表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Remains  作者: 観月優凪
6/7

6.触れたくて

私は本屋が好きだ。

もちろん仕事柄、情報収集が必要なこともある。

だがそれだけではない。

読みたい本と出会えた時の幸福感は言葉では言い表せない。


とはいえ、今は仕事モード。

自分の記事が載った雑誌を手に取った。


後では若い女子高生達が周りも気にせず

話している。


「傾国顔って知ってる?」

「なんかあれでしょ?すっごいイケメン」

「語彙力どこいった〜?そうそう、国が傾くくらいの

イケメン」

「やっぱイケメンじゃん笑」



私はついつい、人の話に聞き耳をたててしまう。

これも仕事柄仕方ない。


「anemoneって知ってる?」


女子高生の話の続きに

私の耳がうさぎ並みに大きくなった。


「美しすぎる彼でしょ?やばっ!」


何がやばいのかわからないが、

やはりかなりバズったのは嘘じゃないのか。


私は挙動不審にならないように、自分の記事を

見て落ち着こうとした。



「特集!注目の新人モデル 蒼井颯」


「蒼井颯だって、そこそこの傾国顔だと思うけどな」


私は思わず呟いた。


「どこの国を傾けたらいい?ご希望ある?」


背後から声がして振り向くと、

蒼井颯、本人が立っていた。


サングラスに帽子。

一応変装のつもりだろうか。

まだ売り出し中で顔をさすわけでもないのに

自信過剰なのでは?とも思う。


だがやはり目立つ。


女子高生たちの声が聞こえてきた。


「え、超イケメンいるんだけど……」



だよね。なかなかお目が高い。

私も彼だ!と思って特集を組んだんだよね。

もっと見たいなら、雑誌の購入をおすすめします。



いや、ちょっと待って。


「退院は明日じゃなかった?」


颯は屈託のない笑顔で答える。

「治癒力が先生の予想を超えててさ。

一日早まった。

光里さんを驚かせたくて、黙って来ちゃった。


この時間はいつも本屋にいるって聞いてたから」



うん。そうなんだけど。


なんだこの「来ちゃった」ってやつは。

そして少し喜んでいる自分がいることに気づき、

私は自分を落ち着かせた。


「お腹すいたし、お昼にする?」


ちょうどお昼の時間が迫っていた。

今ならまだ並ばずに入れるお店もあるだろう。

とにかく女子高生たちが騒ぐ前に

ここから離れよう。



嬉しそうな顔をする颯を連れて、

私は本屋を出た。


立ち止まった颯は、いきなり私の手首を掴み、

自分のお腹に私の手を当てた。


「病院食がヘルシーすぎて。ね?ぺったんこでしょ?」


彼にとっては何気ないことなんだろう。

いや、私に気に入られたらまた雑誌に載せてもらえる。

そういう下心もあるのかもしれない。


でもずるい。人の心は弱いから。


どんなに忘れたくなくても

触れられなければ、いつか忘れている時間が増えて

いく。

触れられるものにすがりたくなる。


だから簡単に触れてはいけない。

触れると……気づいてしまうから。

自分の弱さに。



私は慌てて手を振り解いた。


「あまり年上をからかっちゃダメだよ。

何が食べたい?」




光里はきっと思っているのだろう。

売り出し中のモデルが必死になって

営業をしているのだと。


気づいて欲しい。

触ることができないヤツなんて

忘れて欲しい。

前を向いて。

俺がいるから。

俺なら一緒に笑って、泣いて、怒って、

そして包んであげるから。


でも怖い。この関係が壊れてしまうのも。

そして、完全に光里がアイツを忘れてしまうことも。


アイツ……桔梗 蓮。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ