反乱軍の本拠地へ
エリスたち三人は憲兵たちの手によって憲兵隊の詰所の牢に入れられていた。牢屋は薄暗く、ランタンの光が淡く室内を照らしている。
「.......どうするの?捕まっちゃったけど」
ユリィが天井を見上げながら、ため息交じりに尋ねる。ゲジゲジが天井をはいずっているのが目に映る。もう何時間入っているかも分からない。
「どうするも何も、大人しく釈放されるまで待つしかないだろう。牢をぶち破るわけにはいかんしな」
エヴァンもため息交じりに答える。一時の間をおいてエヴァンがエリスに尋ねる。
「三柱、どうだった」
「どうって、とんでもない強さだった。シャリーの姉が変貌した奴とは比べ物にならないぐらいだった」
「そんなにか。この国では反乱の機運が高まっていると聞いたが、そんな化け物を相手にできる戦士がいるのか?」
エヴァンが訝しむがエリスは首を横に振る。
「無理だろうな。あいつ、手加減していたしな」
「え?あれだけやって手加減してたの?」
ユリィが絶句する。エリス相手に手加減する奴など言われるまでもなくヤバい。
「ユーゴさんはあの人たちと戦うつもりだったんだ.......オシグとリシアを連れて」
「融合、ほんとに強いのか?何もできずに死んだら、シャレにならんぞ」
「ユーゴを知っているのか」
牢屋に声が響く。鉄格子ごしに憲兵隊長が立ってこちらを見ている。
「.......憲兵隊長が何の用だ」
「尋問に決まってるだろバカ」
憲兵隊長が牢屋を解錠して扉を開ける。
「三人まとめての尋問だ。出ろ、妙な真似をすれば容赦なく取り押さえる」
憲兵隊長が顎で牢を出るように促す。三人はそれに反抗する理由もなく、大人しく従って牢を出て、憲兵隊長についていく。
「お前たち、ここ出身か?」
「エヴァン君は。私とエリスちゃんは別のところ出身なんです」
ユリィが憲兵隊長の隣に並ぶ。
「おい、隣に並ぶな。立場をわきまえろ」
憲兵隊長がユリィを後ろに押し戻す。
「ご、ごめんなさい」
ユリィは大人しく引き下がる。
「悪い人じゃなさそうなのにね」
ユリィにそう囁かれたエリスが苦笑する。
「ま、まあ仕事だから」
一行はひたすらに地下に下っていく。詰所にしてはかなりの規模と言えるだろう。
十分ほどたっただろうか。一行の行く手を阻むように壁が現れた。
「行き止まりだぞ。道を間違えたのか?」
エヴァンが尋ねるが、憲兵隊長は「黙ってろ」と言い捨てる。憲兵隊長が手を岩肌にあてた瞬間、壁が淡く光り始めた。
「ついて来い」
憲兵隊長が淡く輝く岩肌に向かって突進する。
「え⁉」
三人が驚きの声を上げる。それもそのはず、憲兵隊長の身体は岩肌に吸い込まれていったからだ。
「私たちも行こう」
エリスたちも岩肌に飛び込んでいく。
「して、奴らはどうであった?」
カゾエの問いにイー二が答える。
「まだ何とも。力の底は見えませんでした」
マイニーが続ける。
「戦闘に参加していなかった二人もかなりの魔力量でした。ただの冒険者とは思えません」
「.......反乱軍の隠し玉か」
カゾエが呟く。するとミーニが進言する。
「マイニーが憲兵隊長にマーキングを施しています。今夜にでも奴らのアジトを襲撃できますが」
だがカゾエは首を横に振った。
「まだその時ではない。向こうの旗頭はこちらの手にある。それを反乱軍が奪い取り、士気が最高潮に達したところを叩く」
「終結した反乱軍を一網打尽にできますね」
「手引きはもう済んでるの?」
「こちらの手の者を反乱軍に接触させた。奴らの動きは常に筒抜け」
カゾエが笑みを浮かべながら立ち上がる。
「奴らなど敵ではない、遊びに付き合ってやろうぞ.......だが、『因果』が巡っておる、油断は禁物だ」
「分かっております」
「我ら三柱、カゾエ様のために尽くします」
三人がカゾエの前で跪く。
岩肌の向こうには青空が広がっていた。鳥が悠々と翼を広げ、風を受けている。そばを流れる小川のせせらぎは心を穏やかにしてくれる。
「え.......なにこれ」
ユリィが呆然と辺りを見渡す。詰所の中にこんな空間があるだろうか。
「まるで外にいるみたいだ」
エヴァンが足元の草を撫でる。
「感触も本物だ」
「見て、魚が跳ねたよ!」
ユリィが小川の方を指差して興奮気味に叫ぶ。
「魚か.......そういえばガインたちはクレア先生の知り合いのところへ行くと言っていたな」
「まだついてないんじゃない?普通の馬車だったし、かなり時間かかると思う」
エリスが思い出したかのように言うと、ユリィがすぐに答える。
「いたいた。彼らです。三柱と互角にやりあった人間は」
草を踏みしめる音、話し声にエリスたちが振り返る。こちらに向かってくるのは憲兵隊長、そして腰の曲がったお爺さんだった。後ろに何人かの若者が護衛についている。
「さっきはすまなかった。どこから聞かれているか分からないからね」
ユリィに語りかける憲兵隊長の声色は打って変わって優しくなっている。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私はレイナ・バーニス。ブレイザード王国の憲兵隊の隊長を勤めている」
レイナは一歩後ろに下がると、お爺さんが前に進み出た。
「わしは反乱軍総帥、レイモンドだ。君たちがユーゴの言っていた助っ人かね?」
その言葉にエリスたちがぽかんとする。そしてすぐに顔を寄せ合う。
「どういうことだ?巻き込まれたくなかったらさっさと用事を済ませてブレイザード王国を出ろって言ってたよな」
「勝手に反乱軍に入隊させられてるってことだよね。これマズくない?」
「ユーゴさん、とんでもないことをやってくれたな」
そんなことをひそひそ話していると
「おーいお前ら!やっぱり来てたか!」
うわさをすればなんとやら。ユーゴがこちらに向けて手を振っている。ユリィが駆け寄ってユーゴを地面に押し倒す。
「勝手なこと言いすぎです!国を揺るがす事件に部外者を巻き込むなんて言語道断.......」
ユリィがまくしたてるが、ユーゴは表情を変えずに言い放つ。
「ここに部外者なんていない。エリスは魔族に因縁がある。エヴァンの両親は俺たちに魔道具の支援をしてくれている。お前の里親のデノンも物資や敵の情報などで支援してもらっている。お前が関係なくても知り合いや家族が関わっている」
ユリィが眉をひそめる。
「何で里親だって知ってるの。お父さんは誰にも言ってないって言ってたけど。私プラドラで話したっけ」
「.......いや、話してない」
「じゃあ何で」
「長くなるかの?」
レイモンドが優しい声色で会話に割り込む。二人が何とも言えない空気の中、立ち上がる。
「明日のヴィスト奪還作戦についての会議がある。君たちも参加するかね?」
レイモンドの問いかけにエリスが頷く。
「その前に、この国の状況を詳しく教えてもらえますか」
エリスが訊ねる。
「三柱による人間狩りが激化している、恐らく我々を焚きつけているのだろう。昨日は子供まで処刑された」
「子供が?」
「なんとなく気に入らなかったから、らしい。銀髪の魔人がそう言っておった。そんな理不尽な処刑がずっと続いておる。カゾエと三柱のせいで民衆は毎日を怯えて暮らしておる。税も重く、田舎では餓死者が続出していると聞く」
あまりにもひどい惨状にエリスの表情が険しくなっていく。
「私も魔族とは因縁がある。手伝わせてくれ」
エリスが真剣な眼差しでレイモンドを見つめる。レイモンドは深くうなずき、エリスに向けて手を差し出す。
「君のような強者がいると士気も上がる。我々と共に戦ってくれ」
エリスはその手をがっしりと握手する。




