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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

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48 私の卒業式


 日が経ち、季節は冬を迎えていた。


 陽葵(ひなた)と私は、無事に同じ大学に合格する事が出来た。

 陽葵は私の進学希望していた大学の方が偏差値が高いと言っていたが、そんなのどんぐりの背比べで、一緒に頑張れば何とかなったのがその証拠だ。

 結果発表を見る前の陽葵はそれはそれは青ざめた表情を浮かべていたけれど、無事に自分の合格を知るや否や飛び跳ねるように喜んでいた。

 つられて私も思わず飛び跳ねてしまって、いつかの自分の合格通知よりもずっと喜んでいる事に気が付いた。ちょっと恥ずかしい。


 そうして今日は卒業式を迎えている。


 外の景色にはまだ雪が少し残り、外に出ればマフラーや手袋が必要な程度には寒かった。

 体育館で行われる卒業式の光景に思う所はあまりないけれど、今日を迎えられた安堵感と未来に対する高揚感と不安は入り交じっている。

 考えるのは陽葵の事で、ここから先の事は未知数だった。

 人生それが当たり前なのに、いざ何も分からない手探りの状態で始まる未来に少しだけ怯えていたのだ。







「いやー、長い、長すぎる」


 式を終え、卒業生が体育館から退場し教室へ戻ろうとする中、列なんて気にせず隣に並んだのは陽葵だった。

 すすり泣く子もいるなか、今日も彼女は自由気ままだった。


「分かる、こんな紙切れをもらうのに長時間待つ必要ないよね」


 とは言え私も同じように同調し、筒に収められた卒業証書をぷらぷらとかざす。

 果たしてこの卒業式を歓迎している人が何人いる事だろう。

 それは私達だけじゃなくて、在校生も先生も含めた皆に対してもだ。

 “卒業式”という形を成した儀式が必要な事に異論を唱える気はないけど、やり方として時間はもっと短縮していいと思う。

 スピーチとか合唱とかだけで十分じゃないかな。


「あと何ていうか、こーいう雰囲気が苦手なんだよねぇ。物悲しいっていうか寂しいっていうか、分かってた事なのに今さらいつも通りじゃなくなる空気感がさ」


「……あー」


 それも分かる気はする。

 昨日までは当たり前だった日常が、その終わりを迎える境目が現実になった瞬間に日常からかけ離れてしまう。

 厳密に言えば、昨日も今日もそうは変わらないはずなのに。

 私達は本当に変わる明日よりも、過去を振り返る今に意識が囚われてしまう。

 明日になれば、卒業式の余韻なんてほとんど残っていないのに。


「まぁ、あたし達はこれからも一緒なわけだし、そんな感覚ないのも仕方ないんだけどさぁ」


 私はこの先も陽葵と一緒にいられる事の喜びをもっと感じていた方がいいのだろう。 

 でもその一方で、それは陽葵には当てはまらないんじゃないかとも思ったりする。


「でも陽葵は他の友達もいるんだし、寂しいんじゃないの?」


 私は陽葵しかいないけど、陽葵は私だけではない。

 特に一緒にいるはずの未来を奪ってしまった北川(きたがわ)さんの事が強く引っかかる。


「あー、まぁね。()()はね」


「……ん?」


 なんだろう。

 矛盾点を突いてるはずで、そこを認めてくれているのに訂正はないという違和感。

 その先を聞こうと思ったけど、気付けば教室に着いていて答えは聞きそびれてしまった。







「ごめんっ、ちょっと後輩に呼ばれてさ。顔出してすぐ戻って来るから待っててくれる?」


 HRも終わり、とうとう高校生活最後の別れの時間が差し迫る。

 様々な感情を抱いている生徒の中、やはり人気者の陽葵は引く手数多のようで、その門出を祝福したい人は多いようだ。

 分かっている、それは彼女の宿命に近い。


「……早くしないと、先帰るよ」


 分かっていた、はずなのに口から出た言葉はおよそ理解のない自分勝手な発言だった。

 胸の中にモヤッとする塊があって、それをぶつけるような悪態をついてしまった。

 こうして一緒にいられるだけで喜ぶべきなのに、私は一体何をまだ求めているのか。

 自分の浅ましさに、自分で落胆する。


「分かってるっ、マジごめんって。秒で終わらせて来るからっ」


 陽葵は両手を頭の上で擦り合わせながら、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて走り去る。

 少しでも早く用事を終わらせようとしてくれているのが痛いほど伝わって来た。

 いや、冷静に考えて卒業式の時くらい別れの時間はゆっくりと使った方がいいに決まっている。

 それを私は……本当に大人げなくて、幼い自分に参った。


白凪(しろな)さん、ちょっと時間ある?」


 そうして私は誰とも話す事なく終えると思っていたのに、声を掛けてくる人が一人だけいた。

 

「……北川さん」


 あの日以来、私は彼女と話す事はなくなった。

 北川さんの気持ちを知り、その未来を奪った私と、奪われた彼女に溝が出来るのは必然だったからだ。

 今でもこうしてやり取りするのはすっごい精神的エネルギーを使うのだけど……それも自業自得だし、最後までお互いに無視して終わるよりはずっといいのかもしれない。


「私はヒマだから大丈夫だよ」


「陽葵待ちでしょ? 多分けっこー時間掛かるから、ちょうどいいかもね」


 そうして肩をすくめる北川さんは、以前のような軽やかさがあった。

 ずっと過去に囚われて反応を伺う私よりも、彼女の方が大人なのかもしれない。

 それはそれで私の立場はないけど。


「白凪さんは卒業式で泣いたりしないんだね」


「北川さんもね」


 お互いに別れには無感動なタイプのようだ。

 教室は少しずつ人が減り、残った生徒も思い思いに時間を過ごしている。

 雑多な空気感の中、私と北川さんの声はお互いにしか届かないような静けさだった。

 それに誰かに聞こえたところで最後なのだからもういいだろうと、そんな最後の解放感のせいか場所を変えるでもなく話し始める。


「二人とも大学合格したんでしょ、おめでとう」


「……あ、ありがとう」


 早速というか、揉めた原因となった話題に触れてくる。

 お互いに志望校は変えず、変わったのは陽葵だけだった。

 その差が決定的なのだけれど、それだけにこちらとしては息苦しい。


「北川さんも合格おめでとう」


 煽りではない。

 本当におめでたい事ではあるのだから、祝福するのは大事だ。


「ありがとう、陽葵がいないんじゃ喜びは半減以下だけど」


「……」


 ごめん、と言いかけて、それはあまりに北川さんに失礼だと思って言葉を飲み込む。

 私が決断して行動した結果だ。

 それで北川さんが傷付いたとしても、その結果は飲み込むしかない。

 間違っても謝るなんて、彼女を見下ろすような行為をしてはいけないと思った。


「そんな露骨に困った顔しないでよ。あの時は色々言ったけどさ、選んだのは陽葵でそれが全て。わたしは選ばれなかったってだけなんだから、白凪さんはスマートにしてればいいんだよ」


「……それはちょっと難しいかな」


 私は心まで氷で出来ているわけじゃない。

 罪悪感だって抱くし、自分の選択が絶対に合っている確信しているわけでもない。

 その揺らぎの中で、出来る事をしただけだ。

 出来る事なら北川さんだって悲しませたくはなかった。


「まぁ、わたしの事はいいんだ。それはもう話したからすっきりはしてる。最後に話したかったのは白凪さんと陽葵のこと」


「な、何か言いたい事があるの?」


 何だろう。

 これ以上、お気に召さない事があるのだろうか。

 何が北川さんの口から飛び出てくるのかと思って、内心ドキドキで彼女の言葉を待つ。


「二人とも、いつ付き合うの?」


「……」


 ……ん?


 思っていた方向性とは全く違う北川さんの問いに、私は頭をフリーズさせる。

 き、聞き間違いかな?


「いや、普通に真面目に聞いてんだけど」


「え、付き合うって……私達……」


 女子同士、と続けようとしてその言葉に詰まる。

 相手は陽葵を好きと言った北川さんだ、その価値観を否定する事になるし、私だって女性同士が好きになるのがおかしいと思ったりなんてしない。

 ただ、自分にその感情があるのかどうかを問われた事に驚いただけ……で。


「え、なに、この期に及んで隠す気?」


「か、隠す……?」


 怪訝そうな表情と慌てたように瞳を瞬かせているけど、そうしたいのは私も同じだった。


「だって、てっきり白凪さんもそうだから陽葵を誘ったんだとばっかり」


「いや、私はあくまで友達として……」


「……ああ、そーいう」


 納得したのかしてないのか、北川さんは頭を抱えていた。

 そうしたいのは私も同じなのだけど。


「なるほどね、陽葵も苦労するわけだ」


「え、あ、うん?」


 苦労はさせたと思う。

 罪悪感もある。

 だけど、今の会話の流れからはそれを感じる要素がない。


「あのね、白凪さんは善意で陽葵を誘ったと思うよ? 分かった、そこに疑う余地はないとしよう。でもさ、陽葵はどうして白凪さんの誘いを受けたんだろうね?」


「そ、それは……と」


「それをさ、友達だからって言うのは簡単だよ。でもさ、わたしとも友達なんだよ。ならその差は何? 友情の差? 白凪さんはちょっと前まで喧嘩してたのに? それとも幼馴染の腐れ縁だから?」


 明確な答えはない。

 私の中にあったのは“大学時代の陽葵は、私と会おうとしていた”という事実だけ。

 そこにある感情は分からず、それをこの先で知ろうと思っていた。


「考えた方がいいと思うよ。じゃないと、陽葵が可哀想」


「……陽葵が、かわいそう」


「はぁ、こんな事をわたしがやるんだから損な役回りだねぇ、ほんと」


 すると、北川さんは私に近づいて隣に立つ。

 いつになく至近距離で、ちょっと怖い。


「ほらっ、陽葵の事は任せたよっ」


 パンッと音が鳴るくらい背中を叩かれた。

 痛い。


「な、なんで叩くの……」


 気持ちは嬉しいけど、それだけが解せない。


「応援と腹いせ」


 そんな相反する感情を北川さんは笑顔と共に零す。

 陽葵の事もそうだけど、北川さんの想いも汲み取らないといけないのだろう。

 今はまだよく見えていないけど。




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