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第13話 封じられた森へ

「……案内してくれない?」


月明かりの下で、リュミエルは微笑んでいた。


「レオンくんが倒れてたあの場所。私、一度もちゃんと見たことないから」


「お前……あのとき、俺を助けたって言ってたよな」


「うん。覚えてないかもしれないけど」


「じゃあ……なぜ今になって“そこ”へ?」


リュミエルは一拍置いて、ふっと笑った。


「ねえ、レオンくん。“失くしたもの”って、どこにあるか知ってる?」


「……さあな」


「“失くした自分”は、“思い出したい誰か”の中に残ってる。――私は、それを見にきたの」


意味のわからない言葉だった。

けれど、どこか妙に納得させられる力があった。


……そして、俺自身も確かめたいと思っていた。

“なぜ自分が村の外れで倒れていたのか”を。


「わかった。……行こう」



夜の森は、静かだった。

だが、結界の境界に近づくにつれ、空気が妙にざらつき始める。


《魔力干渉:微弱な反応。……構造は古いが、生きている》


「ここ……村の結界?」


「そうだ。もともとは、“外からの侵入”を防ぐための防御結界だったはずだが……」


俺は森の奥、鬱蒼とした木々の中に一箇所だけ“違和感”を感じ取った。


「……ここだ。俺が倒れてた場所」


リュミエルは無言で、その地面にしゃがみ込む。

何もない、ただの土の地面。だけど、彼女の目はそこに何かを“視て”いた。


「ねえ、覚えてる? レオンくんがここにいたとき――“心臓が止まりかけてた”の」


「……え?」


「本当にね、死んでたんだよ。少なくとも、一度は」


その言葉に、背筋がぞくりとする。


リュミエルは、ゆっくりと懐から一冊の本を取り出した。


「これは、“万象の書庫”の断片。……あなたの中にあるものと同じ」


「なっ……それを、どこで――」


「拾ったの。あなたが倒れてたすぐ近くで。……つまり、あなたはこの場所で、“継承者”になった」


リュミエルの声が淡々としているのが、逆に恐ろしかった。


「あなたが助かったのは、たぶん偶然じゃない。

でもね、レオンくん……“私が助けた”のも、偶然じゃないんだよ」


「……お前は、一体――」


「“万象の書庫”の前任者の娘。正式な名を継げなかった、観測者ウォッチャー


その言葉に、空気が一変する。


「私の家族は、“賢者を支える役目”をずっと受け継いできた。でもね、みんな死んだ。……ある日、突然、“記録ごと消された”の」


「記録……ごと?」


「うん。王国の中枢にいた“誰か”にとって、賢者の継承を“都合よく進める”ためには、邪魔だったんだって」


レオンの頭の奥で、何かがひび割れるような感覚が走る。


「だから私、あなたに会いたかったの。

“私のすべてを奪った記憶”が、どんな顔をして生きてるのか、知りたかった」


「……それは、俺なのか?」


「まだわかんない。でもね、調べていくうちに――本当に嫌いになれなかった」


リュミエルは立ち上がる。


「だから、もしあなたが“あの時”と変わってなかったら……私、たぶん、また助けちゃうんだろうなって思う」


「リュミエル……」


「でも――逆だったら?」


リュミエルの手に、あの小さなナイフがあった。

その刃は、月の光を反射して、まるで冷たい微笑みを浮かべているかのようだった。


「もし、レオンくんが“私のすべてを壊した存在”だったら――私は、きっと……ね?」


風が止まった。


空気が重い。


“知りたい”という欲望と、“壊したい”という衝動が、リュミエルの中で拮抗しているのが伝わってくる。


だが、俺は――


「それでも、知りたいんだ。

……自分が何者で、なぜ“この力”を持っているのかを」


「ふふ。……そうだよね。じゃあ、もっと一緒にいてあげる」


彼女はナイフを懐に戻し、いたずらっぽく笑った。


「ねえ、レオンくん。私のこと、もっと見てて。ずっとそばにいるから――“答え”が出るまで、ね」


そして、彼女は背を向けて、森の奥へと歩き出した。


封じられていた森は、今まさに“開かれよう”としていた。

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