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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-友達-

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23 私は陽葵とどうなりたいの


「あ、それとコレ、返す」


 陽葵は英語で綴られたショッパーを私に手渡してくる。

 “返す”と言われたら、中身はきっと雨の日に貸した服の事だろう。


「ありがとう」


「いや、お礼を言うのは借りたあたしの方だから。ありがとね、ちゃんと洗っといたから」


「あ、そうなんだ。わざわざありがとう」


「これくらい当たり前だから、ていうか(ゆき)がお礼言うなって」


 いや、まぁ……貸したのは私なんだけど。

 それをすぐに返してくれたり、洗ってくれたりしてくれる心遣いに感謝してるんだけど。

 それは私が変に意識しすぎなんだろうか。


「ちゃんとあたしが使ってる洗剤と柔軟剤で洗っといたから」


 なぜか同じような事を二回言われた。


「別に疑ってないよ。仮に洗ってくれなくても気にしないし、自分で洗えばいいだけだから」


「だから、そうしない為に言ってるんでしょ。あたしが洗っといたんだから、雪は洗わなくて大丈夫」


「……え、ああ、うん」


 どうしてそこまで念押しをしてくるかは分からなかったけど。

 まぁ、二度手間を配慮してくれているのだろう。

 気が付くと家のアパートの前についていた。


「それじゃ、またね雪」


「うん、またね陽葵」


 お互いに手を振り合う。

 陽葵との時間はいつもあっという間に時間が過ぎていた。







 家に入って、着替えもしないまま座椅子に座る。

 帰って来た途端、体が急にどっと重くなるこの現象は何なんだろう。

 一息吐いて、横に置いたままのショッパーを眺める。


「……戻すか」


 せっかく洗ってくれたんだから、早く収納しておこう。

 面倒くさくなってそのまま放置するのは、何だか陽葵に申し訳ない気がした。

 取り出したパーカーとデニムを持って、クローゼットに向かう。


「ん?」


 そうして歩いている内に、嗅ぎ慣れない香りが漂った。

 それは手元にある洋服からだ。


「陽葵が洗ってくれたからか」


 陽葵の使っている洗剤と柔軟剤で洗ったと言っていたし、私の家では感じない香りに敏感になっているのかもしれない。


「……」


 何となしに、洋服に鼻を近づける。

 そこから立ち上がってくる香りに、陽葵を感じた。

 噛まれたり、上に覆いかぶさってきたり、抱かれたりした時と同じ香り。

 甘い香りの向こうに、陽葵がいた。


「……って、変態か、私は」


 自分のやっている行為を俯瞰して、一人で気恥ずかしくなる。

 何をやっているのだろう。

 それでも、気恥ずかしさと同じくらい高揚を感じてしまっている私もいた。

 陽葵がいない所で陽葵を感じる事に、どこか他にはない繋がりを感じて。

 高鳴っていく心臓が、この気持ちに呼応していた


 その後、結局私はクローゼットに洋服を戻す事が出来なかった。

 事あるごとに香りを感じて。

 その度に私は自分を恥じた。




        ◇◇◇




【何してんの?】


 今日は休日だった。

 目を覚ましてスマホの電源を入れると、陽葵からのラインが届いていた。


【今起きたとこ】


【おそ】


 時刻は午前11時。

 遅いと言えば遅いけど、そう珍しい事でもない気もする。


【そういう陽葵は?】


 何となしに陽葵が何をしているのかが気になって聞いてみた。

 先に聞かれたのだから、聞き返しても問題はないはずだ。


紗奈(さな)と買い物】


 ……返信を打つ手が止まる。

 画面を開きっぱなしにしていたせいで、既読がすぐについてしまっていた。

 未読にしておけばよかった。

 そんな返信すぐに打たないでよ、という勝手すぎる気持ちが沸き上がったけど、それを伝えるわけにもいかない。


 そもそも、どうして私の返信の手が止まったのか。

 陽葵が休日に友達と遊んでいるなんて、当たり前の事なのに。


「……私って、その人達よりも友達としては下って事なのかな?」


 休日に連絡だけとっている友達と、休日に一緒に遊んでいる友達。

 どっちがより友達だろうか。

 そんなの誰に聞いたって同じ回答が得られるだろう。


 その事実に気がついて、気分が落ち込んでくる。

 起こした体をまたベッドに沈めて、考え込む。

 このままでいいのだろうか。

 友達に戻れたとしても、結局この先で関係性を切られたのでは意味がない。


 もっと密接な関係にならないといけない。


 でも、そこまで私がこだわっている理由は何なのだろう。

 陽葵が私に伝えようとしていた思いと、その先にある結末を知るため。

 そう思っていたけど、本当にそれだけなんだろうか。

 私はそれだけを原動力に陽葵との関係を繋ごうとしているのだろうか。


 もっと根本的な気持ちが働いているように思う。

 陽葵と誰よりも仲を深めたいと思う欲求。

 これは独占欲というやつなのかもしれない。


 今にして思えば、私は昔から陽葵の友達に嫉妬を覚えていた。

 他の友達と絡むくらいなら、私と絡んでいたらいいのにと。

 そう思って口には出せなかったけど、そんな私は確かにいた。


 その気持ちを無理矢理にでも蓋を閉めようとした結果、かつての未熟な私は無視を選んだ。


 それを後悔して、今はこの思いを打ち明ける事にしたのだけれど。

 だったら、この思いも全て打ち明けるべきなんだろうか。

 

 でもこの執着心はどこから来ているのだろうかとも考えてしまう。

 この思いは純粋な友情なのだろうか。

 友情に執着と嫉妬は含まれるのだろうか。


 自分の気持ちに整理がついていないのに、それをそのまま陽葵にぶつけるのは違うと思った。

 隠しているわけではなく、自分でも分からない物を投げるのは押し付けになってしまう。

 だから、私はこの感情を理解しないといけない。

 でも、それを理解するためにはこの気持ちは重すぎた。

 心が重力に引っ張られるように、体まで重くしていく。

 全てのやる気を失っていた。


 それでも指先なら動くから、スマホをタップして文章を綴る。


「……いや、ダメだな」


 その文章を自分で確かめて、送信ボタンを押す事は出来なかった。

 スマホをベッドの奥へ投げてしまう。

 もうこのまま二度寝をしてしまおう、それなら既読無視になっても仕方がない。

 そういう日は誰にだってある。


【私以外と一緒にいないでよ】


 スマホに綴った私の本音は、ただ画面上にだけ漂っていた。

 手元に置いていたパーカーを手繰り寄せる。

 それをそのまま抱きしめて、布団を被る。

 パーカーを思いきり自分の顔に押し付けると、昨日感じた陽葵の香りは少し薄くなっていた。


 陽葵を感じるのに、陽葵が遠のいてしまっているような。

 今の自分の状況と重なっているようで、どこか寂しかった。

 それでもこの行為をやめられない私は、どこかおかしいのかもしれない。

 

 本音も嘘も言えないまま、私は瞼を閉じた。




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