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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-恋人-

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51 私の苦手なもの


 大学生活が始まったと言っても、そもそもの生活はあまり大きく変わらない。

 陽葵(ひなた)には私と同じ大学を選んでもらったから、地元での生活を続ける事になる。

 つまり私は自分の住んでいる一人暮らしの部屋のまま、陽葵は実家のままだ。


 そもそも私からすると元々通っていた大学だけにモチベーションも低い。

 それを言いだしたら高校もそうだと言われたらそれまでなのだけど、高校はまだ淡い記憶があって、大学はもはやつい最近の記憶。

 自身の無気力さが災いしてサボりがちになり、単位を落として一年留年になったのは完全に黒歴史だ。

 いや、この世界ではそれがなかった事になっているのだから黒歴史にはなっていないのか。

 ちょっと嬉しい。


 ともかく、私はそんな人間なのでまた同じ事を繰り返さないかという不安もある。

 このまま、またあの頃のような無気力人間になってしまったらどうしよう……。


(ゆき)ー」


 ――ピンポン、ピンポン


 と、何度もチャイムが鳴る。

 何だ何だと慌てながら扉を開けると、そこには陽葵の姿があった。


「……あの、朝からうるさいよ」


「もうすぐ時間だって、急いで準備しなよ」


 それでも昔と明確に違うのは隣に陽葵がいる事で。

 彼女がいてくれるなら、大学へ行くモチベーションが落ちる事はないのかもしれない。







 移動手段に関しては少し変わって、高校は徒歩圏内だったのだけど、大学では電車を使用する事になる。

 そしてこれが私の大学への通学を敬遠させた理由の一つでもある。


「人が多い……」


 その人混みによる密集感に辟易する。


「仕方ないでしょ、通勤・通学時間なんだから」


 陽葵に諭されるが、それで納得できるなら私は留年していない。


「……それでも嫌なものは嫌なんだよ」


 おかしい。

 こんな知らない人と身を寄せ合うような密閉空間に箱詰めにされるなんておかしい。

 もうちょっと人にはパーソナルスペースというものが必要はなずだ。


「混んでる電車って恋人並みの距離感の時あるよね、他人同士でそれやるのって変じゃない?」


「表現独特すぎだから、いいから行くよ」


 そうして陽葵に手を引かれる。

 運良く席が空いていて、二人で座れた。

 ラッキーな日だった。


「……さっきの話の続きだけどさ」


「ん?」


 座れた事に多幸感を感じていて、少し集中が逸れていた。


「じゃあ、今のあたし達の距離って雪的には嫌じゃないわけ?」


「……あー」


 “恋人の距離間を他人同士でやるのはおかしい”という私の発言を差しているんだと思う。

 最近はその手の単語が頭に浮かんでいるから、無意識で言葉にしてしまうようだ。


「嫌なわけないよね」


 むしろ陽葵がいてくれて助かっている。

 一人ではこの人混みに勝てそうにない。


「……そう」


 陽葵の言葉尻は非常に柔らかいけれど、これ以上は言及してこない。

 こんな曖昧な距離間がずっと続いているような気もしていた。

 







 大学の敷地は広く、建物も応じて大きいため入学当初は場所を覚えるのも一苦労だった。

 当たり前のことだけど、すれ違う人も知らない人ばかりで、接点もないから記憶するのも難しい。

 だが、隣の人がいつも視線を集めている事だけは毎日同じように起きていた。


「いっつも見られてるね」


 隣のモテる女にジト目を向ける。


「……あー。まぁ、声掛けられないだけいい方じゃない?」


 入学当初はそりゃ大変で。

 サークルには誘われるわ、遊びや飲みに誘われるわ。

 大学ノリが陽葵に一点集中していた。


 しかし、私は思うのだ。

 これは彼女にも問題があると。


「そんなお可愛い見た目してたら、そりゃ声掛けられるでしょ」


 ミルクティーブラウンの毛先はゆるく巻かれ、黒のシアーシャツに白のトップス、ワイドデニムに厚底のボリュームサンダルを履いている。

 あのね、単純に素材がいいのに盛り付けまで完璧ときたら、そりゃ目立つに決まっている。

 もはや“声掛けてくださいねー”と自ら言っているのと変わりないと思ってしまうのは私だけだろうか。


「え、あ、そう……?」


「分かり切ってるのに新鮮な反応しないでよ」


 それこそ、そんな声の掛けられ方も一度や二度ではない。

 彼女だって自覚は当然あるはずだ。


「雪にはあんまり言われないからさ」


「……あー」


 他の人が勝手に言ってくるから、言う暇もないのだ。

 その度に私はモヤモヤとかイライラとした感情を覚えるのだけど、これは陽葵に対する嫉妬なのだろうか。

 だけど陽葵が他者の羨望を集めるのなんて今に限った話ではないはずなのに。

 どうしてこの気持ちは右往左往していくのだろう。


「もっと言ってくれてもいいんだよ?」


 陽葵がおどけながら身を乗り出してくる。

 まんざらでもないらしい。


「他の人が言ってきたらテキトーにあしらうのに?」


 特に男性が迫って来た時の陽葵の塩対応といったらない。

 明らかに高校の時よりも徹底するようになっていた。


「変に期待させた方がめんどくさいからね」


「……それは矛盾してるんじゃないかな」


「なにが?」


「期待させたくないなら、そもそもお洒落なんてしなければいいんだよ」


 それは、満開に咲いた花が蜜を垂らすような行為に近い。

 そんなの寄って掛かってくるに決まっているのだ。


「……そういう雪は、頑張らなすぎなんじゃない?」


「ん?」


 なぜか私にカウンターが返って来る。


「むしろ陽葵も私を参考にしたらいいと思うよ」


「いや……上下ジャージはさすがに……」


「え、かっこいいでしょNIIKE」


 私は最初の方こそ私服を頑張っていたものの(それでもどこにでもあるシンプルな装いだけど)、段々疲れてジャージを着用するようになっていた。

 どーせ誰も見ていないのだし、ジャージはスポーティーでメンズライクでかっこいい。

 カッコいいけど男子ウケはきっと良くないだろう。

 だからこそ陽葵も真似るべきなのだ。


「百歩譲ってそれはいいとして、靴が……」


「え、addidasのどこに問題が?」


 どちらも超人気のスポーツメーカーで、お洒落さんも着ている事は私も知っている。

 陽葵だって着用しているのも見た事がある。

 決してモテる服装ではないが、問題があるコーデでもないはずだ。


「禁忌だよ、その組み合わせ」


「……え?」


 なぜか知らないが、私服でスポーツメーカー同士の組み合わせは避けた方が無難らしい。

 なんだ、それ。

 誰が決めたんだそんな事。


「まぁ、雪の私服問題はいずれあたしが解決するとして」


「なんでいつの間にか私服問題が私に?」


 その対象は陽葵だったはずなのに。


「あたしはこのままで行くよ」


「それだと、諦めない人はしつこく注目しちゃうんじゃないの?」


「それは面倒だけど、雪に言ってもらえたからさ」


「……私が?」


 すると陽葵はふんと鼻をならしてそっぽを向く。

 髪がなびいて、その横顔のシルエットが隠れてしまう。


「可愛いって言ってもらえる方が、あたしの気分がいいってこと」


 陽葵はその他大勢の賞賛を面倒がっているのに、私一人の言葉でそれを貫く理由になるそうだ。

 それはきっと私の事を大事に思ってくれている証明に違いない。

 だから、私は今日も彼女の隣に並ぶ。




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