戦い抜いた戦士たち
「う......あれ」
エリスが目を覚ますと、青空が広がっていた。のそりと身体を起こすと、オシグとリシアがこちらに駆け寄ってきた。
「起きたー!」
二人がエリスにガバっと抱きつく。
「おぉ、どうしたんだ二人とも?戦いは終わったのか?」
エリスが立ち上がって尻をはたく。辺り一帯が荒野と化しているようで、無傷の建物は少ないようだ。
「終わったもなにも、エリス姉ちゃんとユリィ姉ちゃんが合体してカゾエを倒したんだろ?レイナさんから聞いたもん」
リシアが頬を紅潮させて言う。エリスが首をかしげる。
『ユリィが援護に来てくれたところまでは覚えているんだが......』
「落下の衝撃で記憶が飛んだんじゃないか?」
オシグがエリスの頭を殴りつける。
「こら!」
エリスが頭をそらしながらオシグに怒る。
「そんなことしたって記憶は戻らないよ。ところでユリィたちは?」
エリスが訊ねた瞬間、後ろの方で歓声が上がる。振り向くと、反乱軍の兵士たちがユリィを胴上げしているのが目に入った。
「よかった、ユリィも無事か」
エリスが安堵のため息を漏らす。
反乱軍の本拠地に戻っていたエヴァンは両親と再会を果たしていた。エヴァンの姿を見るなりイーナが駆け寄って息子を抱きしめた。
「生きて帰って......どうなるかと」
イーナが涙ながらに言葉を紡ぐ。
「母さん、心配かけてごめん」
「エヴァン」
ヨクナーがエヴァンとイーナを抱きしめる。
「ありがとう、帰ってきてくれて。父さんは鼻が高いよ」
三人は連れ立って出口へ歩き出した。途中でシャリーがエヴァンに声をかける。
「私たちはまた巻き込まれたな」
「野外実習の時もそうだな。そういう運命なのかもしれんな」
エヴァンはどこか楽しそうに言うと、また歩き出した。
「運命、ねぇ......」
シャリーが呆れたようにエヴァンの背中を見送る。その表情はどこか穏やかさも感じさせた。
シャリーの所属しているヴェルツ騎士団の面々、誰一人欠けることなく生還した。重症であったモハンもぎりぎりで意識を保っている。シャリーが立ち上がって外を目指す。民間人も続々と外に向かっており、反乱が終結したという実感が湧いてくる。
詰所まできたエリスたちはブレイザード王国の民からの熱烈な歓迎を受けた。皆が口々に兵士たちに感謝の言葉を投げかける。エリスがレイナに訊ねる。
「魔物がいっぱいいたはずだが?」
「カゾエが死んでから程なく、全部塵になって消えたんだ。消えてくれてよかったよ、魔物狩りなんてごめんだしな」
レイナが肩をすくめて言う。全員が満身創痍で戦い抜いたのだ。カゾエを倒してきれいさっぱり終わったのは幸運だった。
「街はあらかた壊滅してしまったが......」
「化け物とあんだけの大立ち回り、街がぶっ壊れない方がおかしい。ゆっくりこの街も建て直していくさ」
レイナが笑って言う。皆はもう前を向いている。明るい未来に向かって歩みを進めている。それについていきたい、エリスはそう思った。
カゾエもそう思っていたのか?彼女もかつて人間とともに前に進もうとしたのかもしれない。何故そう思ったのかは分からない、なんとなくそう思っただけだ。
「エリスちゃん、お疲れ様」
ユリィが隣に並ぶ。
「お疲れ様、もうクタクタだよ」
エリスが笑いながら答える。降り注ぐ日差しが疲れた身体に心地よい刺激を与えてくれる。これからどうしようか。また旅を続けるか、それともクレア先生たちのところに行ってみるか。
詰所が見えてくる。中から人が絶え間なく出てきている。
「ユリィ!」
デノン夫妻がユリィの方に駆け寄ってくる。
「わーっ!」
ユリィが言葉にならない歓声を上げてデノン夫妻の方に駆けていく。
「仇取った!お父さんとお母さんの仇を取った!」
ユリィが大泣きしながら言う。
「お前は強い子だ、ユリィ!」
「無事でよかったわ、ユリィ!」
本当の両親ではないが、三人は確実に愛で繋がっている。遠くから見ていたエリスにはそれが分かった。と同時にどうしようもない寂しさが心の隙間に入り込んでくる。
「あいつには感謝してもしきれないよ」
ユーゴがユリィを見つめて言う。
「アンペインの仇は取れたんだな」
エリスが訊ねると、ユーゴは静かに頷く。
アンペインの戦士たちよ、大儀であった!
ユーゴがパッと空を見上げる。
『王の声......!見ていてくださったのですね』
ユーゴが静かに涙を流す。エリスはそれを見届けると、腕を包帯でグルグル巻きにされて、半壊した壁に立てかけられているリクラスのもとへ向かう。
「調子はどうですか」
「良いわけないのです。夜が明けてからもしばらく放置されてたんですよ、陰の功労者が!おかしいのですぅ!」
エリスは話しかけたのを少し後悔したが、リクラスの聖なる結界がなければ魔人の弱体化もなく、より多くのものを失っていただろう。この勝利も得られていなかったかもしれない。それを鑑みれば、リクラスも勝利の立役者と言えよう。
「そうですね」
エリスは適当に流すと、ユリィのところへ向かう。
こうしてブレイザード王国はカゾエたち魔人の支配から解放され、新たな未来への一歩を踏み出すこととなった。
「地獄のような時間を戦い抜いた戦士たちよ、誇れ!喜べ!叫べ!」
ヴィストが馬鹿でかい声で叫ぶ。街が歓声に揺れる。
戦い抜いた戦士たち、彼らの記憶は永遠にブレイザード王国に刻まれることとなった。そしてそれは新しい世代に受け継がれていくことになる。
二か月後。街の復興は着々と進んでいた。空席となっていた王の位には復興が終わるまでという条件のもとレイモンドが就いた。
見た目も王様っぽいので国民からは人気がある。
もちろんエリスたちも復興の手伝いをしていたが、別れの時間も近づいていた。
とうとうその時がやってきた。
馬車に乗り込むエリスと鉄面皮、ユリィとエヴァンをともに戦った仲間たちが見送ってくれた。
「あっという間だったな、寂しいよ」
レイナが涙ぐむ。オウボもニヤニヤしながらユリィに話しかける。
「今度本気でやりあおうぜ」
「やだよ」
つれないものである。
「エヴァン、学園に戻るのか」
ヨクナーがエヴァンに訊ねる。
「やりたいことが増えたから。それを片付けたらまたこっちに戻ってきて、父さんの工房を手伝うよ」
「はっはっは、うれしいこと言うじゃねえか。期待してるからな」
ヨクナーが息子を強く抱きしめると馬車の中に押しやる。
「君たちに受けた恩義は決して忘れないよ」
レイモンドが微笑みながら言う。エリスたちは頷くと、馬車に乗り込んだ。
ペガサスがいななき、馬車がふわりと浮き上がる。
「バイバイ、鉄面皮!」
「鉄面皮!」
オシグとリシアが馬車に向かって呼びかける。すると、馬車の窓から腕が伸びて、フリフリと二人に向かって手を振った。
こうしてエリスたちはブレイザード王国を後にした。馬車での話題は自然と鉄面皮に向いていた。
「えと、シャリー?」
エリスが言うと、鉄面皮が即座に否定する。
「鉄面皮だ」
「あんまり良い意味じゃないだろ、鉄面皮て......」
エリスが呆れる。
「シャリーは騎士団も謹慎になってるんだ。だからこうやって正体を隠している、という体で本来予定されていたエンスウェードとブレイザードの合同演習に参加するつもりだったんだと」
エヴァンが包み隠さずに話す。
「みなまで言っちゃったよ」
ユリィが苦笑いする。仮面をとったシャリーの目は恐ろしく冷たかった。
エヴァンが目をそらす。
「別にお前らを助けようとか、この国を助けようととか思ったわけじゃないから」
シャリーがエリスを見る。
「お前の強さに追いつくためだからな」
「......そうか」
そうか、としか返せないのだ。そもそもシャリーが一方的にライバル視しているだけであって、エリスはシャリーのことを大事な友人としか思っていない。
「そうか⁉余裕ぶっこいていられるのも今のうち......」
シャリーがエリスに詰め寄った瞬間、馬車が大きく揺れ、ペガサスがいなないた。
「わっ、揺れたね」
「何かあったのか?」
シャリーが窓から顔をのぞかせ......。
「はあ⁉ど、どうなってんだよ、これ!」
シャリーの驚く声に一同が外を確認する。外に広がっていたのは、緑の芝が生い茂る地面、虹のかかった浮遊する島が無数にある、現実離れした全く知らない世界であった。




