表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/80

26 あたしは雪と意見交換がしたい


「それじゃ次の休みは何して遊ぶのか決めようか?」


 昼休みになって、いつものように一緒にご飯を食べながらあたしは(ゆき)に問いかける。


「任せるよ」


「……」


 うん、そっか。

 遊びたいと言っても、雪が何か具体的にやりたい事があるわけじゃないもんね。

 それにしたって塩対応すぎると思うけど。


「それだとあたしの用事に雪を連れ回すだけになるんだけど」


「それでいいよ」


「いや、もっとお互いのやりたい事をやりたいじゃん」


 無いなら無いなりにでも、これならまだ興味あるかなって言うものを言って欲しい。


「私はない」


 話を聞いてるのかな、この子は。


「……いや、分かった。雪に基本的な事を教えあげよう、こういう会話から遊びはもう始まってるんだよ」


「はい?」


 “何言ってんの?”みたいな怪訝な表情を向けられる。

 いや、分かるよ。

 雪がそういう感覚がない人なのは、あたしだって分かってる。

 でもね、今までそれを良しとしてきたのは雪があたしに無頓着だったからだ。

 今は雪の方が関心を持ってくれるんだから、これくらいは知っておいて欲しい。


「こうやって二人で予定を立てて、あーしてこーしてみたいな会話が楽しいわけ」


「……はぁ」


 うん、全然しっくり来てない。

 生返事すぎて、一周回ってこっちが笑いそうになってしまう。


「だからね当日会うだけじゃなくて、こうして予定を立てている所から楽しまないと」


「じゃあ、陽葵(ひなた)に予定を立ててもらってるから楽しい事はもう出来てるね」


 ……ん?

 ああ、いやいや、違う違う。

 何言ってるのかな、この子は。


「だからさ、あたし一人だけ考えても楽しくないでしょ。雪の話を聞いたりして予定をすり合わせるのが楽しいんだからさ」


「じゃあ、私のやりたい事はないっていう予定をすり合わせてよ」


 こ、こいつ……。

 そういう感覚がないのは仕方ない事だけど、そのおかしな屁理屈はどこから出てくるんだ。


「ふーん、わっかりました。あたしはここまで聞いたんだから、どこで何をしても文句は言わないでよね」


「いいよ、何しても。陽葵のやりたい事やるから」


「分かりました、じゃあまず一つ決まりました。美容室に行きます」


「……美容室? いいけど、二人で行くものなの?」


 行きます、これには二人で行く必要があるからです。


「なぜならヘアカットするのは雪だからです」


「……え?」


 面を食らっているようだけど、もう遅い。

 あたしは再三確認をしたはずだ。

 それを蔑ろにした雪が悪い。

 いや、あたしも雪に嫌がらせをする気は全くないんだけど。


「ちょっとヘアスタイル変えてみようよ、かなり雰囲気変わるし」


「なんで陽葵が私のやる事を決めるのさ」


「それがあたしのやりたい事だから。あたしのやりたい事なら何でもやるって言ったよね?」


「……言ったけど、そう来るとは思ってなかったんだけど」


 あたしに行動の全てを委ねた雪が悪い。

 今回は戒めとして大人しく従ってもらおう。

 あたしと仲良くなるという意味を、ちゃんと感じて欲しいし。


「じゃあ、せめて私がいつも行ってる所で……」


「あたしがいつも行ってる美容室あるから、そこ紹介するね」


「……いや、だから」


「あたしのやりたいようにしてくれるんだよね?」


「……うん」


 あたしの圧に負けたようだ。

 それでも雪が意図してなかった提案でも受け入れるようになってくれたのは、明らかな変化だった。


「でも何で私なんかの髪型なんて変えたいの? 陽葵がそんなの見ても面白くないでしょ」


 雪にとってはよく分からない行為でも、あたしにとってはすごく意味のある行為だ。


「変わった雪を見てみたいからだよね」


 ありのままにこの思いを伝える。

 雪もこうやって根っこにある気持ちを言葉にしてくれるといいんだけど。


「……変な興味だね」


「あたしにとってはそれが楽しいから、それでいいんだって」


「……まぁ、それならいいけど」


 渋々ながらも受け入れるあたり、やっぱり雪は変わった。

 今までなら嫌な事があれば絶対に断って来たのに。


「雪は案外、ヘアスタイル変えたい気分だったとか?」


「まさか、これがいいとは思ってないけど、変える方がストレスだよ」


「それでもオッケーしてくれたのは何か理由あるの?」


 そうは言っても本当に嫌なら無理強いするつもりはなかった。

 さすがにノリでヘアスタイル変えて、気に入らなかったらお互いにツラすぎるし。


「陽葵のやりたい事なら従うよ。それで陽葵の事が知れるんだから、いい機会だと思うし」


「……あ、そう」


 そうやって、雪はあたしを基準に物事を決めてくる。

 あたしを知るためにあたしの価値観に触れようとしてくるなんて。

 雪は一体何を求めているのだろう。


「それで陽葵が他の人といる時間を減らしてくれるなら、そっちの方がずっといいし」


「……それは、どういう意味?」


「分からなくていい」


「あ、そうなんだ……」


 雪の言葉をそのまま受け取るなら、あたしは雪との時間が増えていて、他の人と過ごす時間は着実に減っていた。

 つまり、あたしは雪の優先度を徐々に上げてしまっている。

 雪はいつも一人で寂しそうだから、ついついこうして来てしまうんだ。


 ……いや、それは言い訳か。

 あたしは単純に雪との時間をもっと増やしたいと思っている。

 そうする事が一番楽しいから。

 

「じゃあ他に何するかもあたしが考えておくね」


「いいよ」


 結局、二人で相談する事は出来なかったけど。

 それでも雪と過ごす時間を考えるだけで、新鮮で楽しいものだった。


「雪の好みと違っても、つまんなさそうな顔しないでよ」


 唯一の懸念点を確認しておく。


「陽葵がいれば、つまんなくても楽しいよ」


「……えっと」


 変な言い回しで、たまに嬉しくなるような事を言うのはズルいと思う。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ