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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-恋人-

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61 私は推測する


 そんな私の回想に浸ったわけだけど、忘れちゃいけないのは思い出に浸る事が目的ではない。

 あくまで陽葵(ひなた)への誕生日プレゼントのヒントを探るためのものだ。

 彼女の誕生日に対する行動から読み取れるものがきっと隠されているはずだ。


 一つ、陽葵と同様にマフラーを渡すのはどうだろう?


 速攻で却下だ。

 どこにこんな暑い時期にマフラーを渡す人がいる。

 ほとんど嫌がらせになってしまう。


 二つ、アクセサリーはどうだろう?


 微妙だ。

 陽葵も私にアクセサリーを贈るかどうか迷っていたから選択肢としては悪くないだろうけど、去年の私はアンクレットを贈っている。

 新鮮さも感じられないし、陽葵自身はアクセサリーを多く持っている事からも、どうせなら違う選択肢をとった方が無難だろう。


 三つ、香水はどうだろう?


 “いやー、あたしも色々考えたんだけどね? アクセサリーとか香水とかさぁ”

 これは去年、陽葵が挙げた候補の台詞だ。

 人に贈りたいと思う物を、本人が貰って嫌がる可能性は限りなく低い。

 だからきっと喜んでくれるに違いない。


 だが、私は香水に関しては無頓着だ。

 毎回同じ問題に辿り着いてしまうのだけど、とにかく陽葵の香水の好みを把握する必要がある。




「いやー、講堂も暑ーい。もっとクーラー利かせてよぉ」


 隣に座る陽葵が悪態をつきながらハンディファンで顔を煽いでいた。

 その様子を見て、これはチャンスだと閃いた。


「ほんとだね、ちょっと私も風当てて」


 と、さりげなく顔を寄せる。

 もちろん、目的は風に当たる事ではない。

 陽葵に近づいて、それとなく匂いを確かめる為だった。


「うえっ、えっ、ちょっ、めっちゃ近づくじゃん」


 首筋当たりに鼻を近づけたら、陽葵が驚いて引いてしまった。

 これではまだ陽葵の香りが分からない。

 どんな香りが好きかを本人に聞くのは簡単だけど、このタイミングで聞けばそれがプレゼント由来であると勘づかれてしまう可能性は高い。

 だから、それとなく陽葵の好きな香りを知る必要があった。


「近づかないと風当たらないからさ」


「それで引っ付いたら余計暑いし、ほら、貸してあげるから」


 そう言って陽葵がハンディファンをこちらに渡す。

 だけど、私は本当に風邪に当たりたかったわけではない。

 

「物持つの疲れる」


「いつの間にそんなお姫様になったの?」 


 今だけです。


「だから、陽葵が風当たってるついででいいの」


 よし、上手く誤魔化せた。


「いや、でもそんな近づかないで欲しいって言うか……」


「え」


 はっきりと距離を縮める事を拒否される。

 隣に座っていながら、どうしてこれ以上の接近する事が許されないのか。

 微妙な線引きに少しショックを受けた。


「ああ、いや、そうじゃなくて、ほら暑いからあたし汗かいちゃってるし……分かるでしょ?」


「あ、うん、大丈夫」


 汗をかいても香水の香りは分かるから大丈夫だ。

 問題はないから安心して欲しい。

 という事で私は風に当たるフリをしながら顔を近づける。


「な、なんも分かってないっ! こ、こっち来ないでっ!」


「うぐっ」


 しかし、陽葵の手が私の頭を押しのける。

 何でそんなに頑なに拒否するのだろう。


「だから、汗臭かったら嫌なんだって」


「私そういうの気にならないし」


「こ、こっちが気になんの……!」


 ぬぬ……陽葵の手が引かれる事はない。

 これではいつまで経っても陽葵の香りが分からないが、あまりしつこくても疑われるだろうし。

 引き際は肝心だ。


「分かった、やめる」


「な、ならいいけど……」


 微妙な空気にはなってしまったけど、仕方ない。

 何か他にチャンスがあればいいのだけど……。




        ◇◇◇




「よーし、終わったぁ」


 講義を終えると、 陽葵は本当に疲れてしまったようで、今度は机にもたれてしまう。

 私もその解放感に合わせて、体の力を抜く。


「大学の講義って長いから疲れるよね」


「それなー、専門用語ばっかりで何言ってるのか分からない事も多いし。しんどー」


 それはいいのだけど、しばらく待っても陽葵に起きる気配がない。

 机に突っ伏したまま脱力しきっていた。


「ねえ、終わったんだから帰ろうよ」


 昔から私が学校は終われば即帰宅したい人間だ。

 駄弁るという文化も知らず、不特定多数がいる学校という空間から逃げ出したいタイプだった。

 我ながら本当に社会性に乏しい人間だと思う。


「んー、そうだねぇ」


 けれど陽葵は生返事するばかりで、起きる気配はない。

 彼女からすれば、学校にいるのも外に出るのも大差がないから居座れるのだろう。

 集団の中にいる事に抵抗がないんだ。

 私にとっては結構な違いがあるので、すぐに出たいのだけど。


「早く帰ろうってば」


 しかし、私もこればっかりは譲れない。

 私は立ち上がり、未だに机にもたれる陽葵の腕を取って引っ張り上げる。


「腕もげるー」


 陽葵の髪がさらさらと揺れてアーモンド形の瞳がこちらを覗く。


「本当に腕取っちゃうよ」


 腕を上下左右に揺らして訴えかける。

 ちなみにそんな力は入れてない。


「分かった分かった、そしたら起こしてもらおっかなー」


「え、あ、うん……」


 すると今度は陽葵の両手が私の腕を掴んでくる。

 起きる気にはなったみたいだが、多少は手伝って欲しいらしい。

 まぁ、それくらいは私も頑張ろう。


「はい、せーの」


「おいしょ」


 お互いに息を合わせて、陽葵が私の腕を引っ張り、私は陽葵を引き上げる。


「……あ」


 間の抜けた事と共に、陽葵がこちらに倒れ掛かっていた。


「え、ちょっと陽葵」


 当然、私は陽葵の体を受け止める。

 思っていたよりも強めの圧が体に加わってきたけど、何とかこちらも両手で陽葵を抱いて堪える。

 どこまで無気力なのか、立ち上がってからもお手伝いするのは想定外だった。


「お、重たいっ、そろそろ自分で立ってよ」


「……ご、ごめんごめん、えへへ、さすがに甘え過ぎたか」


 数拍の間を置いてから、ようやく陽葵の足腰に力が入る。

 そうして体が離れて行く時にふわりと空気が揺れて、わずかな甘さと吹き抜けるような清涼感のある香りが鼻孔をついた。

 

「いやぁ、ごめんごめん。思ったより乗っかっちゃってビックリしたよね」


 陽葵が頭を掻いて苦笑する。

 思っていたよりも脱力しすぎてしまったらしい。 

 無理矢理にでも立たせようとした私にも責任はあるから、お互い様だとは思うんだけど。

 何より……。


「結果オーライだから良かった事にするよ」


「……ん? そうなの?」


 なるほど、陽葵はすっきりとした香りが好きなようだ。

 思わぬハプニングではあったけれど、目的は達成されたから良しとしよう。

 陽葵の心地よい香りも合わさって、不思議と満足感があった。







【おしらせ】


 いつも読んで頂きありがとうございます。

 大変申し訳ないのですが、少しの間お休みを頂こうかと思います。

 読んで下さっている方にはお待たせしてしまって申し訳ありません。

 よろしければ気長に待って頂けると幸いです。







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