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ありふれた結末

「こちらになります」


 アルクス村の商人が差し出したのは木箱に収納された髪飾りだ。この木箱自体、それなりの値打ちがつくものだろう。

 中身の髪飾りは、東洋の作りで光沢のある黒い輝き、花を模した鮮やかな装飾が美麗な好事家垂涎の一品だろう。そして間違いなく見覚えのあるものだった。


「この商品の本来の持ち主を知っている。その男は妻の形見と言っていてな。金に困ったからと言って手放すはずは絶対にないものだ。盗品というのは知っていて、お前はこの商品を扱っているのか?」

「さて、私としましては正当な取引によって得たもので。それが盗品と言われましても、そもそもその方とはどういうお付き合いなのでしょうか? 本当にあなた様とお知り合いなのですか?」


 なるほど。人の手を渡ることによって本当に事情を知らぬ間に商品を仕入れた可能性もあるだろう。あるいは、盗賊と直接取引をして何食わぬ顔で売り捌いているか。こちらの予想としては後者であり、中々に強かな商人である。

 提示された金額は予想の二十倍である。目的自体はすでに果たしてはいるが……。


※※※


 確かカンザシと言ったこの髪飾りは、サイモンの妻の形見と言っていたものだ。どんなことがあろうともこれを売り払うことなどあり得ない。

 そして、ワシが直接、買いつけに出向くという情報を流し仲買の介入を抑えた。直接の取引があるならそちらのほうが儲かる、と盗賊との取引を横行しているような商人であれば計算するだろう。

 さて、後は盗賊から話を聞ければよいのだが。と考えていたがどうやら既に討伐されていたらしい。

 不自然ではあった。捕縛ではなく惨殺であり、血の跡も死体も片づけずにそのままだ。まるで獣にでも襲撃されたか。かと思えば鋭い刃物で切り付けられたような死体もある。まあ、盗賊の末路になど興味はないし、どうでもよい。


「……」


 野ざらしにされた死体の中に、東洋の仕立ての服が見えた。顔はすでに判別は出来ぬ程度に腐っているが。

 ありふれていることである。行商が儲けるコツはリスクに踏み込むことである。護衛を雇う金、宿に泊まる金、装備を整える金、それらが全て損失である。行商というのはいかに命を金に換えられるかというのが本質だ。


「……そうか」


 ワシにも行商の経験はある。あったかもしれぬ未来だった。奴は耐えられなかった。だがワシは生き抜いた。ただそれだけの事。



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