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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-恋人-

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56 あたしとの未来


(ゆき)って将来働きたい職業とかってあるの?」


 電車を降りて、二人で帰路へと向かう中。

 あたしは何となしに雪に尋ねてみる。

 お互いに進学に関して話した事はあっても、その先にある未来を話した事はなかったからだ。

 まだ気が早いかもしれないけど、雪がどう考えているのかには興味がある。


「いや……特にないかな、普通にこの辺の中小企業の事務として働くんじゃないかと……」


「あ、そうなの……?」


 その話題に触れた途端、雪の肩が落ちたように見えた。

 妙なリアリティと重々しさを持って、雪は溜め息を吐く。

 こういうのってもっとポジティブな会話になるんじゃないの?

 あれしたいとかこれしたいとか、将来の夢に花を咲かせてさ。


「そんなに気が進まないなら、やりたい事見つけてもいいんじゃない?」


「そうだね、ちゃんと定時退社が出来る会社を選ぼうと思う」


 ……いや、そうじゃないんだけど。

 もっとこうワクワクとかドキドキするような、雪のやりたい事を探してみればいいのに。

 どうしてこう現実的というか、もう諦めている空気が流れているのだろう。


「そうじゃなくて、もっと夢のある事をさ」


「うん、残業代をちゃんと出してくれる所だね」


 それは絶対夢じゃない。

 なんだろう、もっと楽しい事を考えてもよくない?


「そもそも働きたくない、とか?」


「そうだね、それはそうっ」


 珍しく雪が語尾を荒げて強く頷いた。

 あたしも働きたいとまでは思ってないけど、そんなに強く否定するほど嫌とも思っていない。

 働く事に何かトラウマでもあるのだろうか。

 雪、働いた事ないはずなのに。


「知ってる陽葵(ひなた)? 本当の意味でコミュ障で孤独に生きていけるのって学生時代までなんだよ」


 何か語り始めた。

 禍々しい暗黒のオーラが背中から放たれ始めている気がするけど、ここは素直に耳を傾けよう。

 こういうの聞いてくれる人、あたし以外にいないだろうし。


「社会は人間関係の渦に飛び込むようなもの、そこではコミュ障とか通用しないし、人との関りを断つ事は出来ないんだよ。ていうか断ったら働いて行けないから自動的に社会から弾き出されるんだよ」


「……はぁ」


 まるで社会で働いてきたような人の言い様だ。


「でも雪はアルバイトとかもした事ないよね? 何で言いきれるの?」


「……それはほら、見てたら分かるじゃん」


 とにかく雪には分かるらしい。

 言ってる事は間違ってはないと思うし、きっとそうなんだろうなとはあたしも思うけど。

 そこまで力説出来る程の経験もないのに、雪は断言するから不思議だ。


「じゃあ、そうだとしてよ? それなら雪も社会の荒波に飲まれないようにコミュ力磨いたらいいんじゃない?」


 いや、あたしは雪のしたいようにしたらいいとは思ってるんだけど。

 そんなに社会で生きていくにはコミュ障ではいけないと思うのなら、そうならないようにするのが自然じゃないのかなと思っただけで。


「はっはーん、陽葵は分かってないなぁ」


 なのに雪に肩をすくめてやれやれと言わんばかりに嘲笑われた。

 なんでだよ。


「今しかコミュ障が許されないんだから、学生の内はなるべく人と関わらないよ」


「……正しいのか、それ?」


 とりあえずドヤ顔で言う事ではないと思う。


「間違ってますよ、ええ、間違ってるのなんて自覚してますよ。それでもどーしようも出来ない人間なんですよ」


 今度はヤサグレていた。

 あたしが将来の話をしたせいで雪がおかしくなってしまった。

 もっと楽しい話になると思ったのに。


「私だって誰とでも分け隔てなく話せる人間ならその方が良かったよ、陽葵みたいになりたかったよ」


「え、あ、そう……?」


 あたしの事をそんな風に思ってくれてたの?

 しかも雪はあたしみたいになりたかったの?

 異様な雰囲気で、あたしが知らない感情をいきなり吐露してくるから、こちらも情緒がおかしくなる。


 「まぁ、でもさ。雪さっきから“コミュ障だ”とか“孤独だー”とか言ってるけどさ、ちがくない?」


「え、私を掴まえてそれ言うの?」


 雪はかなり自分の事を卑下しているけど。

 別にそんな言うほど酷くないと言うか、何なら言ってる事は結構間違っていると思う。


「いや、あたしがいるじゃん。その時点でコミュ障でも孤独でもなくない?」


 こうやって話を聞いてくれる友達がいるのに、何を言っているんだろうこの子は。

 全然当てはまってないでしょ。


「……陽葵がいる事は大前提にしているから、それは別問題」


「……え?」


 勝手すぎる理屈で押し通された気がする。

 それでも気分が悪くないのは何でだろう。

 我ながらチョロすぎる気もする。


「とにかくさ、そんなに将来にネガティブにならなくても大丈夫だって、考え過ぎ」


 昔の雪なら、そう思っても仕方ない部分はあったと思うけど。

 今の雪なら、そうは思わない。

 変わった自分をもう少しだけ受け入れて、認めてあげてもいいんじゃないかと思う。


「確かに、陽葵がそう言ってくれるなら方法はまだあったね」


 何か思いついたのか、雪の顔が少し晴れやかになる。

 やっとあたしの思いが伝わって、ポジティブな感情が芽生えたのかもしれない。


「陽葵が働いて私を養ってもらう。あ、大丈夫だよ家事はするから。これなら私の人間関係は陽葵で完結するね」


「……えっと」


 一気に膨らんでいく未来へのイメージ。

 それはつまり、同じ家に住むって事でいいのかな?

 そして今後も一緒にいるという事でいいんだよね?


「いやいや、ボケてるのにシカトしないでよ。それじゃヒモだからダメでしょって言ってくれないと」


 雪のボケは分かりにくすぎる。

 しかも待って欲しい。

 その場合はヒモではなく、嫁の可能性……って、あたしも頭壊れてるな。


「雪にはそれくらいしてあげないとダメなのかなって思ったんだよ」


「やめてよ、私みたいな自堕落な人間は本当に甘える可能性があるんだから」


 ……そこまで想像して、割と抵抗なく想像できてしまっているあたしがおかしいのか。

 時に冗談は冗談として機能しない人間もいるという事を雪には分かって欲しいのだけど、こればっかりは説明するわけにもいかない。

 でも、仮にそれ冗談だとしても、雪が口に出したという事はそんな未来も悪くないと思ってくれているはずだ。

 その事実は心地よかったりする。


「ていうか、そういう陽葵こそやりたい仕事ってあるの?」


「え、あー、あたしかぁ」


 聞いておいてなんだけど、あたしはそれこそさっぱり。

 未来に悲観もしていなければ、希望も特に持っていない。

 漠然としすぎていて、何も見えていない状態だ。


「何もないかな」


「私よりヒドイじゃん、よく言えたね」


 なぜか未来が固まっていそうな雪がどうしていくかを見守りながら、これからの事を考えればいい。


「自分の事は棚に上げれるタイプなんだよね」


 何も見えていないあたしだからこそ、それでいいんだと思う。

 雪に合わせて、あたしが沿うように形を変える事が出来るのだから。

 押し付けるだけじゃなくて、たまにはあたしが引かないとね。




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