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落ちこぼれの少女、世界最強を宿して無双する〜元素魔法が強すぎて世界の奴らがまるで相手にならないんだが〜  作者: エーカン
三章 ドラゴンスレイヤー編

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チーズケーキと姫

 聖騎士たちは、ジーレスト王国に入国し、首都オーレリーに到着後、商人を商会に送り届けていた。その後ろにアルスとレナードが追いついた。

「副団長、ご無事でしたか!アルスも」


「アルス君、ケガしてない?」

 騎士たちがレナードとアルスに駆け寄る。

「俺たちは大丈夫だが、けが人がいただろ」

 レナードが訊ねる。

「彼は大丈夫です。商人の方が宿を用意してくださるそうで、彼は先にそちらに向かっています」


「カルトさんが宿を?ありがたいことだ」

 レナードが礼を言いに商会に向かう。

 アルスが軽く伸びをする。友が死んだのは悲しいが、くよくよはしてられない。たまたま危険な任務になってしまい、生き残れなかった。ただそれだけのことである。

 仲間の死を悼め、すれど引きずるな。それが聖騎士団に伝わる格言の一つであった。

「アルス君、この後暇でしょ?」

 一人の騎士がアルスに話しかける。彼女はセシリア・バーンスタイン。背が高く、太陽のようなオレンジ色の瞳がアルスを見下ろしている。

「暇ですよ、どこ行くんです?」

 アルスはセシリアを尊敬していた。剣の腕前は一級品、おそらくシャリーと同じぐらいとアルスは読んでいた。聖騎士団で三番目か四番目に強い騎士。

 誰にでも気さくで面倒見もいい。そして何より抜群のスタイルと美貌は騎士団の男たちに大人気であった。専ら恋愛対象として。

 まあ、世話焼きなセシリアのことをアルスは母親のように思っていたが。

「カフェ『ラボーン』に行きたくて。そこのチーズケーキが美味しいらしくってね、一緒に行かない?」

 断る理由はない。

「いいですよ」

 アルスが頷くと、セシリアは彼の手を取って歩き出す。ジーレスト王国は決して大きな国とは言えないが、首都オーレリーはかなりの活気に包まれていた。昔ながらの赤レンガの建物はどこか人をノスタルジックな気分にさせてくれる。道路の脇には魔道具、革細工、野菜や果物、肉などの露店が並んでいた。

「へぇ、結構種類豊富ですね」


「散財癖がある人はここに来ちゃだめだね、財布が空っぽになっちゃう」

 アルスとセシリアは、時折露店を覗きながら『ラボーン』に向かった。お目当ての店はすぐに見つかった。

「ここ、ここ!早く入るよ」

 セシリアが扉を開ける。

「いらっしゃいませ、何名様で」


「二名です」

 

「ではお好きな席にどうぞ」

 ウェイターの女の子がそう言って厨房に引っ込む。

 アルスとセシリアは窓の向こう側のテラス席に着席した。

「噂になってるという割に、あんまりお客さんいないですね」

 アルスが小声で言うと、セシリアが肩をすくめる。

「なんでも、知る人ぞ知るってやつらしいわ」

 ウェイターがお冷の入ったコップを二つ持って来てメニュー表を置いて行った。

「あ、もう注文決まってます」

 セシリアが立ち去りかけたウェイターを呼び止める。

「そうですか」

 ウェイターはメモ帳と鉛筆をエプロンの胸ポケットから取り出してこちらに戻ってくる。

「えーと、この熟成ユーゾンチーズ使用チーズケーキを二つ」

 セシリアは勝手にアルスの分も注文をする。アルスとしてはチーズケーキの下に書いてあるフルーツタルトがよかったのだが。

 まあ、おすすめされているものを無視して、自分の頼みたいものを頼むほど自分勝手な男ではない、と自負している。

 ところが、ウェイターは驚きの一言を放った。

「チーズケーキは今やってないんですよ」


「へ?」

 すっかりチーズケーキの気分だったセシリアが目を点にする。

「使用するチーズがこの店に卸されてないんで。別の商品をお頼みください」


「えぇー!」

 セシリアが目に見えるように落胆する。

「ユーゾンチーズが入ってきてないってことですか?理由は?」

 セシリアが食い気味に訊ねる。アルスはその姿に嫌な予感を覚える。

「ユーゾンチーズを熟成させている岩窟に怪物が住み着いたみたいで、どうしようか店長も迷ってるんですよ」


「どうしようかっていうのは、怪物の対処?」

 どう考えてもチーズの代用であったりの話なのだが、セシリアは怪物のことしか頭にないようだ。

「国が冒険者を雇ったんですけど、全員喰われたとかなんとかで帰ってこなくて」


「く、喰われた?」

 衝撃の言葉にアルスとセシリアが硬直する。

「それ以降、国は動いてくれなくて......」

 ウェイターが俯いて言う。

「このお店のチーズケーキを楽しみにしてくれておる人は多いので......」


「......その件についてはこちらで調査中よ。国が匙を投げたみたいな言いぐさはやめてちょうだい」

 ぴしゃりと投げかけられた声はまだあどけなさの残る、高飛車な雰囲気を醸していた。

 アルスとセシリアはその声の主を見る。ウェイターが顔面蒼白で平伏したのを見て、目の前の少女がただ者ではないことは察知できた。

「あなたたち、頭が高いわよ」

 白い髪をかき上げながらその少女は、アルスとセシリアを睨む。

「セレーナ姫の前である、平伏せよ!」

 後ろに控えていた大男が大声を出す。言う通りにするのは癪だったが、大事にして聖騎士団の顔に泥を塗るわけにもいかず、二人も平伏した。

「その制服、聖騎士ね。今回はその立場に免じて許してあげる。次はないんだから」

 少女はそう言うと、ウェイターの方を見る。

「例の岩窟の件だけど、この前は冒険者を投入したけれど、正直ぬるかったわ。今度は精鋭の騎士団を派遣するわ。これで解決しなかったとて、チーズケーキをあきらめるつもりはないわ」

 そう言われたウェイターが頭を床にこすりつける。

「ありがとうございます、ありがとうございます......!」


「店長にも伝えておいて。それじゃあ」

 セレーナが踵を返して店から出ようとするのを、セシリアが呼び止めた。

「過ぎた願いであることは重々承知しておりますが、私とこのアルスという聖騎士二人を、怪物の征伐に同行させてもらえないでしょうか」

 セシリアが立ち上がる。アルスが焦ってセシリアを止める。

「勝手にそんなことしちゃダメですよ!行くとしても、せめてレナードさんに許可を取ってから......」


「嫌よ、チーズケーキ食べたいから!」


「アホか!そんな理由で命張れるかァ!」


「命張れよ、男だろ!」

 二人のやり取りをうっとうしそうに聞いていたセレーナが手を叩く。

「偵察部隊がすでに向かってる。あなた達が死んでも責任は取らないけれど、大丈夫かしら?」


「ええ、大丈夫よ。聖騎士二名が怪物の征伐で死亡しただけのこと。人員に欠損が出るのは日常茶飯事だから」

 セシリアが頷く。何でもないことのように言うが、セシリアの言っていることは噓ではない。聖騎士は何も護衛任務だけをこなすわけではない。危険度の高い魔物の盗伐、犯罪組織の壊滅、かつては傭兵のようなことも請け負っていた。そのような状況下では、生き残れる者も少なく、ひどいときには、任務にあたった全員がポルコロッソに戻ってこなかったこともある。

「そういうことじゃないと思いますよ......」

 アルスが苦笑いしながらセシリアに耳打ちする。

「良いの。ここでお姫様に恩を売っておけば色々いいことあるでしょ?」

 困っているのはお姫様ではなく、この店の人間なのだが。怪物を征伐しても、この店でいくらかサービスしてもらえるだけにとどまるだろう。そもそも打算的な考えで危険を冒すのは浅はかだ。レナードさんに言いつけてやろう。

 アルスはそう心に決めた。これで死んだら、セシリアの枕元に毎晩立ってやることも。





 件の岩窟、その奥から何かをむさぼる音が聞こえてくる。

「うふん、騎士ちゃんたち、なかなか美味ね。でも、まだまだ足りないわーン」

 怪物の足元には、セレーナが向かわせた偵察部隊の死体が転がっている。

「まだまだ、コース料理は終わってないわよね」

 怪物が岩窟の入り口に向かって、ささやくように訊ねかける。

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