表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/23

呪い その9

エレベーターを降りて表札を見ながら移動し始め、突き当たりに目的の店があった。

ドキドキしながらチャイムを鳴らす。店舗の中にチャイムの音が響くのが分かったが、物音はしない。

シーンとして何の反応もない。中に人がいて、撮影中とか、相談中とかなら、待っていられるのに、完全に留守ならどうしようもない。

「もう、1回だけ……」

ピンポーンと鳴る遠くの音。

やはり無反応だ。

「ダメか……」

がっかりして、力無くその場を離れた。

1階のロビーに戻ってきて、椅子に座る。戻ってくるかもしれないしと、しばらく待つ事にした。

1人、2人、人が入ってきてはエレベーターに乗り込む。

行き先を確認して、同じフロアで人が降りたらすかさず向かう。チャイムを鳴らして様子を伺い、反応がなければまた1階に戻ってきて待機。

中に入れてくれた女性の帰りとも鉢合わせたが、次の客を装って誤魔化し、夕方までその作業を繰り返した。2度、3度、同じ人(どこかの店舗の人かな?)とすれ違い、不審そうな視線を幾度か味わった後、ついに諦めて建物から出た。









黄昏色に染まる空を見上げて、途方に暮れる。

希望や期待が萎んでいくような感覚のまま、これからどうしようかと考えながら、見知らぬ街をトボトボ歩き始めた。このまま横浜に帰るか、それとも明日、もう一度訪ねてみようか。

明日、訪ねるとしたら……

「泊まるトコ、どうしよう」

予算はあまりないが、ある程度閉鎖された空間でないと、安心して眠れそうにない。

初対面の配達員や、自称弁護士ですら我を失ったんだから、ネットカフェみたいなところ、危ないよね?

だからといってすぐ帰るには諦めきれない。

安い宿を探すため、大通り沿いに充電できそうなカフェを探す。

10分ほど歩くと、PCやタブレットで作業をしている人が多くいるカフェを見つけた。

壁際にコンセントを視認したあたしは、そこに入ることに決めた。

アイス・カプチーノを注文して、コンセントのある席を探す。適度に混み合っている店内で、身を寄せ合うようにして話す男女の右隣に座った。

充電しつつ安宿を検索しながらカプチーノを啜っていると、隣に座る男の声が聞こえてきた。

「そうかあぁ、ようやく香奈(かな)も会社辞めるんだね。申し訳ないことに、事務作業が引くほど溜まってんだよね」

「ふふ、張り切って処理しなきゃ。これで、また一緒に働けるね」

チラリと横目で見ると、テーブルに置かれた女の手に、男が掌をかぶせて話をしている。

微笑ましい。

……そして、うらやましい。

「営業のほうはどう?」

あたしから見て奥に座る女がそう尋ねると、男からは自慢げな声がする。

「オーナーには褒めてもらえてるよ。あっちも、こっちも」

また横目で見る。シャッターを切る動作と……もう一つはテーブル上の何かを指している。

無意識に先ほど行った”はなちるさと”と重ね合わせていた。髪を直すふりをして顔を隣に向けると、そこにはタブレットが置かれていた。

「今日はオーナーはいないのよね?」

「うん、こっち案件で(れい)ちゃんトコに行ってるよ」

タブレットの端を、指でトンとタップしながら男が言い、女がそれに問い返す。

「礼さんのところって、横浜?」

【オーナーはいない】

【横浜】

どきっとした。

顔を正面に戻したが、耳は左に集中している。

「いや、東北の方だったかな。勧誘かもね」

自分の鼓動が耳元で聞こえるような気がする。

「随分人も増えたから、そろそろ管理が大変そう。それにとっても忙しそうで……。オーナーはちゃんと眠っているのかしら」

「そこは僕も心配だなぁ。こっちの案件も増えてんだよね。僕の営業じゃなくて、うさちゃんの力が大きいんだけど」

「2人とも優秀だわ」

「僕は飛び込み営業得意だけど、交渉力はうさちゃんに負けるよね。特にこっち側。なんでもない案件を仕事に変えてくるのって、素直に尊敬するよ」

「へえ、すごいのね」

完全に2人の世界だが、気になって仕方がない。

どうしようか、声をかけようか。

でも、まったく関係ない人たちだったら?

いや、ここは見知らぬ土地だ。知り合いが存在しない世界。

なるほど、旅の恥はなんとやらって、こういう事?

「あ……あの、はなちるさとの関係者ですか」

あたしは短い葛藤の後、そう言って隣の男女に声をかける。

2人が同時にこちらを向く。

「これ、なんですけど」

あたしは思い切って金のカードを出した。今は消えている住所のところを指差してみた。

「あ、結界カードじゃん」

え?

結界カード?

「それ、誰にもらったの?」

こちらを向いた男の顔は、目がくりんと大きい。マッシュヘアがよく似合っている可愛い雰囲気の男性だった。一緒にいる女性はふわりとした感じの格好で、薄く微笑んでいるような表情であたしを見ている。可愛らしくて、雰囲気のよく似た2人だった。

「地元で、通りすがりの人に」

そう答えると、2人は顔を見合わす。

ややして答えたのは男の方だった。

「地元って横浜?」

あたしは驚いて男を見る。

目が合ったのを確認すると、ゆっくり頷いた。

「じゃあそのカードくれたのって、背の高い髪がくりっくりのイケメン?」

夜に見た彼と、眉間に落ちてきたその髪を思い出す。確かにくりんとカールしていたような……?

そうか、よく思い出してみると、背も高かったような。

「多分そうです。あの、このカード、住所が時々しか現れないので自信なかったんですけど、写真館であってますか?」

「住所?あぁ、そういう事」

男がそう言い、奥の彼女が身を乗り出して答える。

「昼間は写真館です。19時以降に用のお客さんですか?」

男はあたしから顔を背け、彼女に向かって首を振る。

「いや、礼ちゃんが金のカードを渡したんなら、客じゃなくて候補者じゃないかな」

「あ、それじゃあ……」

「うん。時間帯で言えば19時以降だろうけど。それに、ひょっとしたらトラブル中かもね」

男は少し振り返って、あたしにちらりと視線を寄越して言う。

「通りすがりってんなら、礼ちゃんに聞いても何もわからないだろうし、やっぱりオーナーに聞くしかないね」

あたしはじっと2人の会話を聞いていたが、我慢出来なくなって口を挟む。

「オーナーさんって、いつ戻るんですか?」

彼女と向かいあってた男がこちらに顔を向け、やはり首を横に振る。

「しばらくって言ってたから、1週間は戻らないんじゃないかな」

「そんなに!」

どうしよう。

1週間分も滞在費なんてないし、その間にあの人はどうなっちゃうんだろう……

それならせめて、せめて何か情報が欲しい!

「あたしの犠牲になった人を助ける方法、お2人ならご存知ですか?」

「犠牲?」

訝しげな表情でそう問い返してきたのは男のほうだった。

話すのが少し怖い。

でもあたしは勇気を振り絞って、なるべく簡略化して説明した。

高校の時に遭遇した不思議な現象と、金のカードをくれた男と交わした会話。そしてなによりも親身になってくれたのに、あたしの呪いに晒された人の話を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ