“万象の書庫”と、もう一つの“何か”が。


「……この世界に、“もう一人の賢者”が目覚めようとしているのか」


そのとき、背後の扉が小さく軋んだ。


「ふーん、共鳴って、いい響きだよね」


リュミエルだった。


だが、その目はいつもの眠たげな表情ではない。


「ねえ、レオンくん。“彼”が本当に現れたら……あなた、どうするの?」


「どう、とは?」


「彼が、あなたと正反対の価値観を持っていて、“理解”するたびに人を傷つけてたとしたら?」


その問いに、俺は答えられなかった。


“理解”は万能じゃない。

読み解いた先にあるものが、いつも正しいとは限らない。


「……それでも、俺は知りたい。真実を、“理解する責任”を放り出したくはない」


「ふふ。じゃあ、ついていってあげる。責任ごとね」


リュミエルが微笑んだその瞬間、結晶体がピシリと音を立ててひび割れた。


反応波形が、急激に揺れる。


《魔力同調上昇:座標反応捕捉》

《──対象地点、旧王都・封鎖区域「グラントゥール遺構」》


世界の奥に、何かが目を覚まそうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ