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呪い その15

改めて思うが、言葉はかなり流暢(りゅうちょう)だ。

日本育ちなのかな。

薄い金髪にグレーの瞳。しかしよく見ると目鼻立ちは日本人風だ。

「まずはあたしからね。”瓊樹(たまき) 若月(わかつき)”よ。店に来てくれたんですって?留守にしていてごめんなさいね」

名乗られて、金のカードを思い出した。

”じゃくげつ”ではなく”わかつき”。

オーナーと呼ばれたこの人の名前だったんだ。

「改めまして、”鷲木(わしき) (うさぎ)”と言います。居座ってしまい、申し訳ない」

正座のまま名乗ってくれたのは、もちろんあたしを助けてくれた人だ。至って健康そうで良かった。

「僕達の紹介は、いらないよね?」

(いさご)さんが香奈(かな)さんと自分を交互に指差しながら聞いてくる。あたしはこくんと首を縦に振った。

「”危菜(あやな) 未桜(みお)”です。無職で呪われてて人生迷子です」

そう言ってペコリと頭を下げると、オーナーさんに目を向ける。

「あの、さっき言ってた(いにしえ)の呪いってのが、あたしから出てくる白い手なんですか?」

グレーの瞳を覆う睫毛がピクリと動く。

「そんな気配を感じたって人がいるだけで、断定はできないわ。呪われた時の話をできるだけ詳しく教えてくれる?」

あたしはゆっくり頷いて、高校3年の夏に(さかのぼ)る。

山道で見た桜、少女の言葉、その日から現れた白い手と、変貌する男達。なるべく詳しく説明しようと、一生懸命しゃべった。

緊張していたが、鷲木さんの優しい眼差しに励まされて、最後まで話す事ができた。

「なるほどねぇ」

若月さんがそう言って、自らの顎を持って考え込む。

沙さんと香奈さんは顔を見合わせていたが、ややして分からないというように、首を横に振っている。

不安になって鷲木さんをみると、相変わらずあたしを見つめていた。

目が合うと頷いてくれて、そっと手を握られる。

大丈夫、安心していい。

そう言われているような気がした。

この手を裏切ってはならない、守らなければと無意識が語りかける。

無意識が語りかけるなんて可笑しいでしょ?でも、そんな感覚だった。

「物に依存する呪いじゃないのは、かなり厄介ね」

そう言ったのは若月さん。沙さんがそれに応える。

「その少女の正体も気になりますね」

「怨霊とか?」

香奈さんが首を傾げて言う。

「そうね。そこは予測するしかないわね」

若月さんはそう言うと、あたしに顔を向けて問う。

「金のカード持ってる?」

「あ、はい」

自分のカバンを引き寄せて、中から金のカードを出す。

「何が書いてあるのか分かる?」

そう問われてカードを見る。前と同じで住所がない。


はなちるさと


19:00〜23:00

担当:若月


「店名、営業時間、担当者が今は見えています。でも、前に何度か住所も見ました」

「住所は時々なのね?」

若月さんに頷いて、気になっていた事を聞く。

「白い手が出ている時に、少しの時間だけ見えるみたいなんです」

「なるほどね。誰か、音叉(おんさ)持ってる?」

誰も持ち合わせていないようだ。お互いを見ながら首を横に振っている。

「音叉ってなんですか?なんかの音が出れば大丈夫とか……?」

チラリと台所に目を向ける。

「あら、ひょっとして、何か実験してみたことがあるわね」

あたしは若月さんに頷いて立ち上がり、ワイングラスに水を入れて持ってきた。

「水の量はこれくらいから、調整しながら鳴らすんです。時々、ゾワっとして白い手が出てくる気がして」

「グラスハープ!なるほど。そんな手もあるのね」

若月さんはそう言うと、床に置いたグラスの中に長い指を入れ、その縁をそっとなぞる。

「懐かしいわ。リムをなぞるの好きだったの」

清浄な音が優しく響く。

「リム?」

あたしが聞き返すと、若月さんは微笑んで説明してくれた。

「ワイングラスの(ふち)の名称ね。胴体がボウルで、脚がステム、一番下の台座部分をプレートっていうのよ」

そのプレートを押さえて教えてくれた若月さん。

「へえ」

知らなかった。グラスも貰い物で、ワインを入れたこともない。

そんな事を考えていると、綺麗な音が響く。

コォーーーーーーーーー

「ちょうど良い音程だわ。うねりがちょっと邪魔だけど」

うねりってなんだろう。

「それじゃあ美桜ちゃん。目を閉じて」

言われるまま目を閉じた。

「音の中心を感じて、そこに身を置くの。置けたと思ったら、四方に手を伸ばすようにイメージして」

む、難しい……

「ん〜〜〜〜〜」

コォーーーーーーーーー

音の中心……音の中心……音の…………

これかな?

そう思った瞬間、背中を駆け上がる感覚にゾクゾクした。

「はっ!」

急いで目を開けると、周りを見回す。

鷲木さんが白い手に包まれていた。

「自分の意思で止めれる?」

若月さんにそう言われて、あたしは首を横に振った。でも、なんとかしてみようと白い手を見る。

「お願い、何もしないで」

囁くように白い手に語りかける。

そうすると、白い手の動きが止まった。

「あ、止まった」

沙さんの声がする。

ふわりと花のように開く白い手。正座したままの鷲木さんが現れる。

顔色が少し悪そうだが、大丈夫だろうか。

するすると白い手が、自分の中に引っ込んでいく感覚が背中で続いていた。

「なかなか厄介な呪いね。未桜ちゃん、カードを見てくれる?」

はいと頷いてカードに目を落とす。

「あ!住所が出てます」

「能力がまだ不安定なんだわ。住所が見える時は呪いの影響で能力が安定しているのよ」

きょとんとした顔をしていたと思う。能力って、白い手とは別の話?

「呪いのせいで、能力ってやつが芽生えたんでしょうか?」

「いいえ、きっと元からの体質よ。小さい頃から、変もの見たりしなかった?」

変なものとは、どのようなモノを指すのだろうか。心霊体験などはないのだが、それとは別?

「でもこれでますます難しくなったわね。未桜ちゃんが見た少女ってのが、呪いを解くヒントを持っていると思うんだけど、その少女が本物であるか否かが分からないのよね。能力が不安定な状態で見ているのだから、実体なんだと思うけど、それならますます不自然だし」

若月さんの言葉に、鷲木さんが問いかける。

「仮説として、その少女が幻だった場合と、現実だった場合、何が大きく変わりますか?」

そうねえと、若月さんは顎を摘んで首を傾げる。

グレーの瞳があたしをじっと見つめた。

「少女が幻だった場合、未桜ちゃんの呪いを解く鍵がない。永続的に魂を保護しながら、手当たり次第に解呪方法を試すって事になるかしら。今のままじゃ彼氏も作れないしね」

「え!」

自分でも驚くほど大きな声が出た。

「だって、好きになった人、殺したくないでしょ?」

「や、やっぱり、死ぬんですか?」

「死ぬわね。生気を吸い取って呪いが強くなるみたいだし、耐性がないと短時間でも倒れるでしょう?」

改めて言われるとゾクっとした。明るい未来はないと言われた気分だ。

「それから、少女が本物だった場合」

若月さんが青ざめたあたしから顔を逸らし、鷲木さんを見て言った。

「未桜ちゃんが見た話から推察するに、肩に怨霊を乗せた少女ってことよね。乗ってるなら完全融合はまだと見ていいだろうし、その怨霊が少女に取り憑いて呪っているのなら、少女を探して祓ってしまえばいい。呪いだけ残る可能性もあるけど、闇雲に解呪方法を試すよりはマシね」

ただし、と若月さんは続ける。

「この少女の現れ方が異常よ」

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