2 美紅の部屋をおとずれる光里に事故の連絡が入り…
カーテンを開けた。
ここに来た頃にはあんなビルはなかったな。
ふと5年前の記憶がよぎる。
振り向くと眠っている美紅の頬に光が差し込んでいる。
「ごめん、眩しかったね」
カーテンを少し閉め、すぐにでも目を覚ましそうな
妹の頬を触った。
「あ、そうだ!」
カバンから一冊のファッション雑誌を取り出し
ページを捲り、自慢げに妹に見せてみる。
「eclat」
花束を抱えて笑顔を浮かべる男性モデルの横に
「特集!注目の新人モデル 蒼井颯」と
書かれている。
確かに彼は今売り出し中のモデルだ。
ただ美紅に見せたいところはここじゃない。
左下にある「文:山吹光里」を指差し
やっとここまで来たよ〜と呟いてみる。
ただの願望にすぎないことはわかっているが
美紅の口角が少し上がったように見えた。
ノックの音がしていつもの看護師さんが
入ってくる。
「光里さん、見たわよ、雑誌。
かっこいいね、颯くん?推しにしようかしら」
山本と書かれた名札をした彼女は
5年前は違う名札だったきがする。
ま、人生色々、幸せはそれぞれだ。
そして彼女は続ける。
「色の勉強をよくしていることは尊敬するわ。
でもいくら洋服のカラーで誤魔化しても
私の目は誤魔化せない。ちゃんと寝てる?
まだ若いからって無理したらだめよ」
これまた5年前なら多少の無理もできた。
昨日は急ぎの依頼がありまだいけると
思ったんだけどな。
さすが…と
いいかけた時、カバンの中でスマホが
早く出てよと主張している。
「ちょっとすみません…」
慌ててスマホを取り出し通話可能な場所まで走る。
もうそろそろ買い替えが必要なスマホの画面に
2本のヒビと会社という文字が見えた。
「もしもし」
「あ、光里さん?ニュースみた?」
こういう時はロクなニュースではない。
私はネットにアクセスしながら続きの言葉を待つ。
「蒼井颯くん、事故にあって病院に運ばれた!」
花束を持って笑う彼の顔が私の頭に浮かびそして
なぜか胸が苦しくなるのを覚えた。