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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-恋人-

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62 あたしと他人


 ああ……しまった油断した。

 不意に(ゆき)が起こすものだから、いつもより注意が削がれてバランスを崩してしまった。

 最近どうにも体の調子が良くない。

 手足は痺れたり収まったりを繰り返し、その間隔が段々と短くなっている気もする。

 頭痛も昔より増えた気がするし……。

 それでもさすがに雪に覆いかぶさるまでバランスを崩すとは思っていなかったから、自分でも驚いた。


「これはこれで……願ったり叶ったり」


 いきなり抱き着いた事に雪はもっと驚くかと思ったんだけど、意外にも満足そうに頷いている。

 何か良い事でもあったんだろうか?


「なんか喜んでない?」


「喜ばない喜ばない、私を何だと思ってるの」


 そうか……気のせい、なのか?

 あたしとしては雪の体の感触を感じる余裕すらなかったのが残念だ。

 そういう意味でもさっさとこの手足には治って欲しいのだけど、この時期の夏バテには苦労する。


「そしたら帰る?」


 気を取り直して雪に催促する。


「うん、帰る」


 そもそも早く帰ろうとしていたのは雪の方だから、あたしの問いかけに雪はすかさず頷く。

 雪は、いつもすぐに帰りたがる。

 たまにはあたしのタイミングに合わせてくれてもいいんじゃないかなとは思うんだけど、そうはいかないらしい。


陽葵(ひなた)、早く早く」


「はいはい……」


 先を行く雪の後ろ姿を見ながら歩幅を合わせるのだけど、それでも結構疲れたりする。

 微妙に上手く動かない体のせいで徐々に汗ばんでくるのだけど、それはあたしの問題だから仕方ない。

 とは言え……。


「ねぇ雪、歩くの早くない?」


「ん? そうかな、いつも通りだと思うけど」


 ……んー、どうなんだろう。

 あたし的には今の雪は謎にテンションが上がっているようにも見える。

 理由は分からないけど、あたしの直感がそう囁いている。

 こういう時の雪の歩行速度は1.5倍は早くなる。(体感速度)

 テンション高めの雪がいつもより歩くテンポが速くて、調子が悪いあたしがいつもより歩くテンポが遅い。

 そんな関係性は大いに有り得ると思うわけだ。

 こんな時はどうすればいいかと言うと、だ。


「えい」


「え、なに」


 手を繋いでみた、それだけ。


「これでお互いに均等なスピードになるでしょ」


「私、そんな早かった?」


「それなりに。早く帰りたい気持ちは伝わったけど」


「……そうかなぁ」


 いつもはあたしが雪の先を歩くために手を握る事はあったけど、雪に合わせる為に握ったのは初めてかもしれない。

 その過程はどうであれ、この結果は結構悪くない気がしている。


「暑いって言ってるのに、手を握るのはアリなの?」


「雪に先を行かれて早歩きになる方が暑くなるから」


「……あー、なるほどね」


 理解してくれたみたいだ。

 さっきから後付けばかりの理由で違和感を感じさせてしまうかもと思ったけど、今の雪はそこまで気が回らないらしい。

 果たして雪の意識はどこに向かっているんだろう。


「雪、ほんとは何かいい事あったんでしょ?」


「別に、何もないけど」


 そう言って彼女はそっぽを向くけれど、この手が離される事はない。

 歩み寄ってくれるつもりはあるみたいだ。


「でもなんか、手を繋いでるのを見られるのは変な感じしない?」


「……そうか?」


「なんか仲良しアピールみたいな感じして」


 今度は周囲の見られ方を気にしているらしい。

 ここから逃げ出そうとしたり、周りの目を気にしたり、外見は大人しいのに内心は忙しいよねぇ。

 

「誰も見てないって」


「見られた時の話しをしてるんだけど」


「誰も何とも思わないって」


「それは誰にも分からない、エスパーにでもなったの?」


 でも、それも案外分かっちゃうんだな、これが。


「じゃあお聞きしますけど、雪は手を繋いでいる人を見て何か思ったりする事ある? あったとしても、その人達の顔は覚えてる?」


「……」


 雪はへの字口になりながら、視線を天井に向ける。

 記憶を掘り起こしながらも、何か思う所があるのか不満げな表情を浮かべていた。


「私、人と目合わせたくないから周り見ない」


「……その逃げ道はずるくない?」


 周りを見ないから、そもそも手を繋いでる人がいるかどうかも分からないと言って前提をひっくり返してくる。

 

「もし私が見かけたら不思議に思うだろうし、強烈に記憶に残るだろうね」


 買ったと言わんばかりに鼻息を荒くしている。

 言い返せた事が嬉しいらしい。


「……えっと、じゃあ、雪は手を離せって言いたいわけ?」


 つまり何?

 雪が言いたいのってそういうこと?


「いや、場所を選ぼうよって話。人目がつく所は見られるからやめようよって」


「じゃあ、どこならいいの?」


「……家、とか?」


 それだと結局、雪の歩くスピードに追い付くのが大変だ。

 あたしにとっては本末転倒になってしまう。


「分かった、じゃあ仮に雪の言う通りだとしよう。仲良しアピールだと思われました、それが何?」


「……何って、言うと?」


「仲良しなんだから仲良しに思われて何が悪いのって話。別に誤解でもないんだから良くない?」


「……いや、仲良しと思われる事自体が恥ずかしいって言うか」


 んー、よく分からん。

 人と関わろうとしないのに、関わらない人の目線を気にしている。

 そんなの永遠に答えは分からずじまいなのに、何の心配をしているんだろう。


「雪はあたしと仲良しなのが恥ずかしいんだ?」


「いや、そうは言ってないんだけど……」


「そう言ってるのと同じじゃない? 仲良しに見られるのが恥ずかしいんでしょ?」


「いや、そうなんだけど、そうじゃないって言うか……これはフィーリングの問題って言うか……」


 雪は顔の見えない誰かを相手にしていて、あたしはあたし自身の話だ。

 雪が不特定多数を苦手にしている事は分かっているけど、それでもたまにはあたしの事を尊重して欲しいと思うのはワガママかな?


「ほー、フィーリング? じゃあ、あたしが拒否られて悲しいっていうフィーリングはどうでもいいと?」


「ああ……いや……それは良くないけど……」


 しかし、雪の歯切れは悪いままだ。

 でも、まぁ、そうか。

 誰だって理屈じゃない嫌な事だったり、苦手な事ってある。

 それを責めるのはイジワルなのかもしれない。


「はいはい、じゃあいいですよー。雪の言うよく分からない人の為に手を離しまーす」


 繋いでいた手を離す。

 そもそも、嫌がっている事を無理にさせても嬉しくないしね。

 引き際はわきまえてるよ。


「……あー、えっと」


「いいって、雪の言う事も分かるしね」


 その心情を吐露してくれるのも、あたしの事を信用してくれる証拠なんだろうから。

 あまり望み過ぎても罰が当たるというものだ。


「……はい」


「おっと」


 けれど、今後はあたしの手が引かれる。

 その手がまた雪と繋がれていたからだ。


「……雪?」


「ごめん、確かに陽葵の言う通りだ。よく知らない人の為に陽葵をないがしろにするのはおかしいよね。私が間違ってた」


 そう言って雪の手がひと際強く、あたしの手を握って来る。

 これが答えだと言わんばかりに、あたしに証明してくるように。


「ごめんね」


 そう言って謝る雪に、あたしの心が波立つ。


「あたしは優しいので許してあげましょう」


「……自分で言うんだ」


 一度離れても、また繋がればいい。

 次は離れないように、もっと強く引き付けるから。







【おしらせ】


 お久しぶりです。

 長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。

 最終話まで執筆しましたので今日から毎日更新していきます。

 よろしくお願い致します。







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