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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

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31 あたしという人間


 学校にいれば、あたしはそれなりに友達がいる方だと思う。


「ねぇ、陽葵(ひなた)これ見て欲しいんだけど」


「はいはい、なに?」


 それも、あたしからではなく向こうから声を掛けてくれる事も多い。

 友達の定義はともかくとして、こうして気楽に話せる関係性なのだから親しい仲ではあるはずだ。

 でもその数が増えれば増える程、一人一人の仲の深さは浅くなっている気がするのは何でだろうか。


「まじ、イケメンじゃない?」


「んー、そうだね」


 スマホに映ったよく分からないアイドルの画像を見せられても、彼女程の熱量はあたしには持ちえない。

 造形は確かに美しいかもしれないけど、美しいからと言って興味を抱けるのかは別の話で。

 そもそも、あたしは自分が思っている以上に他者に無関心である事に最近気づき始めていた。

 

「反応うすっ、陽葵はやっぱり男に興味ないかー」


 思っていた事と、近い言葉を向けられてドキリとする。

 考えている事は自然と人にも伝わってしまうのかもしれない。


「カッコよすぎると逆に無になるすなんだよね」


 そもそもカッコいいなんて一ミリも思ってないんだけど。

 こう言っておけば少しは納得してくれるだろうと思って表現を変える。

 相手が好きなものは認めつつ、自分の感情は遠ざける。

 否定しすぎても余計な反発を生むだけだから。


「あー、いるよねそういう子」


「でしょ」


「でも彼は別だと思ったんだけどなぁ」


 それはあなたの話であって、あたしの話ではない。

 そんな高い熱量を抱けるほどの人が、あたしにはいるだろうか。


 考えてみて、ふと頭に浮かんだのは(ゆき)の事だった。

 

 あたしが他人に無関心である事に気付き始めたのも雪がきっかけだった。

 彼女以上に気になる存在を知らないし、彼女の行動によってあたしのテンションは乱高下する。

 そもそも友達を増やしたのは、雪の気を引けるんじゃないかと思ったのがきっかけだったし。

 あたしの行動の理由は雪がスタート地点である事が多すぎる。

 だから他の人に対する反応が雪よりも薄くなってしまうのは自然な事なのかもしれない。


「陽葵はモテすぎて逆に億劫になっちゃってる子だからね、仕方ないんだよ」


 そこにもう一人、話に入って来る。

 ぽんと肩を叩いてきたのは紗奈(さな)だった。


「はー、モテる女の悩みってやつ?」


「悩みにまでなるんだから、モテるのも考えものだよね」


「たしかに」


 あたしは何も言っていないのに、あたしの事で会話が進んで行く。

 でもこれも紗奈の配慮で、あたしが上手く会話に反応出来ない時はこうしてフォローをしてくれる。

 上げて下げて結果フラットみたいな会話をするから、いつも上手だなぁとは思ったりする。


「そういう紗奈は、この子どう思う?」


 さっき見せた画像を紗奈にも見せていた。

 まじまじとそれを見つめている。

 なんて反応するのか気になった。


「こういう人、みんな同じに見える」


 あたしよりも淡泊な反応をしていた。

 紗奈はフォローするのは得意なのに、自分の意見を言う時は辛辣な事が意外に多かった。


「ここにはわたしの好みを分かってくれる子がいないっ、ちょっと他の子にも見せてくるっ」


 なんて憤慨しながら、その子は別の席へと移動してしまう。

 果たしてこれで良かったんだろうか。


「そんなモテる女は休みの日は何をしていたのかな?」


 当の本人は大した気にする素振りもなく、あたしの前に座ると笑顔でこちらを覗き込んでいた。

 

「からかわないで欲しいんだけど」


「でも本当の事でしょ、告白されても誰とも付き合わないし」


「興味ないんだから仕方なくね」


「興味がないのか、それとも心に決めた人がいるからなのか。この二つは大きく異なると思うけどねぇ」


 紗奈は変わらずあたしの瞳を覗き込む。

 覗き込んで、こっちの気持ちを汲み取ろうとしている。

 そこまで深く探られるのは望んでない。


「あたしにそんな人がいたらとっくに動いてるでしょ」


「どうかな、意外と陽葵は臆病で……相手を大事にしすぎて動けないとか?」


 大事にしすぎている……。

 そうなんだろうか、自分で自分の事がよく分からない事ならいくらでもある。

 だから、紗奈の言う事も当たっているのかもしれない。

 それでも、この気持ちを打ち明けるつもりはないんだけど。


「……そもそも、そんな人いないんだから大事にしようもないし」


「そーだね、いないんだもんね」


 一応の同調はしてくれるけど、どこまで納得してくれているのかは怪しいものだった。


「それで最初の質問に戻るんだけど、休みは何してたのさ」


 これ以上、答えを濁しても仕方ないので素直に言う事にする。


「雪と遊びに行ったけど」


「あら、白凪(しろな)さんとデート?」


「……」


 本当に驚いているのか、あたしの気持ちをまだ探っているのか。

 判断に悩んだ。


「デートとかじゃないから」


「へぇ、そうなの。でも休み明けに白凪さん髪切ってるね? それは陽葵のアドバイス?」


 さすがにアレだけの変化があれば雪の変化には気付くだろう。

 気付くのはいいとして、あたしとの出来事に関連づける所が抜け目ない。


「きっかけはあたしだけど、あそこまで切るとは思ってなかった」


「すごいね、あんなにばっさり行くんだ。何かあったんじゃないの?」


「何かって何」


「そんな覚悟を決めるような陽葵との何か」


 雪が髪を切った理由。

 その行動のインパクトに意識を持って行かれていて、その理由までには頭が回っていなかった。


「本人はどうせ切るならついでにって言ってたけど」


「白凪さんは陽葵と一緒にいると、そんなに思い切りがよくなるんだね」


 紗奈は雪の行動の変化とあたしを結び付けようとしてくる。

 そこに何か特別な思いがあるかのように。

 でも、そうなのかもしれない。

 何かしら思う所がなければ、あんなに髪を切ったりはしない。

 そこにどんな思いを抱いているのかは雪意外の誰も分からないのだけど。


「でも雪は、長い方が好きだから伸びるまで責任取ってって言われた」


「……それ、結構遠回しな束縛入ってない?」


「そうかな、あたしがきっかけだから仕方ないんじゃない」


「……ふーん、白凪さん相手だとそう受け取るんだ」


「どういうこと」


 紗奈はやれやれと言わんばかりに頭を振っていた。


「白凪さんと同じことを他の人に言われたら、陽葵はどう思う?」


 雪以外の人に“髪を切りすぎたから伸びる間まで責任を持て”と言われたら。

 ……“そっちの自己判断でしょ”と言ってしまいそうな気がした。

 少なくとも雪と同じ反応を、他の人にはしないと思う。


「ほら、白凪さんだけやっぱり違うんでしょ」


 だけど、それを見透かされるのはやっぱり面白くない。


「……誰でも同じ反応になるし」


「返事遅いって、本音じゃないの丸わかりだし」


 だけど、もう時すでに遅し。

 少なくとも紗奈の中では確定となってしまった。

 嘘が下手な自分が憎い。


「白凪さんは陽葵をきっかけに変わろうとしていて、陽葵は白凪さんのそんな覚悟を受け止めている訳だ」


 そんな勝手なまとめをされる。

 そう言われると、あたし達の仲は普通ではないように聞こえてくる。 

 でもそれ自体は悪い気がしない。

 気になるのは、それを誰かに知られていること。

 あたしと雪との感覚は、あたし達だけが感じていればそれでいい。


「残り少ない高校生活を一緒に楽しめたらいいね」


 確かに、卒業までもう一年もない。

 あっという間に時間は過ぎ去っていくんだと思う。

 だから、猶予は思っている以上にない。


「そうだね」


 どうであれ“高校生活”そのものは残り少ない。

 だから、これからの未来に思いを馳せるべきなのに。

 あたしが考えているのは、雪とのこれからについてばっかりだった。




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