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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-幼馴染-

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18 羨ましいところ


「……」


 教室での休み時間、私は一人席に座る。

 視線を端に寄せると、奥の方で陽葵(ひなた)とその友達で集まって談笑している。

 それはよくある光景で、特別変わったものではない。

 だけど、私としては思うところがある。

 あの人たちは“友達”で、私はまだそうではない。

 言ってしまえば、ヒエラルキーとして私は下の存在だ。


 それなのに、一緒に登下校したり、お弁当を食べたり、ハグをしたりもした。

 絶対に友達と行うべき行為だし、決して引け目を感じるような存在ではもうないはずなのに。


 なのに、あの談笑している子達と違って、私は認められていない。


「……なんか、おかしい」


 一人座る私のつぶやきに、反応する人はいない。

 どうしようもなくなって私は席を立つ。 

 あの光景をずっと見ているのは、今はなぜか精神的にストレスだった。

 廊下に出て、気分を変えようと思った。







 そう思って行動したとしても、一度抱いてしまった雑念を消す事は難しい。

 廊下に出て歩いていても、頭の中ではあの映像が反芻してくる。

 モヤモヤとした気持ちは膨らみ続けて、心が重くなっていくばかりだった。


「もうすぐ授業が始まるのに、どこに行くの?」


 すると、背後から声を掛けられる。

 振り返ると北川(きたがわ)さんが、後ろに手を組みながら首を傾げていた。

 いつも彼女はどこか飄々としている。


「行き先はないけど」


「目的はないのに廊下に出るんだ」


 話している内にするりと北川さんは隣に立つ。

 嫌味もなく距離感を縮めるのが上手だなと思う。

 私には出来ない芸当だった。


「最近、陽葵(ひなた)と仲良くやれてそうだよね」


「そう……見える?」


 仲良さそうに見えると言われて、心が浮足立っている自分に気付く。

 昔ならそんな感情は湧かなかったのに。


「うん、誰がどう見ても友達って感じ」


 その言葉が今の私には引っかかる。

 私が欲しくても持てない物を、北川さんを含めて大勢の人が持っている。

 その事実はどうしても気になってしまう部分だった。


「いいよね、北川さんは友達なんだから」


「あ、ああ……まだはっきりと仲直りしたわけじゃないのね」


「曖昧なままだね」


 北川さんは腕を組んで少しの間、悩んでいるようだった。


「あんまり言葉に囚われなくてもいいんじゃない?」


「……と、言うと?」


「いやさ、どっちにしたって明らかに前よりは仲良くなってるんだから、それでいいんじゃないかなって」


 言わんとする事は分かるけど。

 でも……。


「それってお友達でいる北川さんの勝者の余裕にしか聞こえないんだけど……」


 分かっている。

 私の性格が悪いのは分かっている。

 それでも、当事者意識に欠ける発言に聞こえてしまうのだ。

 だって北川さんは、私のような意味の分からないポジションにいるわけじゃないんだから。


「なるほど、そう受け取るんだね……」


 さすがの北川さんも私の卑屈さに引いているようだった。

 分かっている、私もそんな自分が好きじゃない。


「でもさ、これも本心からなんだけど。やっぱり陽葵にとって白凪(しろな)さんはちょっと違う存在なんじゃない?」


「……あしらわれてるって意味で?」


 北川さんはいよいよ私の卑屈さを諦めて半笑いになっていた。


「陽葵が白凪さんを区別しようとしてる証拠でしょ。どうでもいい人なら友達って言っといた方が楽なんだよ、心の中で勝手にヒエラルキー作っとけばいいんだから。嫌なら関わらなきゃいいだけなんだし」


 ……そう言われると、そういう観点もあるのかなって思ったりもする。

 確かに、こんな意味の分からないポジションをわざわざ作る必要なんてない。


「そうそう、ちょっとナーバスになりすぎなんじゃない?」


「……そうなのかな」


 一応精神年齢的には私の方が上のはずなのに、普通にアドバイスを受けてしまった。


「ありがとね、色々」


「ううん、白凪さんの機嫌が悪いと、陽葵の機嫌も悪くなるからね。そうするとうちらの輪まで微妙な空気になるから。わたしは皆の平和のために仲介役をやってるだけ」


 そう言って、肩をすくめておどけてみせる。

 他人思いでいながら、それをひけらかそうともしない謙虚な姿勢だった。


「北川さんが友達でいてくれて、陽葵は幸せ者だね」


 なんでこの先の陽葵は、こんなにも友達思いな子との関係を切ったのだろう。

 知れば知るほど、よく分からなくなっていった。


「……そうだね。友達、だからね」


「北川さん?」


 教室に戻ろうと踵を返したタイミングで、北川さんの足が止まっていた。

 ほんの少しだけ顔が沈んで思い込んでいるように見えたのは、気のせいだと思うけど。


「だからかな、わたしはむしろ白凪さんの方が羨ましくもあるんだよ」


「……どこが?」


「ていうか嫉妬、かな」


「嫉妬?」


 あれ、なんかそれって前にも言われた事があるような……。


「一人だけ違うって、何者にでもなれるような気がしてさ」




        ◇◇◇




 嫉妬、かぁ……。


 北川(きたがわ)さんは、その言葉を今も未来でも私に口にした。

 だけど、冷静に考えて欲しい。

 私と北川さんでは誰に聞いても、北川さんを羨むだろう。


 細身ですらりとした体躯に、金髪に負けない容姿、それでいてクールな印象。

 普通体型、重い黒髪、暗い印象。


 ……本当に比べるべくもない。

 なのに、北川さんはそう口にする。

 彼女には私がどう見えているのか、理解に苦しんだ。


「何考え事してんのよ」


「ん」


 考え事をしていると陽葵(ひなた)が私に話しかけてきた。

 ぼけっと考えていただけだから、何と言われても困るんだけど。


「……陽葵って、私に羨ましいと思う要素ある?」


「え」


 固まっていた。

 そんな難しい質問だったろうか。

 ……難しい質問か。

 こんな冴えない女を掴まえて、羨ましいと思う部分なんてないのだから。


「な、なにそれ。そんな事聞いてどうすんの」


「いや、私って他人からどう見えてるのかなって……」


「そんな他人からの目線なんて(ゆき)は気にしなかったじゃん」


「……ああ」


 そう言われると、そうかもしれない。

 昔と今の私ではそういった些細な部分に変化があるのかもしれない。


「そういうのを気にする年頃なのかもね」


「は? なにそれ、色気づいてんの?」


 陽葵はどかっと前に座り、私に詰問してくる。

 何がそんな気になるのか。


「いや、これを見て何でそうなる……」


 こんな芋臭い女掴まえて、色気のいの字も見当たらないだろうに。


「好きな人が出来たら誰でも変わるでしょ」


「……はぁ」


 そういう女の子は多いかもしれないけれど。

 私にそれが当てはまらないのは陽葵が一番知ってるでしょ。


「別に好きな人なんていないけど」


「……」


 そこでどうして黙るのかな。


「それに陽葵の理論で言うなら、陽葵にも好きな人がいるって事になるけど?」


「何でそうなるのよ」


 陽葵は高校に入ってから一気に垢ぬけた。

 生来の容姿の良さは元々あったけれど、そこに磨きを掛けるようになって見違えた。


「“好きな人が出来たら誰でも変わる”……なんでしょ? 陽葵って好きな人がいるから変わろうとしたの?」


 違うよね。

 陽葵は誰に告白されてもノーを貫き続けている子だ。

 自分自分でその理論を反証している。


「……」


「うん、私が面倒くさいのは自覚してるから無視はやめて欲しいかも」


 さっきから陽葵は全然答えてくれなかった。


「質問を戻そうか、陽葵って私に羨ましいと思う所ある? ないよね、ないならないでいいから」


 別にそんな事で傷ついたりしない。

 自分でも分かっている事だから。

 だから、その事実を確認して北川さんの言っている事が過ちだと結論づけたかった。


「そりゃ人間誰しもいい所はあるでしょ」


「……具体的に?」


「ほら、一人でいても平気な所とか」


「……え、遠回しにディスってる?」


 それって言い換えると社会性がないって事だよね?

 私がそういう人間なのは分かってるけど、それって一般的にはデメリットなんだけど。


「いや、違うって。そういうのいいじゃん、自分持ってる感じがさ」


「……なんか無理矢理すぎる」


 どんなデメリットも視点一つでメリットに変わるかもしれないけど、大多数はそうは見ないと思う。

 一般的に社交性がない人間を好ましいと思う人はいない。


「なんで褒めてあげてんのに文句言われてんの、意味分かんないんだけど」


 まぁ……それはそうなんだろうけど。

 私自身がネガティブに捉えている部分だから、全然素直に受け取れなかった。


「じゃあ、あたしのは?」


「ん?」


「いや、あたしが一個言ってあげたんだから、雪からも一個教えてよ」


「……なるほど」


 陽葵も羨ましいと思われる部分を教えて欲しいらしい。

 だけど、それは何と言うか……。


「どーせ言われ慣れてるんだろうから、あんまり意味ないんじゃない?」


 私は自分自身にポジティブな要素が見出せないから客観的な意見を求めただけで。

 陽葵のような羨望の的のような存在に、羨ましいと思われるポイントを口にした所で聴き馴染みのある事しかないだろう。

 それを聞いてどうするんだろ。


「いや、そんなの関係ないから。雪の話が聞きたいだけ」


「……そっか」


 まぁ、それでいいならいいけど。

 陽葵の良いと思うポイントなんていくらでもある。


 可愛い、綺麗、お洒落、明るい、背が高い、スタイルがいい、社交性がある、運動神経がいい……。


「なんで黙るのよ、なに、ないわけ?」


「いや、ありすぎて困ってる」


「……」


「また黙るんだね」


 今日はやけに無視が多い。

 機嫌が悪いのだろうか……その割に表情は怖くないけど。


「まぁ、最初に出てきたのは“可愛い”かな」


 可愛いと言われて嫌な子は少ないだろう。

 それこそ陽葵も言われ慣れているだろうけど。

 

「へぇ、そー、ふーん、あっそ」


 陽葵は指先で毛先をくるくると巻きながら、そっぽを向いていた。

 やはり、言われ慣れすぎてこの反応。

 言う必要あったんだろうか。


「ちなみに、どういう所が可愛いと思うわけ?」


「いや、一個って言ったんだけど」


「じゃあ、あたしからもう一個言えばいいのね」


「そういう問題でもないんだけど……」


 何でこんなお互いを褒め合う会話が始まってるんだ……?

 最初の話からひどく脱線し始めている気がする。


「流行りに流されない所」


「……ねぇ、やっぱり私のことディスってるだけだよね?」


 それって言い換えると乗り遅れてるだけの人なんですけど。

 ていうか私はディスられて、陽葵は褒められている。

 全然成立していない。


「ほら、あたしのどこが可愛いと思うわけ?」


 やけに自分の話になると乗り気だね……。

 ちょっと皮肉も入れてあげようかな。


「見た目は勿論、そうやって褒められて喜んでるのも可愛いよ」


「……」


 いや、あの今日何回目の無視なのかな、これ。




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