第10話 「原点回帰」
王都は、ようやく静けさを取り戻しつつあった。
ゼルガ侯の反逆事件が公に裁かれ、腐敗した一部の貴族派が粛清。
王女エリシアの政治的な立場も強まり、王都は一時の混乱から立ち直り始めていた。
そして、俺――レオン・クロードの名前も、王都の中枢に“刻まれる”ことになった。
だが。
「……一度、村に帰らせてください」
静かな謁見の間で、俺はそう申し出た。
王女エリシアは、少しだけ目を伏せてから、ゆっくりとうなずく。
「そうね。あなたの始まりは、あの最果ての村にあったのだものね」
「はい。今なら、わかる気がするんです。……あそこが、俺の土台だったんだと」
「……わかったわ。でも、レオン」
「はい?」
「また戻ってくるのよ。あなたは“もう、ただの村人”じゃないのだから」
その言葉に、少しだけ胸が熱くなる。
エリシアは王女としてではなく、“一人の仲間”として、俺の背中を押してくれていた。
「……ありがとうございます」
そう答えて、俺は静かに城を後にした。
*
数日後、最果ての村――アルス村。
変わらぬ景色。素朴な畑の匂い。
鶏小屋から聞こえる懐かしい鳴き声。
「……ただいま」
久々の帰郷に、誰もが驚いたような顔をしていた。
「お、おい……レオンか!? 本当にお前なのか?」
「王都に行ったって噂だったのに、戻ってきたのか?」
以前とは少し違った目で俺を見る村人たち。
以前は“ただの雑用係”だった俺を、少しだけ“誇らしげ”に迎えてくれている気がした。
「……帰ってくる場所があるって、いいもんですね」
俺は、古びた倉庫の脇に腰を下ろし、空を見上げた。
騒がしい王都と違って、ここでは時間がゆっくり流れる。
それが妙に心地よくて、目を閉じた。
けれど、平穏は長くは続かない。
その夜。
村の宿屋の前に、見慣れない人影が立っていた。
「……ああ、やっぱりいた。レオンくん」
銀髪の少女だった。
制服のまま、手には小さなカバン。笑っているのに、その瞳はどこか空虚で、まっすぐに俺を射抜いてくる。
「ねえ、どうして帰ってきちゃったの?」
「……君は、どうしてここに?」
「だって、ここがレオンくんの“原点”なんでしょ? なら、私も知らなきゃいけないじゃない」
少女は自然に俺の隣に腰を下ろす。
「王女様とばっかり仲良くしてたくせに、こういうときだけひとりで戻ってくるなんて、ずるいよ」
声は笑っている。でも、指先がぎゅっと拳を握っているのが見えた。
「……一緒にいさせてくれないかな。私にも、“原点”が欲しいの」
その言葉が、何を意味しているのかは、まだわからない。
けれど、彼女が俺の“過去”を知っているのは確かだった。
――第1章・終幕。




