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第12話 名前を知らない少女

数日が経った。


銀髪の少女は、まるで当然のように村に居座っていた。


「おはよ、レオンくん。今日の雑用、手伝ってあげよっか?」


「……あのな、勝手に村の掃除に混ざるなって昨日も言っただろ」


「でも、動かないレオンくんより、動いてるレオンくん見てる方が楽しいし?」


「……そりゃどうも」


朝の挨拶代わりに、今日も彼女は村の中をふらふらついている。


村人たちは、最初こそ驚いていたが、彼女が無害そうに見えるせいか、今ではもう「あの子、レオンの知り合いかい?」くらいの扱いになっていた。


だが、俺は落ち着かなかった。


理由は――彼女の存在そのものが、村の“空気”に馴染みすぎていることだった。


まるで、昔からここにいたような……


「なあ、お前、名前は?」


ある夕方、俺はようやくそれを訊いた。


少女は、村の柵に腰かけて、鳥を眺めていた。


「え? 今さら?」


「いや、いつまでも“お前”とか“君”じゃ困るだろ」


「……ふふ。困ってるの、レオンくんだけじゃないかな」


「だから聞いてるんだろ」


少女は小さくため息をついた。

そして、夕陽に目を細めながら呟くように言った。


「――リュミエル。リュミエル・フェンリス」


風が吹き抜けた。


どこかで聞いたような名前。でも、思い出せない。


「それが、お前の……本名?」


「うん。……昔は違ったかもしれないけど、今はそう呼んでる」


「“昔”って、何年前の話だ?」


「さあ。……でも、レオンくんが死にかけてたときは、まだ“わたし”じゃなかった気がする」


「……それ、どういう意味だ?」


「さあね」


彼女――リュミエルは、悪戯っぽく微笑んだ。


だがその笑みの裏に、何か深いものが潜んでいるのを、俺は感じていた。



その夜。


村の結界石に異常反応が出た。


村の外れ、森の先。

普段は動かないはずの“古代結界”が、微かに揺れている。


《魔力波形:歪曲。読み取り不能。局所的再構築反応あり》


俺は急いで解析にかかるが、結界の内側に“何か”が入り込もうとしていた。


「……まさか、外から……?」


いや、違う。


《波形発信源:村内》


「……中にいる?」


何かが、結界の内側から“外”に呼びかけている。


そして、俺は背後に気配を感じた。


「ねえ、レオンくん」


振り返ると、そこにはリュミエルがいた。


笑っていた。まるで何事もないように。


「わたしね、ここに戻ってきたときからずっと――“開けようとしてた”んだ」


「……何を?」


「この村にある、“あの場所”を。あの日、あなたが倒れていた場所――あそこにね」


月光が、彼女の瞳を照らした。


その瞳は、懐かしさと――そしてほんの少し、狂気を含んでいた。

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