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落ちこぼれの少女、世界最強を宿して無双する〜元素魔法が強すぎて世界の奴らがまるで相手にならないんだが〜  作者: エーカン
二章 ブレイザード王国編

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巡る因果と叫ぶ兵士

 ミーニとの勝負を制したシャリーは気力を振り絞って地面に着地する。

「私が勝ったァァ!」

 シャリーの雄たけびがこだまする。魔人に打ち勝った、その事実がシャリーの疲弊した体と心に活力をみなぎらせる。

 ミーニはとてつもなく強かった。シャリーは地面に横たわるミーニに敬意を表した。

「生まれ変わったら、またやろう」

 シャリーはそういうと、エヴァンに剝がされた鉄仮面を探しにその場を離れた。

『カ、カゾエ様......おそばにお仕えすることは......叶わなくなってしまいました』

 消えゆく意識の中で、ミーニが後悔する。

『最初から全力でこいつらを叩き潰しておけば、こんなことにはならなかった。いつから私は判断を間違えていたのでしょう......』

 そもそもカゾエが反乱勢力を今の今まで放置していたこと、それに尽きる。無意識にそう判断したミーニが涙を流す。

『本当に正しかったのでしょうか......カゾエ様......』

 ミーニの意識が深いところへ沈んでいく。眠るのとはまた違う感覚をミーニは感じた。その最期は存外、安らかなものであった。




 時は少しさかのぼる。エヴァンがマイニーを撃破したタイミング、その時ユリィはイーニと激しい肉弾戦を繰り広げていた。しかし、戦闘経験に乏しいユリィではイーニとの実力差は如実に影響していた。

 受け損ねた拳がユリィを吹っ飛ばす。

「さっきよりインパクトがないね」

 イーニが笑いながら言う。ユリィが頬をさすりながら立ち上がる。エリスと手加減をした状態で互角だった魔人。それ相手にこれだけの怪我で済んでいるなら上出来だろう。

 どうせならポジティブに考えた方が心が乱れにくい。

「それはこっちの台詞だよ。すぐに殺されちゃうと思ってたから」

 ユリィが返す。

「壊れにくいおもちゃは滅多にないからね。じっくり楽しむんだよ!」

 イーニがユリィへ飛び蹴りするが、ユリィはそれをすり抜けるように避け、拳を突き出す。

 雷鳴とともにイーニが後方に吹っ飛ばされる。

「ははっ!いいねぇ、そう来なくっちゃ!」

 イーニとユリィが肉眼で捉えられない速さで肉弾戦を展開する。空気を切る音と土埃だけが戦場に残る。

「殴りあってるときってさ、生きてるって感じがしてたまんないんだよねぇ!」

 イーニがユリィを蹴り上げる。上空に吹っ飛ばされたユリィはすぐに体勢を立て直し、追撃を警戒する。

 イーニが手のひらから魔力弾を無数に発射する。

「この程度!」

 ユリィがそのすべてを根性で弾き飛ばす。あたり一帯が爆発する。ユリィが爆発の被害に気を取られている隙に、イーニが彼女の真上に移動する。

 そして巨大な魔力弾をユリィに向けて放つ。

「どの程度ォ⁉」

 ユリィが放たれた魔力弾をバルジュゼールで迎え撃つ。

「はああああああ!」

 ぶつかり合った魔力が膨張して、まばゆい光とともに爆発が起きる。幸い、地上ではなかったので、味方の兵士たちへの影響は少なかった。

 だが、いつまでもこんなぎりぎりの戦いを続けるわけにもいかない。いつカゾエが出てくるのかも分からない。早急に決着をつけなければ。

「ホント、君みたいなのがいてよかったよ」

 イーニが心底楽しそうに言いながら地表に降りる。ユリィも続く。

 離れたところで、蒼い炎の龍が地上に降り注いでいるのが見えた。どこも激戦が繰り広げられているようだ。

「というか君、どこかで見たことあるような......」

 イーニがユリィの顔を凝視する。

「冒険者ギルドで会ったでしょ」


「違うよ、そんな最近じゃない。たしか......」

 イーニが記憶をたどる。青みがかった紫色の瞳......。

「思い出した!あたしがぶっ殺したアンペインの国王夫妻と同じじゃん!」

 残虐な笑みを浮かべたイーニがユリィを指さす。

「君、もしかして娘かなぁ?敵討ちに来たってこと?」

 レイモンドが言っていたことを思い出したユリィが激昂する。

「私の故郷を、両親を奪ったのはお前か!」


「今更かよォ!お前もあいつらのところに送ってやるよ!」

 イーニがユリィの顔を殴りつける。

「......お前だけは」

 ユリィが反撃の拳をイーニに放つ。

「許さない!」

 イーニが吹っ飛ばされながら魔力弾をばら撒く。爆発が起きる。

 イーニがぐっとブレーキをかけて空中に(とど)まる。高揚感が収まらない親子二代が自身を殺そうと向かってくる、それも両親よりはるかに強い奴が。その事実はイーニの戦闘狂の一面をむき出しにするには充分であった。

 爆炎のなかを突っ切ったユリィが手を組み合わせてイーニの頭めがけて振り下ろす。ズゴンという重い音とともにイーニが地面に叩きつけられる。

「いったぁ、やるね」

 イーニは笑顔のまま立ち上がる。ユリィが右脚を突き出した状態でこちらに突っ込んでくる。

 イーニはバク転しながらそれを避ける。ユリィの蹴りは地面を容易く砕いた。

『元素魔法ってやつだよね、さすがの破壊力。五大元素あるいは自然そのものの力は伊達ではないね』

 イーニが拍手する。

「君の両親より全然強いよ!殺しがいが......」

 言い切る前に、目の前が紫の閃光で満たされる。轟く雷鳴。雷の如き一撃がイーニの鳩尾を捉えていた。

 イーニの鳩尾に刺さったユリィの肘は、彼女を瀕死にするには充分であった。

「しゃべるな、お前は......!」

 ユリィの想いが雷となってイーニの身体を焼き焦がす。

「ああああああああ!」

 イーニが苦痛にもがきながら瓦礫に突っ込む。

 ユリィが深く息をつく。まだ終わりじゃない、ユリィは残る力を振り絞って前に進む。

「来るなァ!」

 イーニが叫んで魔力弾を乱射する。ユリィは避けもせずに腕を振ってそれらを弾く。足を、イーニを殺すためにただひたすら動かす。

 イーニの声色は既に恐怖の色が見えている。彼女の目に映っているのはユリィではない。かつて自分が殺したアンペインの王、ヴォルド・アンペインとその妻の姿であった。かつて、たった二人で魔人に挑んだ蛮勇の王が今になって自身に牙をむいたのだ。

 人間ごときがここまでの爆発力を有しているなど、イーニはこれっぽっちも考えていなかった。魔人にとって必然の傲慢さ、それが打ち砕かれれば、そこには恐怖だけが残る。

 ユリィがイーニの前で足を止める。

「お前を殺して、カゾエも殺して両親の仇を取る。それが両親が私を生かしてくれた理由だよ」

 ユリィが手をイーニにかざす。魔法陣が展開され、とてつもないエネルギーが集約されていく。

「はは、私を殺す、カゾエ様も殺す、両親の仇を取る......最高だァ、最高じゃないかァ!」

 イーニの瞳孔が開く。凶悪な魔力が身体から溢れ出す。ユリィが急いで後ろに飛びさする。大きく地面が揺れ、イーニの身体が浮き上がる。

 ただ事ではないのをユリィはすぐに察知した。魔人が人間の底力を想像できなかったように人間もまた、魔人の底力など想像できるはずもなかった。




 詰所の近くで戦っていたレイモンドが立ち昇る凶悪な魔力を目にする。

『あそこはユリィがイーニと交戦していたところ。ユリィ、イーニをあそこまで追い詰めたというのか』

 レイモンドが嬉しいような、悲しいような表情を見せる。周りの兵士たちは凶悪な魔力にあてられて戦意をなくしてしまったらしい。

「無理だ、あんなのに勝てるわけが......」


「魔物一匹倒すのに精一杯な俺たちじゃ、三柱なんて無理だ......」

 兵士たちが口々に呟いて動きを止める。そこへアリスとオウボが駆けてくる。

「レイモンド、サイがやられた。エンスウェードの連中も」

 アリスの言葉は兵士たちの戦意を更に削ぐものだった。反乱軍の要ともいえる戦力の喪失は瞬く間に戦線に伝わってしまった。

瞬く間に魔物が兵士たちを喰らい、八つ裂きにする。

「何やってる、戦え!」


「てめえらの国だろうが!」

 アリスとオウボが魔物を薙ぎ払う。兵士たちも武器を振るうが、精彩を欠いている。レイモンドが苦渋に満ちた表情で呟く。

「ここで諦めるというのか......!」




 ヴィストは詰所の中の一室で震えていた。兵士が当たり前のことのように命を散らす様を目の当たりにして、立ち上がれなくなってしまった。そして感じた凶悪な魔力、もう我々は敗北したのではないか、そう思っていたのだ。

「うぐっ、もう終わりだ......みんな死ぬんだ......」

 弱気な言葉が口から漏れ出る。そんな言葉とは裏腹に身体は立ち上がろうとしている。

「レイモンド......僕はどうすれば、父のような立派な男になれたんだろう」

 反乱軍を興したのはヴィストの父とレイモンドであった。二人はどんな絶望的な状況でも皆を鼓舞し、希望の火を絶やさなかった。自分とは、愛国心をごたごた述べるだけの臆病者とは真逆の英傑であったのだ、父は。

『まだ火は残っている。反乱軍の旗頭であるお前が諦めてどうする』

 父の声が聞こえ、ヴィストは顔を上げる。

 そうだ、父の意思を継ぐものとして、こんな所にみじめったらしくうずくまっていることなど許されない。兵士たちを奮い立たせることができるのはたった一人だけ。

 ヴィストは立ち上がり、部屋を出る。自身の為すべきことを為すために。




 戦意を喪失した反乱軍はただでさえ悪かった状況がさらに悪化している。レイモンドが苦悶の表情で剣を振るう。彼も老兵、レイナやオウボのように派手に動き回れる年齢でもない。

「歳は取りたくないものだ」

 その時、詰所のやぐらによじ登るヴィストが目に入る。

「何をやっとるんだ、あの若造!」

 レイモンドが思わず大声を出す。レイナとオウボもヴィストを見て啞然とする。反乱軍の旗頭が死んだとき、兵士たちの士気は完全に折れるだろう。それだけは絶対に阻止しなければならない。

「何やってる!安全な所へ!」

 レイナが叫ぶが、ヴィストが怒鳴り返す。

「皆が命を懸けているんだ!旗頭が安全な所でぬくぬくしてたら、いい笑い者だ!」

 ヴィストが深呼吸すると、拡声魔法を使用して叫んだ。

「兵士たちよ、ここからが正念場だ!勝利は目前である!幾多の人々が今日まで守り、灯し続けた反乱の火はいま大きな炎となり、この国を覆う邪悪を焼き払うのだ!

 カゾエや三柱にこの国をいいようにされてきた過去を忘れたのか!この国を創り、歩んだ先人たちの想いを、今を生きる者たちを虐げたことを、子供たちが歩むはずだった未来を閉ざしたことを許すのか!」

 脚は震え、恐怖で涙があふれているが、ヴィストは言葉を止めない。

「我々は何のために剣を掲げた!この国の未来を切り拓くためだろう!ここでみすみす希望を逃すというのか?この国の未来を憂うなら、それは許されざること!兵士よ叫べ!勝利のために、未来のために!君たちならやり遂げられると確信している!カゾエを倒すぞォォ!」

 ヴィストがありったけの想いを吐き出す。一瞬の静寂。

 空気を震わすほどの叫び。ヴィストの、原稿もなければ練習もない、純粋な想いが兵士たちの士気を爆発させた。その気迫は魔物も威圧されるほど。

 レイモンドがヴィストを見て微笑む。

「やりおったな、若造」

 レイナとオウボも思わず笑みをこぼす。

「士気が上がった、完璧な演説だ」


「怪我なんて関係ねえ、暴れまくるぜ!」

 ヴィストの演説を機に、反乱軍の大攻勢が始まった。

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