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三女トウカ

 アルクス村の宿に一泊することにした深夜。ふと目が覚める。


「……何者だ?」


 腹に一突き。正確に急所を狙った短刀での一撃……といったところか。なるほど並みの商人であればこれで死んでいただろうな。


「……お前の仕業か、トウカ」

「あれ? しんでない……?」


 腹の上にまたがり、不思議そうに見下ろすトウカである。

 さて、どうしたものか。刺客であればこのまま返り討ちにしてやってもいいが……。


「……」

「何だ? 何か迷いでもあるのか」

「……おっさんころしたら、あきな、かなしむ?」


 いや、何だこの娘は。


「それはそうだろうな」

「んー。そう……そう……なら、やめたほうがいい?」

「……お前、暗殺者に向いていないな」

「ん。しょうじきこまる。かえれない」

ワシを殺そうとした者にかける情けなどないというのに。その細首を掴んで始末してしまえば面倒はない。

 それは分かっている。だが……惜しいな。


「ワシならば、お前をもっと真っ当な生き方をさせてやれる。お前が選ぶべき生き方を選ばせてやれる」


 どんな生き方をたどってきたのかはわからんが、少なくともコイツに暗殺術を教えた何者かがいるのだろう。そいつは、この暗殺者になどまるで向いていない娘に暗殺を教え、それしか生き方がないと教え込んだ。

 良心の呵責で言っているのではない。この娘は原石だろう。隠れている才能を引き出してやれば利益を生む。そう確信したのだ。


「……よくわからん」

「そうか? だが迷っているのではないか。どちらにせよお前はワシを殺せはしない。ワシの娘として生きた方が得だぞ」

「……アキナともいられる?」

「ああ」


 トウカはじっと考え込んでいた。やがて、耳をぴょこぴょこと動かす。


「じゃあそうする」

「そうかではワシのことはこれから父と呼べ」

「わかった。ちち」


 とらえどころのない娘だな本当に。


「一応言っておくが、ワシを殺そうとしたことをアキナ……いや誰にも言うなよ」

「なんで?」

「面倒だからだ。ワシは別に過去の因縁など別に気にはしないがそれを他人に強要しようとも思わん。いいから言うとおりに黙っておけ悪いようにはならん」

「んー……わかった。よろしく。ちち」


 こうしてワシを狙っていた暗殺者、トウカもワシの娘となった。アキナに翌日伝えると大層喜び、帰りの馬車で二人寄り添って眠っていた。


「……さて、魔王軍、か」


 ワシにトウカを刺客として送り付けてきたのはその関係者だろう。

 振り払う火の粉は払う、程度に考えていたが一度滅ぼしてやった方がいいだろうな。

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