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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

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29 私とのこれから


(ゆき)って、高校卒業したら進学するんだっけ?」


「……あ、うん」


 カフェで時間を過ごしていると、陽葵(ひなた)が私に問いかけてくる。

 けれど、それは私のこれからについて悩ませている要素の一つでもある。


「そうだよ」


「前言ってた所で変わってないの?」


「まだ決まってはないけど、第一志望は変えてかないかな」


 そのままの未来であれば、私はこの街にある大学に進学する。

 この街から出る勇気もなく、かと言って社会に出る勇気もなかった私は学生生活の延長を望んだのだけど。

 それもあまり実りのある生活ではなかった。

 漫然と過ごす中で日々に弾力を失い、私は一年留年してから五年目で大学を卒業した。


「へぇ、あたしもとりあえずは進学しようかなとは思ってたんだけど」


 知っている。

 陽葵はそのままであればこの街を離れ、都心部の大学へと進む。

 それは北川(きたがわ)さんと同じ大学でもあった。

 意図していないだろう事は分かっていても、また彼女の名前が浮かんでくる。


「何かやりたい事でもあるの?」


「んー、別にそうでもないんだけど。何となくここから出たいのもあったし、たまたま紗奈(さな)と行きたい大学が被ったのもあったし」


 たまたま……偶然に陽葵と行きたい大学が被る。

 そんな事があるんだろうか。

 数多の選択肢がある中で、重なってしまう事なんて。

 どちらかが照らし合わせなければ、そんな事はないように思えてしまうのは私の考え過ぎだろうか。


「じゃあ、卒業したら離れ離れになっちゃうんだね」


 それが私の懸念。

 このままでは私と陽葵との繋がりは消えてしまう。

 そして、陽葵は北川さんと同じ大学へ進学してもその関係性は途絶えてしまう。

 それでは何も分からないまま終わってしまう。

 このままではいけない事だけは分かっていた。


「……寂しかったりする?」


 また、陽葵が問いかけてくる。

 真剣な面持ちで、茶化すわけでもなく本音を聞き出そうとしているのが分かった。

 私の気持ち。

 陽葵といない時間を過ごしていく事がどういう事かを、私はもう知っていた。


「寂しいと思うよ」


「……え、あ、ふーん」


 聞かれたから答えたのに、陽葵は生返事だった。

 私もこの先の会話をどうすればいいか分からず、言葉は続かない。

 不意に生まれた沈黙を埋めるように、陽葵がカフェラテを口につける。

 私もそれを追うようにカフェラテを飲んだ。

 同じ飲み物を飲んで時間を埋めようとしても、その空白は瞬く間に過ぎ去ってしまう。


「まぁ、あたしも雪がいないのはあんまり想像はつかないかも」


 陽葵にとっても、その未来はまだ不透明なものらしい。

 でも、それは確実に訪れる未来でもあった。

 だから、私はその道筋を変えたいと願っている。


「陽葵は私がいなくて寂しい?」


 問いを投げ返す。

 私だけが寂しいと感じていても意味がない。

 何かを変えるきっかけには陽葵の意思が必要だった。


「いや……そりゃね、こうして一緒にいるんだから離れたいと思う人はいないでしょ」


 そうして恥ずかしそうに視線を反らす。

 その反応に心が浮き立つのを感じながら、努めて冷静な私も同時にいる。

 それだけではまだ不十分だったから。


「北川さんと離れるのも同じくらい寂しい?」


「え、そこで何で紗奈が出てくるの?」


「何となく、気になったから」


 これからの未来を変えるなら、少なくとも私は北川さん以上の存在にならないといけない。

 彼女の存在を超えない限り、仮に私と陽葵と一緒にいる未来が作れたとしても途中で離れていってしまう。

 だから、現在地を確かめる為には陽葵の気持ちを聞くしかなかった。


「いや、そりゃ寂しいだろうけど……2人とも友だちなんだし」


「私と北川さんとならどっちが寂しいって感じる?」


「めっちゃ聞いてくるじゃん……」


 深く掘り下げる私に陽葵は困ったように頬を搔いていた。

 人の感覚に優劣をつける話は確かに褒められたものではないだろう。

 それでも私にとってはそれが何よりも大事な事だった。


「私と陽葵との話なんだからいいでしょ」


「紗奈も入ってんだけど」


「私と陽葵との関係性を知るには相対的に誰かが必要なんだよ。それが今はたまたま北川さんだっただけ」


「……また難しくそれっぽい事言うじゃん」


 上手く言葉を使っていたとしても、根底にあるのは陽葵との関係性の事だけだ。

 だから許してほしい。


「で、どうなの?」


 言葉を濁す陽葵に私は追いすがる。

 彼女の本音を私は知りたかったから。

 陽葵は視線を反らしたまま、ぼそりと呟いた。


「……いやそりゃ、まぁ、さすがに雪の方が寂しいんじゃない。でも雪とは幼馴染だからね。一緒にいた年月が違うじゃん、年月がっ」


 慌てたように言葉を付け足していく陽葵だけど。

 それを聞いて、私の心は安堵感に包まれる。

 そんな私は恐ろしく単純に出来てしまっているんだと思う。


「陽葵は寂しがり屋さんなんだね」


「いや、雪が言わせたんでしょ、雪がっ」


 言葉を引き出したのは私だけど、きっかっけは陽葵からで。

 そう思ってくれたのも陽葵の気持ちがあってこそだ。

 だからそう感じてくれる陽葵となら、もう少しだけ先にある未来を変えられるかもしれないと感じていた。




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