4• 美しい男の正体
病室の扉を開けた。
着ていたシャツが真っ赤になっていたという
話を聞いたが、会社からの情報では
大きな怪我はないという。
自分の目で確かめてみるまでは
本当に大したことはないのか信じられなかった。
ベッドに半身を起こして窓辺の男を見ている
颯君は、私の希望以上だった。
本当に事故にあってこんな状態ですむの?
シャツを染めたのは一体誰の…?
そんなことはどうでもいい。
生きて、怪我なく生きていた…。
私は息をするのも忘れて颯君に質問をしていた。
その時、窓辺にいた男の顔が夕焼け越しに
うっすらと見えた。
蓮……?
まさか、そんな……
桔梗 蓮……
忘れられない、忘れられるはずもない…
窓辺の男の顔がはっきりと見えた。
そう、そんなはずはない。
蓮に会えることはもう2度とないのだから…
彼は颯君の主治医のようだ。
蓮とは年恰好、共通点は見当たらない。
どこに蓮の面影をみたのだろう。
主治医が部屋から出ていく。
なぜか私は彼の後ろ姿を見る勇気がなかった。
颯君も固い表情で彼の後ろ姿を見つめていた。
まさか彼も蓮の面影を?
有り得ない。
彼は蓮のことは知らない。
何か私の知らない問題でもあったのだろうか?
カバンの中でまた私のスマホが
伝えいたいことがあるぞと震えている。
「ごめん、ちょっと待って」
私はスマホを取り出した。
若菜からの「ごめん」という文字が見える。
若菜は「自称 小説家」。
幼馴染であり同居人だ。
バイトをしながらWEBで小説を書いている。
ごめん、で始まるということは
きっとまた金欠なのだろう。
本当に出世したらかなり高級バッグでも
買ってもらえそうだ。
メッセージの続きを見る。
「ごめん 光里。
私の新作がバズっちゃって」
え?そんなことあるの?
いつもpvは一桁だとか言っていたのに。
まさか盗作疑惑とか?
なんかやばいこと書いたとか?
そうでもなければなぜ謝るの?
「私の新作、というか……、
光里が描いたイラストが、というか?」
若菜から送られてきたURLを
わけもわからずに押してみた。
「美しすぎる彼…謎のイラストレーター
anemone」
そこには私が描いたイラストが
映し出された。
美しすぎる彼…?
そう、誰よりも知っている。
彼は、私の元恋人、桔梗 蓮。