表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

pocketの短編集

『桜の唄』

作者: Pocket12

 僕らの町には魔法使いがいて、ソイツはいつも気怠げに町を彷徨っている。


 僕が高校に進学した春、ソイツは桜の木陰で微睡んでいた。


「何をしてるの?」と僕が訊くと、ソイツは笑って言った。「桜の唄を聴いているのさ」

「桜の歌?」

「君も聴いてみるといい」


 僕はソイツの隣で耳を澄ませてみた。風の音以外は何も聴こえなかった。


「なら君はまだ子どもってことさ」

「大人なら聴こえるの?」

「大体はね」と魔法使いは微睡みながら言った。


 大学に進学したのを機に僕は町を出た。


 それから何年も帰らなかったけれど、姉が結婚するというので久しぶりに戻ってきた。


 街は何も変わらない。まるで魔法にかかったみたいだと思って、ふいにソイツのことを思い出した。


 魔法使いはあいかわらず桜の木陰で微睡んでいた。


「また桜の歌を聴いてるの?」

「ああ、君も聴いてみるといい」


 僕は魔法使いの隣で耳を澄ませてみた。


 でもやっぱり風の音以外は何も聴こえなかった。


「なら君はもう大人ってことさ」

「おかしいな、前は聴こえたら大人だって言ってたぜ?」

「そうだったかな」と魔法使いは微笑んだ。

「そうだよ」と僕は肩をすくめた。


「——なら大人も子どもも一緒ってことさ」


 桜の木陰で魔法使いは微睡み続けていた。



(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ