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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蓬の葉を引っ張ったのは

作者: 宵暮果南

リハビリ的なお試しです。

 入学式。ボクがささやかながら積み上げてきた人間関係が洗い流され、再び更地に放り込まれる日。

 毎年、新学期の時期に、ボクはこんなことを思っていた。


 「他人とは、どうしてああも強かなのか」


 勿論、そうでない人もいる。自分が弱いだけだというのも分かっている。

 しかし、真っ直ぐと伸びる麻は、蓬からすれば目に付くほど輝いて見えるのだ。





「次、保健委員やりたい人〜! 男女一人ずつね〜」


 15分かけてようやく決まった学級委員長である綾奈(あやな)さんが、ガヤガヤと騒ぐ教室でもよく通る声で指揮を執る。

 入学式の翌日。恒例の役職決めだ。


「は〜い、じゃあそこの二人ね。黒板に出席番号書いてー! 次は〜……図書委員三人!」


(図書委員なら中学でやったから、やりやすいかな)


 そう思って様子を伺うと、一列後ろの席の女子たちが仲良く手を挙げ、「え、他いないんじゃない!? やった〜、これで一緒だね〜!!」と高音の小声で叫ぶ。器用なことができるものだ。

 兎も角、ボクの希望は表に出る幕もなく、敢え無く散ってしまった。わざわざ荒波を立てるくらいなら、

自分が船を降りる。


「はい次〜、美化委員〜! これは〜……二人!」

「うげ、来たよ……あれ面倒くさいんだろ?」


 美化委員は、どうやら余程活動内容が酷いようで、入学二日にしてその悪評は学年中に行き渡っていた。隣の席の人と交わした初めまして以外、言葉を発していないボクですら、詳細までは分からないが、かの委員会が忌まれているのが伝わって来ていた。


 それでも、枠がある以上は誰かが取り持たなければならない。

 ボクにはこれが丁度良かった。誰もやらないなら挙手しやすい。どうせ友達なんてできないから、委員会で暇を潰せばいい。

 ……と、思っていたのに。


「はいは〜い! あたしやりたーい!」


 斜め前に座る女子が声高にそう宣言した。その横顔だけで、整った顔であることが分かる。

 クラスメイトは皆、一斉に彼女を見つめ、ひそひそ話を繰り広げ出した。どうせ、「何あれ、イキっちゃってさ。ポイント稼ぎのつもり?」とかそんなところだろう。


「……っああ、ありがとう。あと一人、誰か?」


 しまった。彼女の作った空気にのまれていた。これはチャンス、手を挙げなければ。陰口だってどんと来い。そんなものは妄想の中で言われ慣れた。

 ……怖いけど。

 そして、皆がお話に夢中なのを確認し、恐る恐る曲げた腕を持ち上げる。


「……あ、あのっ──」

「ん〜、誰もいなさそう。じゃあ一旦後回しで!」

「あぁ……」


 本当に、辟易する。気づけばボリュームの上がっていた周囲の会話に、ボクの声は溶けていく。

 学生である内に、こういう名乗りを上げる場面は幾度となく訪れる。

 しかし、ボクはどうしても声が出なくなってしまう。自我を通そうとしても、申し訳なさが募っていく。自分なんかより〜っていう、ありきたりなよくいる小心者だ。

 自業自得、仕様がない。余り物に埋められることにしよう。


 そう諦めていたのに、彼女は──


「……!」


 自分とペアになる人に期待を抱くような、大きく輝く瞳。その向く先は、ボクの下げかけていた手に止まっていた。

 カチッと歯車が噛み合った音が聞こえた気がした。それ程、綺麗に目が合った。


「ねえ君、手あげてたよね!?」

「うえあっ!? あ、えとー、は、はい……」

「だよね! 綾奈ちゃーん!! 美化委員希望いるよ〜!!」

「わわわっ!?」

「マジ? 助かる〜!」


 トントン拍子で話が進み、ボク自身がついていく前に、役職は決定したようだった。

 ボクができなかったことを、彼女は平然とやってのけ、何も知らない他人に劣等感を感じてしまう。


 彼女は、周りの奇怪なものを見る目をものともせずに、ボクに向き直った。


「前、書きに行こ!」

「ええっ、う、うん……」


 ボクの返事を聞いた彼女の口元は、優しい弧を描いた。


 出席番号を書くべく、教壇はクラスメイトでごった返していた。

 何となく出来上がっている列に並びながら、隣に立つすらりとした人物から目を逸らす。

 ……逸らしているはずなのだが、何故かその隣からの声は止まない。


「もー、ちゃんと我は突き通さなきゃ!」

「あ、あはは……」

「あたし、玲菜(れな)って言うの! 君は?」

「あえ、ボ、ボクですか……? えっと、白沢真依(しらさわ まい)、です……」

「まいちゃんね! あれでも、ボクってことは男の子? まいくんのがよかった?」


 女子からすれば憧れとも言えるような体型に、明るい性格。玲菜と名乗った彼女は、一見完璧超人のように思えたが、弱点が見つかった。


 ──あまり空気が読めないらしい。


 列が進み、まだ書きなれない出席番号をチョークで書きながら、聞く人によっては嫌がりそうなことを随分とストレートにぶつけるなあと考える。そう言えば、周りの視線を気にしないのも、そういうことなのかもしれない。


 でも、それがちょっとおもしろくなって。


「ふふっ」


 自分でも驚くほど軽やかに、ボクは笑みを溢した。


「いや、制服の通り、身も心も女です。ボクって言ってるのはただの癖です」


 そう真実を答える。先ほどよりも、うんと自然に話せている気がした。

 玲菜さんは一瞬固まった後、徐に口角を上げた。

 直後、玲菜さんの両手はボクの右手を覆った。


「そっか! じゃあ委員会がんばろーね! よろしく!」

「あ、うん、よろしくね」


 満面の笑みの玲菜さんの顔は、改めて顔が良いことを感じさせる。

 その笑顔で振り向きながら、こちらに手を振っている。先ほどよりも血色がよく見えたのは、差し込んだ陽の光に照らされているからだろうか。


 ……とても、かわいかった。


(……あ、助けてもらったのに、何にもお礼言ってない! 馬鹿!)


 それに気づいた時には、玲菜さんは既に自分の席に座るところで、ボクにはそこで話しかける勇気は出なかった。





「ま〜い〜!!」

「わっ! もう、急に抱き着かないでよ……こんな所で」

「だって~、3年ずっと一緒で嬉しいんだもん〜♪ 先生と仲良くしといてよかったー!!」

「あれ、そんなこと企んでたの? ありがとう、ボクのために」

「あたしがまいっちと一緒に居たかったの! ……てかさ〜、まいっちよくありがとうっていうよね」

「ごめん、いやだった?」

「わーわー! そんな顔しないで! うれしいから! なんでかなってだけで」

「……出会った時のこと、覚えてる? そのときの反省みたいな感じだよ」

「えー、委員会の時? 何かあったっけ?」

「分かんないなら、お墓までもっていこうかな。ちょっとくらい玲菜に秘密あってもいいよね」

「む〜、おんなじところで眠るんだから、土の下で聞きだしてやる〜!」

「ふふっ、ねえ、今日も一緒に眠ろ? ボクの家で」

「……も〜、眠るって言っただけだよ……? 全然いいけど……!」

「ボクこそ、眠るとしか言ってないよ? 何想像しちゃってるの?」

「……いじわる」

「我を通せって言ってくれたの、玲菜だからね。ボクは玲菜をかわいがるって決めたから!」

「……かわいい、すき」

「──!! ……ボクも、玲菜のこと大好き」


「「ふふっ」」

お読みいただきありがとうございました。

連載の方、2年ほど止まってますが、構想はあるので時間ができ次第投稿できるように頑張ります…!

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