「伴死」と荒野のゾンビパニック!
「"病"斬り、蹴り!」
「ガァアッ! ギャアース!」
熱風ふきすさぶ、ヤミヤミ星の荒野地帯。
協会のシスター「伴死」が繰り出した渾身のカミソリパンチならぬオーバーヘッドキックに、狂龍枝人は蹴っ飛ばされた。
枝人は群れの何匹かに突っ込み、揃ってギャアギャアと喚き立てる。
片目隠しの前髪を翻して、着地した伴死の背後から、別の枝人が躍りかかる。
だが、伴死は既にビームの針を構えて、
「病魔、根絶」
「ガアッ!」
「"かんざし"!」
「ゲッ! ギエエッ!」
振り向きざまに投げ放たれたビームが槍となり、枝人を空に縫い止める。
理性を持たないながらも、先人の末路に怯む狂龍の円陣。その隙に「伴死」はビームの鞘から無形之太刀を抜き放つ。
「レクトルージョン。周断ち」
「ギャギッ……ガガアーッ!」
「絶滅……しろや~っ!」
危機を感じて、一斉に襲いかかる狂龍枝人。そのツメやキバが届く前に、太刀のひと薙ぎが閃いた。
次々次々と病滅爆炎が噴き上がり、肩出しのケープが闇の炎に照らされる。
すぐに炎は失せ消えて、豊かな胸の袖無しミニスカ巫女は、ビームの太刀を閉じ消した。
そして、しかめ面で吐き捨てる。
「……クソったれが!」
枯れ木で作ったような龍人、枝人は生まれながらの病魔ではない。
彼らは龍化病魔に冒された人間だ。病魔同化の最終段階として、ヤミヤミの住民は、みな死ねば消え散る病魔の仲間にされたのだ。
病魔に沈んだ星……弔いすら不可能となった住民たちの姿は、ヤミヤミの現状の縮図だった。
「んっ……?」
「……ォオオオ」
伴死の尖り耳が、何か唸り声を聞きつけた。
声の方角へ目を白く眩かせると、ピンク髪の隙間で驚愕に見開く。
すぐに声の主は肉薄し、その巨大な牙を閃かせた。
「ギャオ~ッ! 協会のゴミめが!」
「新手!? クッ」
「死に散らせっ。高速突進!」
ガガァアン! 雷のような轟音を立てて、虎の顔と咄嗟のソバットが激突する。
新たな敵は虎型の龍、病魔異星獣アンドモーン魔虎龍だ。
「病斬りブロー!」
「フンッ! 牙によるパンチがえし!」
「何っ!? うあ!」
足を引くと同時に繰り出されたパンチに、魔虎は器用に顔を動かして、返し技を発動する。
複数の斬響音が轟き、両者は弾かれあって、仕切り直した。
「キバ岩すくい! なだれ岩なげ!」
「ぎゃっ! 岩砂が目に!」
間合いを詰めようとする伴死へ、岩土砂の鉄砲が降りかかる。
魔虎が次の攻撃のために、再び地面に牙を刺し入れた。
「隙だらけや! "距離"斬り!」
「が!? しまった、抜けない!」
その隙に伴死は急いで距離を切り落とし、魔虎の頭上に背中を向けて、パッと現れる。
当然の欲求として迎撃をしたい魔虎だが、既に岩土砂をくわえた彼の頭は、180度真逆に回るようには出来ていない。伴死の拳に手のひらが食いつき、
「"病"斬り付与、肘おとし!」
「ゴバッ! ガガゲボ~ッ!」
後頭部に肘鉄を食らわされて、魔虎が口の中の土砂を全部はきだす。
反動で弾かれた「伴死」は苦もなく着地後、手刀を構えて走り出した。
「ピヨピヨ、ピヨピヨ……」
「病滅一閃!」
「ぎゃあ、やられた~っ!」
伴死がすれ違いざまに手刀を滑らせると、ビーム斬撃の軌跡が伸びる。
ボトリと落ちた虎の頭は、叫びながらチリとなって爆発した。
ふうっ、と手刀を振るって息をついた伴死の元に、白髪を伸ばした女の子が駆け寄る。
ドロまみれのボロ服で泣き腫らした顔の彼女は、ワルシャール。ヤミヤミの住民、唯一の生存者だ。
伴死は急いで柔らかな笑顔を作り、手を広げてしゃがみ込んだ。
「おいで。もう大丈夫よ、お姉さんが……」
「お姉ちゃん! まさか魔虎龍まで倒すなんて。いよいよキサマに、正体を明かす時が来たようだッ!」
「何!? あッ──」
伴死が耳を疑い、シャーリィの体が走りながらに、急激に膨れ上がっていく。
そして次の瞬間、伴死は白い毛むくじゃらの、丸太よりも太い巨腕にブッ殴り飛ばされた。
「ぐっ!? がはっ!」
「ハ~ハハハハ! ピッチャーゴロだっ。オレのお友だちが世話になったな、協会のクソアマ!」
崖に激突し、岩なだれに消える伴死の姿。
病魔の首魁、リガンド魔猿龍が、山のような巨体を揺すって笑った。
「う、うぅ……」
「死ね! 病魔感染ビーム!」
「クッ。アホ猿があ! ぐあ~っ!」
うめきながら瓦礫をどかして、何とか立ち上がる伴死。彼女へ向けて容赦なく、魔猿は口からの病魔化ビームを連射した。
最後に吠えるも、すぐにビームの釘を何度も打たれるシスター「伴死」。誰がどう見ても、彼女の死は明らかだった。
「は~はははは! やったぞ、オレの天下だ! 次は協会のブリオッシュ、その次は別の星っ。遥か遠くの地球まで、全ての自我を塗り潰して支配してやる~ッ!」
「──おい、アホ猿」
「アア!? 誰だあ、尊い支配者たるオレ様を、アホ呼ばわりするクソアホバキャはア!?」
頭を振り回して、口をガン開きに怒鳴り散らす魔猿。
崖の白煙向こうから、鉄の槍が神速で飛び出し、山のような魔猿の胸を貫いた。
「はっ!? ……ガハア~!」
「テメエには無理だ。アホンだらぁ」
「うがあっ。き、キサマ……バカな!」
槍が風切り音を立てて収縮し、白煙を切り裂いて振るわれる。
瓦礫を掴んで、出てきた伴死の腰の後ろから、伸びたつ鉄の槍──鋼鉄龍の尾太刀が魔猿の赤目を見開かせた。
「馬鹿な! 克服したのかっ。ありえない!」
「病さえも殺さず手に取り、己の武器とする。支配とは、こういうもんや。マヌケ猿」
「ぬあ~ッ。黙れ! シスターの分際で、我に病魔の真理を説くな!」
豪腕に病のオーラをまとい、巨大丸太のビーム武器を形成するリガンドワールヤリー。世界樹も、かくやと言うほどの巨大な武器は、彼の病魔としてのレベルも表していた。
伴死は鋼鉄の骨を背中から生やし、カーボンの皮膜を張って広げた。
鋼鉄龍の翼太刀は伸びる尾と同様に、飛び立った「伴死」の意のままに振るわれ、空中で何度もビーム丸太を切りつける。
素早い伴死のチャンバラに、魔猿は痺れを切らして丸太を叩きつけ、両手を握り振り回した。
「うわ~っ! 鬱陶しいハエがっ。ブンブン、ブンブン、うるせ~んだよォ~ッ!」
「せやね。僕も合わんと思う。ほな、消すな?」
「──スカッ! あらっ?」
唐突に翼と尾が消え、空中で急停止する伴死。勢い止められずに空振った魔猿には、彼の腕を蹴るシスターの動きを止められない。
弾丸のように跳びだした伴死は、空中で太刀を展開し、
「死ねや、病魔! 周断ち!」
「──ごほっ。そんな~!」
ずばん、と浮かされ絶叫する魔猿龍の首。その頭は落石のように陸に落ち、残った体が怒りと屈辱にわななき、腕を振り上げた。
一方、膝立ちでスライディング着地をきめた伴死は、振り向き様に手刀を突き出し、
「ぬああああっ! 舐めるな、病魔は不滅なりィ!」
「終われや、悪モン! 我の手突きは太刀なりて!」
「ズババババッ!? ぐわ~っ! 消滅!」
首なし魔猿の暴れる巨体は、内から出てくる何本ものクソデカ太刀のビームに貫かれた。
特大の病魔爆滅炎が噴き上がり、白煙が荒野に吹き荒れる。
煙が引いた空を見上げると、伴死は翼と尾を出した。
「ふう……"視える"な。魂まで絡んで、龍になっとるのが」
感覚の目で視れば、一目瞭然。彼女の体……いや魂までもが龍化の感染型病魔に冒されている。
克服したゆえ強力な武器にはなるが、感染型なんて爆弾、いつまでも抱えるわけにはいかない。伴死の目隠れ前髪が熱風にはためき、彼女は胸に手を当てた。
「これで終いや。"病"斬り」
ズバン、と不可視の剣閃がはしり、龍の翼と尾が散り消える。
これで荒野の惨劇は終わった。伴死は助けられなかった命に歯を食いしばり、心に怒りを残して、病み上がりの荒野を飛び立った。