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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-幼馴染-

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17 毒づいておく


 (ゆき)がおかしくなっている。


 それは前々から薄々勘づいていた事だけど、今日それが確信に変わる。

 友達に戻ろうと言ってくれた時も驚いたけど、今の雪は明らかに以前とは別人のようだ。

 あたしの体を目で追ったり、触りたいと言い始めたり。

 そんな事をするような子じゃなかった。

 いや、仮にそういう感情があったとしても、自ら表現する子ではなかったはずだ。


 それを今の雪は明け透けに伝えてくる。

 こちらの瞳を見据えて、真っすぐにその気持ちを言葉にする。


 それでも主導権を握らせたくなくて、挑発してみたりもしたけど。

 逆効果だったかもしれない。

 あたしの体を見つめて触れようとしてくる雪に困惑していた。


 おかしい。

 それは私の知る雪ではない。

 ないけれど、その変化をあたしはどう捉えているのか。

 嫌ではない、ないけど、あまりに唐突すぎて困惑が先立つ。

 心臓が跳ね上がり、血液の循環が早まっていた。


陽葵(ひなた)だから見たいと思っただけ』


 どう反応していいか分からなかった。

 それって本当に友達に戻りたいだけの感情なの?

 でも本人があまりにも淡泊な表情と声音で言うものだから、本当に純粋な興味によるものかとも思ってしまう。

 それが白凪雪(しろなゆき) で、いつまで経っても読めない子だった。


「このままだとあたしがいつ襲われるか分からないから、もう帰ろうかな」


 本当はあたしの平静が崩れそうで、そうなる前にここを出たかった。

 今の雪と一緒にいると、いつもと違う自分になりそうで怖い。

 それを見た雪があたしを受け入れてくれるかどうかは、全く分からないから。


「襲わないって、ていうか力で陽葵に敵うわけないし」


 雪の声のトーンはいつも一定で、表情もそうは崩れない。

 だから感情の起伏が分かりづらい。

 でも否定的な時だけ語尾が強まるから、それだけは分かる。

 嫌な時だけ相手に伝わると言うのは、コミュニケーションをとるにはデメリットが大きい。

 でも、あたしは雪に対して悪感情は抱かない。


「力で敵うなら、するんだ?」


「そういうの屁理屈って言うんだよ」


 あたしもこんな軽口を叩いている余裕がある内に帰った方がいいだろう。

 どのタイミングで“羽澄陽葵(はすみひなた)”が崩れるかは分からない。


「帰ってもいいけど、服はいつでも好きな時に返してくれていいから」


 ……そう、この服もいけない。

 さっきから雪の匂いが体にまとわりついて離れない。

 ただでさえ、この部屋は雪の香りがするのに。

 服まで着てしまったら、雪に包まれているようだった。


 これのせいであたしの情緒は更におかしさを増していく。


「洗って返すよ」


 そうして、今度はこの服にあたしの香りをつける。

 雪が着た時にあたしの事を思い出して、あたしと同じ思いを抱いたらいい。

 そんなことに意味はないけど、あたしのこの鬱憤が少しだけ晴れる気がした。 


「いいよ、洗わないで返してくれても。そのまま貰ってくれてもいいし」


「いや、ちゃんと返すから」


 何、さっきからその優しさ。

 シャワーに入れてみたり、服を貸してみたり。

 それでいてあたしの事を見たり、触ろうとして。

 雪があたしに何を求めているのか、分からなくなっていく。


「陽葵に服を貸したりあげたりするくらい何ともないよ」


 最初は雪が求めてくれる事に喜びを感じて始めたこの関係性も、今ではあたしの手に負えなくなっている。

 雪がそれ以上に枠を超えて暴走していくからだ。


 もう友達に戻っても、雪はこのままあたしを求めてくれるんじゃないだろうか。

 だって雪はあたしにしか興味がないと言ってくれているんだから。


 それなら、こんな言葉遊びはもうやめにしてもいい気がする。

 また雪に無視をされないのなら。

 でも、この踏み込んだ先にいる雪はどうなっていくのだろうかという不安もある。

 変わっていく雪に置いて行かれていくような予感があった。


 あたしはどうすればいいのか、自分でもよく分からなくなっていた。


「帰る」


 よく分からない焦燥感に駆られ、逃げるように雪の部屋を後にする。

 これ以上ここにいると自分を見失いそうだったから。


「外、まだ雨降ってるんじゃない?」


 雪は窓の外に視線を移す。

 まだ雨は横なぐりに強く降っていた。

 それにも気付いてなかった当たり、自分の動揺を間接的に知らされる。


「でも、帰るから」


 それでもこの雨の中でも帰る方を選択する。

 その方がまだ気が紛れるような気がしたから。

 玄関へ早足で進む。


「また濡れたら意味ないって」


 そう言って雪はぱたぱたと後を追ってくる。

 その手には制服を入れた袋とビニール傘があった。


「はい」


「……貸してくれるの?」


「それ以外にないでしょ」


「……ありがとう」


 この部屋に来てからというもの、ずっと雪のお世話になりっぱなしだ。

 それは悪い事ではないんだけど、一方的に与え続けられてしまうとこの関係性に罪悪感を覚えてしまう。

 雪に与えられていた無視という傷が、どんどんと塞がってしまうから。


「何ならあげるよ、傘」


「返すって」


 これ以上はもらいたいくない。

 あたしは玄関の扉に手を掛ける。


「デニムとパーカーにローファー、それにスクールバックって変だね」


「……それ、言わないで欲しいんだけど」


 見てはいないけど、想像しただけでおかしい事は分かる。

 革靴だけならまだ成立したかもしれないけど、スクールバックが全てを打ち消してしまう。

 心の中の違和感は隠しきれない。


「気をつけて帰ってね」


 玄関先の廊下で雪は手を振る。

 そのゆらゆらとした手先の動きに、彼女らしいゆるさを感じる。


「闇に隠れて背後から襲われるかもしれないからね、変態さんに」


 だから、毒づいておく。

 これ以上、雪の空間で雪に触れていると自分の中の何かが零れてしまいそうだった。

 毒を吐く事で、一緒に雪も吐き出すように。


「そんなコソコソまでして卑怯な事をするような人間じゃないよ、私」


 否定するのはそこじゃなくて、襲う所であって欲しかったんだけど。




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