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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-幼馴染-

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13 罪深いのはどちら


 陽葵(ひなた)に掴まれた手によって、今度は私が引かれる側に変わってしまった。

 その指先は細長くて温かい。

 私より、陽葵の方が体温は高い。


「ちょっと、どこ行くの」


「ここじゃない所」


 こういう時、陽葵は何も答えてくれない。

 私はその声に従うしかなくて、住宅街の中を歩いて行く。

 陽葵が何も意識する事なく歩いてしまうと、私よりも歩幅が長くて速いから着いて行くのがやっとになる。


「うん、ここでいいかな」


 着いたのは、何の変哲もない公園。

 ただ遊具とベンチが据えられていて、敷地の外を木々が囲むように生い茂っている。

 人気(ひとけ)がない事も手伝い、どこか隔絶された雰囲気がある場所だった。


「……遊びたいの?」


「まさか」


 だとは思っていた。

 幼少期の頃なら公園で遊んだりもしたけど、年を重ねるにつれそんな事はしなくなった。

 今更そんなことをしたいとも思わないし。


「こっち」


 中心地から離れ、公園の隅の方に移動する。

 舗装されていた道は草むらに変わり、木々の密度が増していく。

 ただでさえ誰もいなかった空間で、より閉鎖的な場所へ移動していく。


「まぁ、ここなら問題ないでしょ」


「……なにが」


 ようやく振り返った陽葵がこちらを見据える。

 その瞳はどこか揺らめいていて、何かを企んでいるような危うさを感じさせた。


「罰を受けてもらわないとね」


「……嫌なんだけど」


 わざわざこんな人目を避けるような場所を選ばれると身の危険を感じざるを得ない。

 いつも空き教室だったり、どうして隠れてしようとするのか。

 もっとどこでも出来るような罰はないのだろうか。

 いや、罰を受けたいわけではないんだけど。


「拒否権とかないから、はい、両腕を伸ばして」


「……」


 なんだろう、今度は両腕を痛めつけられるのだろうか。

 全く気は進まない。

 今での罰は全部痛かった。

 それも今度は両腕ときた。

 両方に痛みが加われば単純に二倍の痛みで、ストレスで、苦しみだった。

 

「どうしたの、やんなよ」


「何する気?」


「それ教えたら身構えちゃって罰にならなくなるから」


「何も分からない方が身構えるんだけど」


 普通に、怖い。


「いいからつべこべ言わずに、はい」


「……はぁ」


 溜め息を吐くしかない。

 残念ながら、今日も私は陽葵に言い合いで負けてしまったんだ。

 それに拒絶する事もなくここまで来てしまったのだから、それは陽葵の行動を認めた事になる。

 ここまで来て陽葵に物申す気概は、私の中でほとんど失われてしまっていた。


「はい」


 渋々、両腕を伸ばす。

 自らの意思ではなく強制的に腕を上げると、重さしか感じないものらしい。

 今すぐ腕を下ろしたかった。

 肩凝りそう。


「目もつぶって」


「……はいはい」


 痛みに襲われる瞬間の情報すらシャットアウトするなんて、陽葵はやっぱり相当なドSなのだろう。

 もうここまで来たらなるようになってくれ。

 嫌な事はすぐに過ぎ去って欲しいと、それだけを願う。


「よし、それじゃ」


 一体何が起こるのか不安に怯えて、身構える。

 自然に肩と両腕に力が入って、その瞬間を待ち構えた。


 ――とん


 と、私の胸の中に重みが加わっていた。


「……え」


 それは温かさと柔らかさを伴っていて、遅れるように甘い香りが漂ってくる。


「な、なにしてんの?」


 反射的に目を開けると、目と鼻の先に陽葵がいた。

 私の腕の中に収まって、陽葵の両腕が私の体を抱いている。

 その毛先が私の頬に触れていて、息遣いまで感じられそうだった。


「見ての通り?」


 陽葵は何でもない事のように言葉を返す。

 てっきり両腕を叩かれるなり、腕を引っ張られるなりされるのかと思っていたのに。

 答えは二人で抱き合うだなんて、誰が想像するだろう。

 痛みではなかった安堵感よりも、予想外の緊張感が遥かに勝っていた。

 私の両腕はどうしていいか分からず、虚空を彷徨い続けていた。


「不安だったんでしょ、雪」


「えっ、え」


 背中を伝うように指先が這っていく。

 その指先が私の体を滑っていく心地よさも、腕の動きに合わせて体の触れている部分が擦れていく生々しさも。

 その感触を感じていながら、どこかで脳の処理が追い付かない。


「どう?」


「え、あ……」


 陽葵が離れて行く。

 結局私の腕は宙ぶらりんのまま何を掴む事はなくて、気付けば両腕の重みなんて一瞬で消し飛んでいた。

 それよりも、陽葵の重さと柔らかさと温かさと香りと。

 そんな物を吸い込んで、一瞬で搔き消えた事の喪失感を感じていた。


「これの何が……罰?」


 率直な疑問。

 ただ抱き合って離れる行為に、どこにも罰の要素が見当たらない。

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、あたしと雪はまだ暫定的な関係のままだから」


「え、はい?」


 ここまでして、友達ではない。

 じゃあ一体何なんだ。

 陽葵は何を求めているのか。


「あたしはまだ雪を確かめてる。だから、これが罰になるでしょ」


「ん、え?」


 いや、そうだとしても何が罰に当たるのかはやっぱり理解できなかった。


「ここまでしてるけど、まだ友達じゃない。そんな生殺しが、雪への罰」


「……」


 なるほど、と不覚にも納得しかける。

 生殺し状態である事は確かだった。

 果たしてそれが罰というのかはさて置いて、むず痒くて仕方なかった。


「痛みだけが罰だと思ってる浅い女だと思わない事だね」


「罰を与えてくる人に、深いも浅いもない気がする……」


 定義が難しすぎて、その深みには入りたくない。


「でもさ」


 陽葵がまた先を歩き出す。

 もう用は済んだからだろう、公園の入り口へと向かっていた。

 その後を追いながら、陽葵の言葉に耳を傾ける。


「これであたしが雪に対して気持ちがないわけじゃないって事も伝わったでしょ?」


 悔しいけど。

 そう言われると、その通りで。

 全く気持ちがない人間同士で抱き合うなんて、出来るはずもないだろう。

 その答えと同時に、罰まで与える。

 果たして罪深いのはどちらなのだろう、私には陽葵が小悪魔のようにも見え始めていた。


「……そうだね」


 とは言え、認めざるを得ない。

 私は安堵感と焦燥感を同時に植え付けられた。

 陽葵との関係性がまだ繋がっているのを感じて、それでいながら途切れる事への焦りも。

 私にとって陽葵はそういう存在。

 相反する感情を揺さぶって来る人。

 そんな彼女との出会いを、今度こそなかった事にはしたくなかった。




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― 新着の感想 ―
あらあら、なんて可愛い展開!!!!ぐっと進展した感じ!?
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