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かつて絶交した幼馴染と再会できたなら、その時はあなたを二度と離さないと決めていました。  作者: 白藍まこと
-幼馴染-

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10 未来について


 すたすたと先を歩く陽葵(ひなた)の後ろ姿について行く。

 伸びやかに歩いていく姿勢に、艶やかに伸びるミルクティーブラウンの髪。

 男女を問わず、彼女の容姿には誰もが目を惹かれる。


 廊下を抜けて玄関に着くと、各々の靴箱から外靴を取り出す。

 陽葵はローファー、私はスニーカーだった。


「……でもさ、おかしくない?」


 私はスニーカーに履き替えて、ふと思った事を口にしてみる。

 陽葵を見るとまだ履いている途中で、膝を後ろに曲げて踵部に指を引っかけていた。


「なにが?」


 片足立ちで器用にこちらを見ながら首を傾げる。


「なんで北川(きたがわ)さんと話すのはダメなの?」


 一人で行動してしまったのは反省するとしても、北川さんとコミュニケーションを取るのは問題ないと思う。

 かと言って陽葵の機嫌を損ねたいわけでもないけど、理由くらいは教えてくれてもいいよね。


(ゆき)があたしに誠実かどうか確かめるため」


  とんとん、と爪先で地面を叩いていた。


「……意味がよく分かんないんだけど」


「雪が誰かと仲良くしたいだけかもしれないからね」


「それの何が駄目なの?」


 私の交友関係が広がる事って、何か問題ある?


「本当は一人ぼっちが寂しくなっただけで、側にいてくれたら誰でもいいんじゃないかって疑ってるってこと」


「……そういう意味ね」


 ()()()友達になりたいのか。

 ()()()友達になりたいのか。

 その差は大きくあって、陽葵はそれを見定めているらしい。

 言わんとする事は分かるんだけど……。


「もうちょっと私のこと信用してくれてもいいよね?」


「それが出来なくなるような事をしたのは雪ね」


「……まだ足りないの?」


 結構な罰を受けて来ていると思うんだけど、まだ信用の一つも回復していないなんて。

 切ない話だと思う。


「全然足りないね」


「さすがに陽葵も疑いすぎだと思うんだけど」


「それだけの事を雪があたしにしたって事じゃない?」


 ……とても困った。

 私には陽葵を拒否する選択肢がないから、どうあっても陽葵の言う事に頷くしかない。

 本当は不満もあるのだけど、飲み込むしかない。


「それにさ」


 陽葵はやはり先を歩く。

 玄関の扉を開けると、風が吹いた。

 なびいた髪を手で撫でつけながら、こちらを振り返る。


「こうして一緒に帰ってるんだから、もうちょっと楽しい話しようよ」


「……そうだね」


 この状況で楽しい話か、とは思ってしまったけど。

 でもずっと文句を言ってばかりいても仕方ない。

 今は陽葵といる時間を大切にするべきなのは、正しいように思えた。




        ◇◇◇




「帰り、どっか寄りたい所ある?」


 陽葵の隣に並んで住宅街を歩く。

 そして珍しく私に選択を委ねてくれる。

 昔から、私は陽葵に合わせる方だったからだ。


「……うーん、スーパーかなぁ」


 昔の私は料理を全くしていなかった為、冷蔵庫の中は寂しいものだった。

 もう料理が出来るような具材のストックはないから、買い足さないといけない。


「え、なんで?」


「いや、晩御飯とか、明日のお弁当を作る材料ないから」


 聞いておいて、陽葵は目を丸くしている。

 それは皮肉でも何でもなく純粋に驚いているようだった。


「そんな冗談言うようになったの?」


「冗談……にしては、つまんなくない?」


 こっちは至って真面目だった。

 それとも生活感が出過ぎていただろうか。


「だって雪、料理なんてしないでしょ」


「……えっと」


 私の高校生の頃は出来合いの物を買って済ませていた。

 その頃の習慣で話をしていたから、昔と今の私で噛み合っていなかったんだ。


「夜は料理するようになったんだよ」


「いきなり?」


「人は変わるんだよ」


「信じらんないんだけど」


 気持ちは分かる。

 私にとって数年の積み重ねが、陽葵にとっては数日で訪れているのだから。

 疑う方が自然だと思う。


「まぁ、信じてくれなくてもいいんだけどさ。一人でも行くし」


 さすがにスーパーの買い物は一人が寂しいからと言って行かないわけにもいかない。


「いや、いいよ。雪の女子力を確かめてあげる」


「……そんなものはないけどね」







 最寄りのスーパーへと足を運ぶ。

 夕方の時間は通勤帰りの社会人が多く、それなりに混んでいた。

 特に作る物は決めていなかったのだけど、 調味料とか、冷凍商品とか、野菜とか、お肉とか。

 とりあえずでカゴに入れておく。


「……花嫁修業でも始めたの?」


 陽葵はその姿を見て、よく分からない事を言ってきた。


「なんでそうなるの」


「急に料理始めるなんて、なんかきっかけないとやらないでしょ」


 少なくとも花嫁修業は想定していない。


「花嫁になる日なんて来ないから」


「……そう思ってるんだ?」


「そうだけど」


 実際にずっと一人だったし、浮いた話一つなかったし、求めてもいなかったし。

 そんな発想すらしていなかった、あるいは考えないようにしてたのかな。


「そういう陽葵はどうなの?」


 陽葵が結婚したのかどうか、していないにしても恋人はいたのか。

 大学生活以降の彼女がどうしていたかは知らないままだった。

 どうせなら北川(きたがわ)さんに聞いておくべきだったな。


「え、いや、どうだろ。願望はあるけど、難しいだろうね」


「……諦めるの早くない?」


 さすがに十代で諦めるのは未来に希望を抱かないにも程がある。

 人の事は言えないけど、私と陽葵では立っているステージが違う。


「それを言うなら雪もでしょ」


「いや、陽葵と一緒にしないで欲しい。こっちは非モテ」


 悲しい現実だった。

 別にいいんだけど、自分で言葉にすると虚しい事もある。


「そーいう問題じゃないんだって」


「じゃあどういう問題?」


 尋ねると陽葵は口をへの字にして、うーんと唸る。


「叶わぬ恋ってあるでしょ」


「……それって恋してるってこと?」


 記憶が正しければ、少なくとも高校時代の陽葵に恋人はいなかった。

 それは恋が実らなかったからなのだろうか。


「どうなんだろうね」


「……はぐらかし過ぎじゃない?」


「そんな単純なものじゃないんだよ」


 陽葵は肩をすくめて、それ以上は口にしようとはしなかった。

 何だか恋に恋をしてるわけでもなく、かと言って失恋に傷ついているわけでもなく。

 何とも読めないニュアンスだった。


「陽葵がその気になったら相手は絶対振り向くと思うけど」


 羽澄陽葵(はすみひなた)を放っておける人なんて、この世にほとんどいないだろう。

 勝手な事を言っているのは分かってるけど。


「……雪がそれ言うの、皮肉だね」


「え?」


 ささやくような声。

 かろうじて聞こえたその言葉を拾っても、陽葵からの返事はなかった。




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― 新着の感想 ―
陽葵ちゃんてば雪ちゃんのお嫁さんになりたいのかな!?可愛い!!
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