5.きっと大丈夫
家に帰ると若菜が玄関口で待っていた。
ボサボサの髪。パジャマなのか、着替えたのかわからない
いつものスウェット。
もちろんノーメイク。
メイクしがいのある顔立ちであるのに
もったいない限りだ。
「光里!ごめんね、ややこしいことに
巻き込んじゃって」
どうやら私は巻き込まれているらしいが、
まだ自分が一番理解していない。
どういうこと?
「私が書いた新作が面白いと、
有名なYouTuberの方が動画で紹介してくれて。
そしたらすごいの!!
びっくりするくらいの方が見てくれて。
本当にインフルエンサーの影響力ってすごいのね!!」
若菜は興奮しながら話し出した。
とりあえず状況はわかったが、私の絡みはどこにある??
確かに若菜の書く小説は面白い。
だが、所詮無名な小説家。
コンクールに応募しても、うまくいって最終選考に
残るかどうか。
いつ夢を諦めるかの決断を
伸ばし伸ばし暮らしてきたのだった。
興奮がおさまったきた若菜は、
本題を思い出したようだ。
「で、光里に挿絵のイラストを描いてもらってたでしょ?」
そう。
私は学生の頃からずっとイラストを描いている。
もともと絵が好きで、絵師さんの真似事を
していた。
ただ、誰に見せるわけでもなく、
自己満足の世界。
好きな絵師さんの真似や
好きな曲のイメージを想像してイラストにしてみたり。
ただ蓮を失ってからは蓮ばかりを描いていた。
それは自分への戒め。
決して忘れてないいけないと思うから。
描いている間、頭の中にあるのは蓮の顔ばかり。
笑顔、怒った顔、悲しそうな顔。
そして最期の顔。
ある日、若菜から頼まれた。
今度の小説の主人公が蓮のイメージに
ぴったりだと。
挿絵としてイラストを載せてもいいかと。
そうすれば読者がイメージしやすいから……。
迷った。
蓮は見せ物ではない。それに私だけのもの。
でも、蓮がいない今、小説の中で生きてくれるのも
悪くはないかも。
知る人ぞ知る、若菜の小説の中でなら……。
どうやらここからが巻き込まれている内容らしい。
知る人ぞ、の数がとてつもなく増えている。
イラストにも注目が集まり、
anemoneというイラストレーターが
私の知らないところでひとり歩きを始めてしまった。
anemone、そう私のことだ。
小説は結構な話数を出している。
提供したイラストの枚数もそこそこ。
きっとイラスト集くらいの数がネット上に
あるはず。
とにかく落ち着こう。
きっとこの騒ぎもすぐに落ち着く。
誰もanemoneのことも、イラストのモデルのことも
忘れていくに違いない。
きっと大丈夫…。




