三柱との邂逅
そこは冒険者ギルドと言うにはいささか荘厳であった。
「すごい、滝がある」
エリスが水しぶきを上げる滝を眺める。エヴァンがふっと笑みを漏らす。
「なかなかすごいじゃないか、金かかってるんだろうな」
「見て、魚が泳いでる。滝登りだ」
ユリィが指をさす。確かに滝の流れに逆らって登ろうとする魚が見える。登ったところで下に落とされるだけだろうが。
「博物館はどこにあるんだ?案内の看板が出ていてもおかしくはないはずだが」
エヴァンが辺りを見渡す。その様子を見たユリィがカウンターを見やる。
「受付のお姉さんに聞いてみようか」
「そっちのが早いな」
エリスも同意してカウンターに歩いて行く。受付嬢が姿勢を正す。
「冒険者ギルドへようこそ。依頼ですか?それとも宿泊ですか?」
「どっちでもないんですけど、博物館ってどこにありますか?」
「申し訳ありません、本日博物館は閉館となっております」
「や、休み?」
受付嬢の言葉にユリィが肩を落とす。
「ざんねんだなぁ、ありがとうございます」
ユリィが礼を言ってその場を去ろうとしたとき、カウンターの後ろの扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「デノンさん、例の素材の件、冒険者ギルドにお任せください」
「こちらこそお願いします」
ドアが開き、ユリィにとって見覚えのある人物が出てきた。ユリィが思わず大声を出す。
「お父さん!」
お父さんと呼ばれたデノンがユリィを見て驚愕する。
「ユリィちゃん⁉」
男がユリィに駆け寄る。
「どうしてここに?学校は?」
「それが.......」
ユリィが目を逸らす。そのばつの悪そうな顔を見たデノンが首を傾げる。
「じょ、除籍になっちゃった.......」
「.......うちの優秀なエリスちゃんが?いや確かにエンスウェード王国では冒険者は軽視されているけども、何の通知もなしに除籍は.......」
デノンが困惑していると、エリスとエヴァンがユリィの後ろに立つ。
「その件につきましては、我々の方から説明があります」
デノンが訝しげにエリスとエヴァンを見る。
「君たちは?」
エリスたちはギルドマスターの計らいで応接室に入れてもらっていた。そこでエリスとエヴァンはことの顛末をデノンに語った。
「なるほど、君たちも全く面倒なことに巻き込まれたな」
デノンが呆れたように言う。
「ま、これで済んだだけマシだろう。どうする?別の国の冒険者学校に通うか?」
デノンがユリィの方を向いて言う。
「へっ?別の冒険者学校?」
「ああ、何ならブレイザード王国の冒険者学校に行ってもいいんだぞ」
ユリィがチラっとエリスとエヴァンを見る。
「他のみんなは退学になったのに.......」
「むう.......ここは嫌か。かくいう私も通わせたくないしな」
デノンの発言にユリィが首を傾げる。
「どういう事?」
「気にするな。それよりも何か用事があるからだろう?わざわざブレイザード王国まで追いかけてきたのは」
「ううん、除籍になったことを伝えに来た。ただそれだけ。商談が終わるまで一緒に居たいんだけど.......」
「用が済んだのならすぐに帰りなさい」
デノンがユリィに言い放つ。
「屋敷に使用人たちはいるだろう?問題なく生活できるはずだ」
「今来たばっかりなのに帰るなんてやだ!どうしてもならお父さんとお母さんと一緒じゃなきゃやだ!」
ユリィが頬を膨らませて憤慨する。エリスとエヴァンは困ったように顔を見合わせる。赤の他人の親子喧嘩はごめんである。
「.......今日はいてもいいから明日エンスウェード王国に帰るように。父さんとの約束だぞ」
デノンの言葉を受けたユリィが渋々頷く。実に不服そうだ。傍観者のエリスとエヴァンにもそれがひしひしと伝わってくる。
「母さんは迎賓館にいる。顔を出すと良い、多分喜ぶだろう」
デノンが立ち上がる。
「えーと、エリス君とエヴァン君だったかね?君たちはどうする?私の部下ということにして部屋を手配しようか?」
「私は大丈夫です。実家に泊まりますので。エリスに部屋を手配してやってください」
「え」
エリスが口をはさむ前にデノンが頷いて席を離れる。
「分かった。迎賓館はギルドの向かいにある。晩御飯はどうする」
「エヴァンの家でごちそうになります」
「分かった」
デノンが部屋から出ていく。
「明日エンスウェード王国に戻る事になったな」
エヴァンが言うと、ユリィが頭を抱えて机に突っ伏す。エリスがユリィの肩に手を置く。
「仕方ないさ。今日は目一杯ブレイザードを楽しもう」
エリスの提案にユリィが頭を上げる。
「そうだね、わがまま言って困らせたくはないしね」
ユリィが気持ちを切り替えて立ち上がる。三人は連れ立って応接間を後にし、従業員専用口からエントランスに出た。
「だから!この依頼を受けさせろって言ってんだよ!」
突如響き渡った怒号に冒険者たちがびくっとして声の出所を見る。
「な、なによいきなり」
ユリィもエリスの陰に隠れながら怒号の主を見る。見るからにガラの悪い冒険者四人組が受付の男に詰め寄っている。
「プラドラといい、ごろつきばっかりじゃないか」
「オウボだっけか?出会ったごろつきはあいつぐらいだろ」
エリスとエヴァンが交わす会話を聞いていたユリィや周りの冒険者たちの顔がみるみるうちに青ざめていく。
「あいつよりかはマシだが.......ん?」
エヴァンが異様な気配を察知して口を閉じる。エリスも表面には出さないものの、戦闘態勢を取る。
「てめえら、誰がごろつきだって?」
リーダー格の男がこちらに声を掛ける。
「別に何も言ってないが」
エヴァンがしらを切ると、男は激昂してまた怒声を浴びせる。
「とぼけんじゃねえぞガキ!」
「別にお前たちに言った訳じゃない。それとも何だ、自分たちがごろつきだって自覚があるのか?」
「何で挑発するのおバカ!」
ユリィがエヴァンの服の裾を思いっきり引っ張る。
「.......ロザミア、身体強化魔法をかけろ」
「ちょ、本気かい?相手はガキ.......」
「ガキだからこそだ。俺たちBランクパーティーがどれだけ恐ろしいか、叩き込んでやる」
男が腰の剣をベルトから抜いて構える。
「お前らも!」
二人の男が弓と斧を構える。斧はカバーを付けたままだ。
「死なない程度に痛めつけろ」
エリスとエヴァンが魔力をたぎらせる。
「建物への被害は最小限に抑えろ」
「分かってる、ユリィはギルドの責任者を呼んできてくれ」
「うん」
ユリィが従業員専用口に行こうとした瞬間、そこからギルドマスターが出てきた。
「うちで暴れるな!尻ぬぐいは俺がするんだぞ!」
至極もっともな注意が飛ぶ。
「それがギルドマスターの仕事だろうが!」
だが男はギルドマスターの忠告に構うことなく剣をエリスに振り下ろす。
エリスはそれを避けると男の顔面を蹴りつける。男は軽く四、五メートル吹っ飛んでいく。エヴァンも振り下ろされる斧を避け、弓使いを殴り飛ばす。
騒ぎを聞きつけた野次馬たちが集まってくる。その中にはデノンの姿も見える。
支援魔法をかけた女がユリィに近づいていく。
「あんたは戦わないの?」
「わ、私は.......」
ユリィが言葉に詰まる。
「おんぶにだっこなんだね、情けない」
女はあざ笑うように言う。
「良い?後方支援だからって強くならなくていい訳じゃないのよ」
女の構えた杖の先に紫の魔法陣が出現する。ユリィはそれを真っ直ぐに見つめる。
「.......わかってるよ」
ユリィがオウボと対戦した際の記憶を呼び起こす。目を瞑って己の魔力を静かに、限界を超越するほどに高める。
突風が吹き上げ、人々がどよめく。ユリィの身体から紫電が迸る。
「はっ!」
紫のオーラがと稲妻がユリィを包む。
「ユリィの奴、完全に元素魔法をモノにしたのか」
エヴァンが啞然とする。
「あ、あれがユリィ?ま、まさか.......」
デノンがわなわな震えだしたかと思いきや、どこかへ駆け出した。
ユリィの拳が女の鳩尾に突き刺さる。
「お、おい、どうなってるんだ」
男たちが後ずさりする。ユリィが指先から稲妻を放ち、三人を一瞬でダウンさせる。
ユリィが元の状態に戻る。エリスとエヴァンが駆け寄っていく。
「すごいじゃないか、完璧だよ」
「たった一日でマスターするとは、センスの塊だな」
「え、えへへ、そうかな」
ユリィが照れながら体をぐにゃぐにゃ曲げる。とその時、ギルドに武装した集団がなだれ込んできた。
「憲兵だ、全員そこを動くな!」
あっという間に憲兵たちがエリスたちを取り囲む。憲兵隊の隊長が前に進み出る。
「騒ぎを起こしたのは貴様らか。留置場に連行する、いいな」
赤毛に赤い瞳、頬に十字の古傷が見えるなかなか勇猛な雰囲気を感じる女性だ。
「先に吹っ掛けてきたのはあいつらだ」
エヴァンが床に転がっているごろつきを指さす。
「ギルド本部で暴れたことが問題だと言ってるんだ.......」
次の瞬間、轟音と共に天井が崩壊した。
「な、何だ!総員、警戒しろ!」
憲兵隊長が剣を抜きはらう。土煙の中に三つの影が見える。
「ふーん、思ったとうりイケそうじゃん」
土煙が晴れ、影の正体が現れる。
真ん中の銀髪の女が首を鳴らす。
「特に真ん中の子」
指さす先にはエリスがいる。
「三柱、今は我々の管轄だ!立ち去れ!」
憲兵隊長が怒鳴るが。
「黙れ。我々の裁量が絶対だ」
右の金髪の男が憲兵隊長を蹴り飛ばす。
「近々エンスウェードとの合同演習があるんでしょう?余り無理はなさらない方が良いかと」
吹っ飛んだ憲兵隊長を黒髪ロングの女が抱え起こす。
「たくらみ事もあるようですし」
憲兵隊長の耳元で妖しく囁く。
「こいつらがユーゴの言っていた奴か」
「間違いなくこいつらだ」
エヴァンとエリスが警戒する。野次馬が悲鳴を上げて逃げ出す。




