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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

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33 私は予定を組んでみる


 バスに揺られて、窓に映る街並みを眺める。

 ビルの背丈が段々と高くなっていて、視界のほとんどが建造物に埋め尽くされていく。

 私が向かっているのは街の中心部の繁華街。


 目的は陽葵(ひなた)の誕生日プレゼント選びだった。

 慣れない事をしようとしている自覚はあったけど、陽葵の為と思えば躊躇いは少なかった。

 いや、陽葵が喜んでくれると私も嬉しいのだから結局は私の為なんだろうか……?


 よく分からない思考の袋小路に入りながら、繁華街へと辿り着く。

 照り付ける陽ざしと、それなりに多い人の数に鬱屈さを覚えながら足を進める。

 向かう先も決めていて、とあるファッションビルの中にあるアクセサリーショップを目指していた。

 私でも聞いた事のあるお店の名前で、ネットで調べる限り評判も良さそうだった。


「……ここか」


 アクセサリー屋さんの入口を眺める。

 白を基調とした外装に、透明なガラスのディスプレイに様々なアクセサリーが展示されている。

 しかし、何をどう基準に選んだらいいかはやっぱりよく分からない。

 社会人時代を経てると言っても、こういった物に興味がなければ案外そのままスルーして生きてはいけるもので。

 自分自身にセンスが培われていない事が悔やまれた。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


 うろうろと見ているとスーツに身を包んだ女性の店員さんに声を掛けられる。

 普段なら声を掛けられただけで退店を決意する事がほとんどなのだけど、今回ばかりはそうもいかない。

 ここで逃げ出すとプレゼントも遠ざかって行く事が分かっていたからだ。


「えっと、友達にプレゼントしようと思って……」


「そうでしたか。何を送るかは決められていますか?」


「いえ、それも見て決めようと思って」


「それでしたら、こちらがお勧めになりますが――」


 店員さんのセールストークの餌食になりそうで怖いけど。

 それでも、ここまで来たら腹を括るしかない。

 私は店員さんの話に耳を傾けつつ、かと言って鵜呑みにするだけでなく、尚且つ自分の感性も信じつつ……いや、タスクが多すぎて無理かもしれない。

 うっすらと絶望感を覚えながら、プレゼントの迷路へと迷い込んだ。







「ありがとうございました」


「あ、はい、ありがとうございました……」


 店員さんがお店の出口まで同行して、商品が収められたショッパーを手渡される。

 わざわざそこまでしなくても、レジで渡してくれた方が気楽だと思うんだけど……。

 白く艶々としたビニールっぽい袋に、店名の英語が小ぶりに綴られている。

 余白が多くて、謎のお洒落さを感じさせた。


「……はぁ」


 お店を出ると達成感や開放感を感じると同時に、どっと疲れも感じる。

 背伸びをしすぎて緊張してしまった。

 早く家に帰ろうと歩き出すと、いつもより早足になっている気がした。







「さて……どうしよう」


 庶民的すぎる私の部屋と、都会的すぎるショッパーのコントラストは目をつぶるとして。

 ローテーブルの上に置いたそれを眺めながら、私は考えあぐねる。

 これをどのタイミングで渡すのか、そこで悩んでいた。

 学校で渡すにはショッパーは目立ちすぎるし。

 かと言って中身だけ持って行くのは味気ない。


 そうなったら、もう放課後に渡すしかないという結論に至る。

 

 陽葵の誕生日は7月1日で、その日は平日だった。

 だから放課後の時間を、私に譲ってもらうしかない。

 陽葵にも事情があるのではないかとも思ったけど、こればっかりは聞いてみるしかない。

 私はこれ以上は深く考え込まない事にして、明日を待った。




        ◇◇◇




「陽葵の誕生日、放課後って予定ある?」


 翌日の朝。

 陽葵と学校に向かう最中で、私は例の話題を持ち掛ける事にした。

 私の問いに、陽葵がぴくりと肩を揺らす。


「え、ない、空いてるけど」


 急にぎこちなくなる陽葵の声に違和感を感じながらも、幸先のいい会話の滑り出しに気持ちが少し高揚していく。

 

「何か予定、入りそう?」


「あ、や、多分大丈夫。とりあえず空いてるから」


 先約がないと言うのなら、私が予約しておくしかない。


「それじゃ、その日は私の家に来て欲しいんだけど」


「……え」


「え、って?」


 いよいよ動きまで固くなっていく陽葵だけど、何がそこまで気になるのだろう。

 そんなにおかしな事を言っているだろうか。

 私としては誕生日プレゼントを穏便に渡すために、家に来て欲しいのだけど。


「それはつまり、あたしの誕生日を(ゆき)が祝ってくれるって事でいい?」


「……あ。そうだね、そう言う事」


 正直、プレゼントを渡すしか考えていなかったんだけど。

 確かにどうせだったら一緒にお祝いもした方がいいに決まっている。

 私の家でそういったイベントをした事もなかったのだし、ちょうどいい機会だとは思う。


「うん、行く行く。それは絶対行くよ」


 陽葵が食い気味に何度も相槌を繰り返す。

 予定を組めたのはとても良い事で、一安心したのだけど。

 少し気になる事もあった。

 

「でも陽葵が誕生日に予定ないなんて、そんな事あるんだね?」


 てっきり友達との予定が何かしらあるものと思っていた。

 だから短時間でもいいから家に寄ってもらって、プレゼントだけ渡せればいいと考えていたのだけど。

 嬉しい誤算ではあった。


「え? ああ、うん……まぁ、そだね」


 妙に歯切れの悪い返事も気になった。

 そもそも陽葵の友達が、彼女の誕生日をスルーするとは思えなかったのだけど。 


「何かあったの?」


「いや、そういうわけでもないんだけど……。正確には予定が空いてたってよりは、空けてた的な?」


「ん、それは陽葵が意図的にってこと?」


「そうそう、何あるか分からないからさ」


 何かあるか分からない事に予定空けるってどんな気分なんだろ……。

 普通は何が起きるか分かりやすいお友達と予定を埋めそうなものだけど。

 何はともあれ、陽葵のその判断には助かった。


「とりあえず分かった、それじゃその日は私とお祝いするって事でよろしくね」


「うん、他には絶対予定入れないから大丈夫」


 さっきまでよく分からない事に予定を空けていたと言っていたのに、今度は絶対に空けないと力強く言ってのける。

 陽葵の価値基準に不思議さを感じつつも、もうすぐ近づいている彼女の誕生日をどう迎えるかを考える。

 陽葵を私の家でお祝いするなら、それ相応に出迎える準備もしないといけないという事だ。


「……あ」


 そこで、私が今まで陽葵に聞いてきた好みが活きてくる事を感じとる。

 今の私なら彼女の好みの物を用意出来るかもしれない。

 人を知るという事の意味がようやくここに繋がってきている気がした。


「どうかした?」


「ううん、何でもない」


 ここで言葉で語っても意味はない。

 私が変わった事は、陽葵自身で感じて欲しいから。




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