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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-恋人-

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67 私と誰か


 その後、陽葵(ひなた)は緊急入院する事になった。

 事が事なだけに、陽葵の家族も病院へ来て事情説明を受ける事になり、私は入れ違いで病院を後にした。

 気付けば、外は既に真っ暗になっていた。


【これから色々と検査して、その上で手術だってさ】


 陽葵からのメッセージが届く。


【分かったよ、無事に成功するよう祈ってる】


 幸いしたのは、脳の腫瘍が早期に見つかった事だった。

 陽葵は年齢が若いだけに進行が早く、発見が遅れるほど命に関わる危険性があったと伝えられた。


 恐らく本来の陽葵は、病院には行かず長期化させてしまった事で最悪の結末を迎えたのだと思う。

 だからきっと、私はその最悪のシナリオを書き換える事が出来たのだと考えている。 

 ……確証はないけど、そう思いたかった。

 

「でも、もっと早く気付けたのかな」


 私は油断していた。

 心のどこかで、“もう陽葵には何も起きずにこのままずっと一緒にいられるんじゃないか?”

 “私と一緒にいる事で最悪のシナリオは書き換わったのではないのか?” そんな甘い期待があったんだと思う。

 病気による可能性だって考えていたはずなのに、そんな希望に縋ったせいで陽葵に異変が起きている事を気付けなかった。


 陽葵との関係性を取り戻した私は、自分にとって都合のいい世界に浸ってしまっていた。

 気が付いた時には、かつての身勝手な私に戻ってしまっていたんだ。

 そんな自分に辟易する。


【先生には、そこまで心配しなくていいとは言われたけどね】


 だからと言って手放しで安心出来るわけでもない。

 何があるかなんて誰にも分からない。

 心配は際限なく膨らんでいく。


【そうだよね、なら大丈夫だよね】


 けれど、その不安を陽葵に押し付けるわけには行かない。

 本人が一番辛いに決まっているのだから。


(ゆき)の言う通りだわ、変だと思ったらすぐ病院に行かないとダメだね】


 もっと早く気付いてあげていれば、とは思ってしまうけど。

 そんな私の後悔も陽葵にぶつけても仕方ない。


【うん、病気は嫌だけど、すぐに見つかったのは良かったよ】


【ほんとほんと、雪は命の恩人だ】


 ……分かっている。

 陽葵にとっては感謝の言葉の表現として使っているだけだ。

 でも私は、彼女の未来を知っていたがゆえに、“命の恩人”という言葉の重みを感じてしまう。

 きっと私は陽葵を救えたのだと、そう思いたかった。


【あたしがいなくても大学には行きなよ】


【行くけど……。講義が終わったら、すぐお見舞いには行くよ】


【オッケー、待ってる】


【うん……それじゃ、あんまり無理しないでね】


 そうしてお互いにおやすみのスタンプを送って、やり取りを終える。

 スマホから顔を上げると暗闇の中を街灯の光が照らしていた。 




        ◇◇◇




 朝起きて、一人で大学へと向かう。

 昨日はあまり寝付けなくて、寝起きは最悪だった。

 頭の奥がぼんやりとしながら、無理矢理に体を叩き起こす。


 外に出ても、隣に陽葵の姿はなくて、その声が響く事もない。

 人で混雑する駅の中を掻き分け、電車に乗り込む。

 タイミングよく席が空いていたけど、周りの目が気になって止めた。

 皆座りたいはずだから、私みたいなのが座るのは気に入らないかもしれない。

 陽葵といる時は気にせず座れていたんだけど。


「……はぁ」


 いつもと同じ日常なはずなのに、一人だと全てが億劫で味気なかった。

 陽葵がいないだけで、こんなにも別の世界が広がっている。

 溜め息しか漏れなかった。


 外の喧騒も、大学での話し声も、まるで全ての音が雑音のように聞こえてしまう。

 この場から消え去りたい衝動に駆られていく。


 唯一の救いは講義が始まれば静まり返る事だけれど、講義が終わってしまえば弛緩した空気が伝染し他愛ない会話と物音に埋め尽くされる。

 そのコントラストが激しすぎて、余計に息苦しくなっていく。


 逃げるように講堂を後にしても、どこもかしこも喧騒だらけ。

 人の行き交いと、話し声が止む事はない。

 今まで何にも気ならなかったのに、突然こんなにも気に病んでしまうのは陽葵がいないからだ。

 一人になってしまっただけで、私はこの世界との距離をとりたくなってしまう。


【ちゃんと大学行ってる?】


 陽葵からのメッセージが届く。

 周囲の雑音が掻き消え、心の中に明かりが灯る。


【行ってるよ、暇だけど】


 すぐに返事を打つ。

 けれど既読はつかなくて、何度もスマホを付けては消してを繰り返す。

 それ以外にする事がなかった。


【いつも暇してるじゃん】


 ようやく返って来た返事。

 いつもそうだけど、今日はそれだけじゃなかった。

 居心地の悪さとか、けたたましさとか、やるせなさ……みたいな。

 そんな感情が絡み合っていたけど、それは言わなかった。


【そういう陽葵は?】


【あたしも暇だわー、検査って言っても黙って寝てるだけだし。終われば他にやる事ないからやっぱりベッドで寝てるだけだし】


 陽葵が知らない生活を送っている。

 私は陽葵がいないだけで日常にこんな窮屈さを感じているのに、全てが変わった世界で彼女はどう感じているのだろう。

 私なら耐えられないストレスに潰されているかもしれない。


【入院生活も大変なんだね】


【大変だねー、知らない場所で何もする事ないって退屈】


 一人、病室にいる陽葵を想像する。

 それは確かに、彼女には似合わない光景だった。

 陽葵を閉じ込めるには病室は無機質すぎるし、狭すぎる。


【これからお見舞いに行くよ】


【もう講義終わったの?】


 本当はまだ受ける予定の講義はあったけど、まぁ、いいだろう。

 単位は後で取り返せば何とでもなる。

 それに陽葵がいない大学に意味がないのは、今日だけでよく分かった。


【終わったから、今から行く】


【そっか、気を付けて】


 そのまま大学を後にする。

 気付けば眠気は飛んでいて、外の喧騒も話し声も気にならなくなっていた。

 さっきまでまとわりついていた湿気、照らす日差しも今は気にならなかった

 足が段々と軽くなって、弾む。


 どこにいるのではなく、誰といるか。


 私は陽葵といる事が全てなんだと気付いた。




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